五話 [双子録] 初敵との邂逅
(初めて大きい旅に出る。
村を出たことはあってもそこまで遠出したことがないので割と楽しみだったりはする。
まぁそんなことを口にすればノラが絶対に調子に乗るから言わないんだが。
ともあれ、せっかくの長旅なんだし、楽しまなければ損だよな。)
と、アキは不安はあったものの、少し心を弾ませながら歩みを進めている。
今は村を出て森の中に入り、2~3時間程たった所で今の所は大した問題もおきてはない。
唯一問題なのは
「あそこに生えてるの何?食べてみたい!」
とか
「きゃぁあ!なんか気持ち悪いのいる!?!?」
だったりと、事あるごとに反応する魔王様がいるので、止めに行ったり何なりとでまともな旅にもなりゃしない。
というか虫にビビってる魔王って……
アナは毎度ノラをなだめたり、時にはお互い楽しそうに話をしている。
女性同士話しやすかったりするのだろう。
ノラはたびたび俺に悪がらみをしてくる。
正直めっちゃうざい、すごいうざい。
そんなことを考えていると、少し開けた場所に出た。
時刻は昼に差し掛かった所だし、ちょうどいいだろう。
「いったんここで飯休憩するか。」
と二人に言い、そそくさとご飯の用意をする。
飯を作るためにいろいろな道具が必要なのだが、本当に便利なものがたくさんある。
この世界には魔法という概念が存在する。
本来生まれ持っている才能がないと使えないらしいのだが、魔法を宿した道具であれば別の話。
何もないところから火を起こすことが出来たりと、魔法が使えない一般人にはとても助かるのだ。
ノラは『一応』魔王なんだし魔法が使えるのでは?と思ったこともあったが期待はしない。
万が一森で火事でも起きてしまえば大惨事だ。
そんな事を考えながら作業を進めていく。
火を起こし、鍋と水を用意して具材を煮詰めていく。
今から作るのはシチューだ。
材料を突っ込んで煮込むだけで簡単に作ることが出来る。
そんなこんなで出来上がったところで、「ぐるるる……」と後ろから奇妙な音が聞こえてきた。
「なんだノラ?
そんなに腹が減ってるのか」
と笑いながら聞くと
「わたし鳴らしてないし!!」
と怒られてしまった。
アナも
「私たち二人とも鳴らしてないよ?
そんなこと言って、どうせアキ兄でしょ~」
と言われる始末。
もちろん自分ではないし、二人は違うと言ってきた。
だとするとどこから………と考えているとまた同じような音が聞こえてきた。
しかしさっきとは別の方向から。
だけどお腹の鳴る音よりも少し低く、まるで獣の唸り声のような……
だが時すでに遅く、あたりを見渡すと魔物に囲まれていた。
「くそっ!
食い物の匂いに釣られてきやがった!」
俺はそう毒づき、戦闘の準備を整える。
二人のほうは大丈夫かと目を向けると、ノラが目線に気付いたのかこちらを見やり
「あら、心配してくれるの?
でもわたしは大丈夫よ。
あなたはアナの心配でもしていなさい。」
となんとも心強い言葉で返された。
なにはともあれ旅に出て初めての戦闘だ。
気を引き締めていかねば…と両ほほをたたき敵と戦闘を開始する。