八話 [双子録]魔王と交渉(おはなし)
「今日はこの辺りにしておこうか」
少し開けた森の中で俺は2人にそう言って腰を落ち着かせた。
昼の戦闘以降は何事も無く森の中を進むことが出来た。
とはいえ戦闘に慣れてるわけなんてなく、昼からずっと疲労感に襲われているわけだ。
いやマジでしんどい、やっと辺りも暗くなってきたもんだからようやく休憩に入れるってものだ。
2人も疲れたんだろう、先程から眠そうな顔をしている。
俺は2人をそのまま休ませ、そそくさと晩飯と就寝の準備を進める。
疲れてるからか大した話もせずに晩飯を済ませ、2人はテントの中に入っていった。
まぁ今日はぐっすり眠れるだろう、と思いながらご飯用に付けた火に木をくべる。
さて、夜の本番はここからだ。
3人ぐっすりのところに魔物でも襲いかかってきたらたまったものでは無い。
火を見つめながら昨日今日のこと、そして明日のことについてぼ〜っと考えていた。
いやほんと今後のことが心配過ぎて仕方がない。
なんせ街に魔物なり魔王なり出たら騒ぎどころの問題ではなくなってしまう。
姿などはフード付きの服などで誤魔化すとして……
などと耽っていると、後ろのテントからゴソゴソと音がした。
後ろを振り返ると、ノラが目を擦りながら這いずり出てきた。
「なんだ、眠れないのか?」
と声をかけると
「あんたが一向に入ってこないから心配になったんじゃん」
と返ってきた。
「なんだ?俺の心配でもしてくれてるのか?」
「ええ、あなたがいなけりゃ勇者になれないじゃない」
「ちっ、そういう心配かよ」
「何を期待してたのよ?」
と他愛ない会話が続いていく。
そこでふと気になったことを聞いてみた。
「今日の昼のことなんだけどさ、魔法…打ってたよな?」
「うん、まだまだ弱いのしか覚えてないんだけどね。
お父様が教えてくれたの。」
「そうか…いやなに、俺も魔法覚えたいなって」
「いいじゃん、便利だし強いし、何より魔法使いはパーティに1人は欲しいしね〜」
ととても楽しそうに話している。
「そんなに必要なものか?魔法使いって」
「うん、私の『ゆうしゃりょこう』には必要不可欠ね!
まずは勇者でしょ〜、戦士に魔法使い、武闘家とか〜、それとそれとみんなが入れる馬車も欲しいわね!」
「何に感化されてそうなってんだ…
だがまぁ、楽しそうだなそれは」
「でしょ!
アキはなんで魔法を覚えたいの?」
「いやまぁ、今日みたいなのがずっとこれから続くんなら、強くなるに越したことはないかなって
アナも戦闘員じゃないし、守り抜くには強くならなきゃなって」
「なるほどね〜
ん〜〜…、じゃあ無事に冒険者登録が済んだら教えてあげるわ!」
と、なんとも嬉しい答えが返ってきた。
「はっ、そりゃあ頑張らねぇとな」
そう呟いて、また火に木をくべる。
こういう何気ない会話が気を安らげるというものか。
まぁ明日もまた忙しくなるんだろうなぁとぼんやりとすっかり暗くなった空を眺めていた。