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7/10

王城での鬼ごっこ、死にそうだった

《注意》

・文章力は皆無です。おそらく問題点だらけなため、そういったことがあればご指摘をお願いします。

・私がルルブしか持っていない+独自解釈を大量に用いているためもしかしたら矛盾点などが見つかる

可能性が大です。その場合はこの物語はこういったものなんだと思っていただければ幸いです。


以上のことに納得してもらえた人はどうぞゆっくりしていってください。

壮馬は牢とは違う別の、普通の部屋と思しき場所で目が覚める。

ベッドと机だけの質素な部屋。窓は開きっぱなしになっており、冷たい風が吹きつける。

「おー、さみさみ」

窓を閉め、伸びをして朝が来たことを実感する。ずっと薄暗い牢にはないすっきりとした気分になる。

「いやぁ、牢から出れてよかったよかった。あと12日かぁ、何をしようか...」


殺人鬼を捕まえた対価...という建前により王城の中のみの自由を得た壮馬。

よく見ると机の上にパンとスープが一つ。スープから湯気が立ち上っていることからまだ時間も経っていないだろうと思う。

「ふむ...誰か置いてくれたんかな。ほぼ何もしてないのに悪いねぇ」

「起きたか?壮馬」

そう言いながら扉を開けて入ってきたのは蒼髪のポニーテール騎士、ニーナだ。

「お前何しに来たん?もしかしてこれ作ったのおま......いや違うな、すまん」

「何がすまんなんだ!?お前、私を馬鹿にしすぎだろ!朝ごはんぐらい作れるわ!」

「そんなことはどうでもいい、とにかく手鏡をくれ」

「この十数秒でお前に対する殺意が限界近くまで膨れ上がったんだがどうすればいい?」

「殺さないでください」(真顔

「...で、手鏡で何するつもりだ」

「ケガの痕が残ってないか確かめておきたい」

「はぁ...しょうがない、とってきてやろう」

やれやれといった感じで部屋を出て行くニーナ。

壮馬はそれを確認すると凄まじい勢いでスープを飲み干し、パンを10秒で食べて部屋を出て行く。

口元にあ、これ何か悪いことしそうだな...的な笑みを浮かべながら。



適当に王城内を散策し、思ったこと。

だだっ広いね、ここ。

もう鬼ごっこできるレベルだよ、と思いながら3階に上がっていく。

適当な部屋をノックしてから開けて、目的の物がないか調べて行く(大体は中の人が開けてくれないが)。

そして最後の部屋、開けるとそこは一面鏡張りの奇妙な部屋だった。

壁だけでなく、天井や果ては床も綺麗な鏡でできている。

「すっげぇな、これ。儀式とかに使うんかな、平衡感覚とか狂いそうだけど。ま、それはそれとして...」

そう言いながら壮馬は壁のガラスに近づき、悪い笑顔のまま短く詠唱を始める。

「※□◇#△!$♪×¥●...っと」



一方そのころ。


「くそ...あいつどこに行ったのだ...」

行方不明になった壮馬を探しているニーナ。

聞き込みをするも、全員から目撃証言がとれたのにもかかわらず、誰もどこに行ったかは分からなかった。

「私が戻るのが遅かったから自分で鏡を探しに行ったのか?」

と、そう言いながらふと鏡を覗くと。


最初はふよふよとした何かが映る。

しかし、それはすぐにはっきりとした形を取り始める。


...探している人物そっくりの姿へと。

それはこちらを真っすぐに鏡の中から見据えている、瞬きをするとそれが変わり、今度は自身の後ろから自分を見ているのだ。

恐怖感に駆られて後ろを振り向いてもそこには何もない。いつもの王城である。

そして...それは一言。

「オマエヲミテイルゾ」


その瞬間、王城に悲鳴が轟いた。



そして...その犯人である少年は鏡の部屋で笑い転げていた。

「あっははははは!い、今のやべぇ...!」

呪文《タールクン・ホテプの鏡》。

対象を思い浮かべながら鏡に向かって詠唱すると対象が鏡面を見たときに自分の姿を投影できる呪文。

習得したはいいもののどう使っていいのか分からずに忘れかけていたが、まさかこんな楽しい呪文だったとは。

相手が鏡面を見る前に集中力が切れると発動しないため、わざわざ手鏡を持ってこさせたかいがあった。

ちなみに、術者は呪文をかけている鏡から対象が見えるようになっているため、縮こまってプルプルしているニーナの様子が見えている。


「はぁー、笑った笑った。次はなんて言って脅かそうかな...」

とかなんとか言っていると扉の窓が開けられる。

「......そこで何をしてるんです?」


振り向くとそこにはメイド服の女性が立っていた。

ショートカットの茶色の髪をしており、ニーナより一回り小さい。

そのたたずまいはコスプレでやってるとかそういうのじゃなく。あ、本物だ、と確信できるようなものであった。


「あぁ、すまん。なんか知らんけど、すぐ出て行くよ」

そう言って出て行こうとする壮馬の耳にある言葉が飛び込んでくる。

「無理です、この部屋に入った者は誰であっても殺せと言われています」

「.........なんて?」

「殺せ...と言われています」

ジャキンという音と共に取り出されたのは二つのハサミだ。

目の前のメイドはどこからどう見ても完全な臨戦態勢になっていた。

「............待って待って待って待って待って!?」

壮馬の脳裏によぎったのは前回のニーナとの決闘。

とてつもなく恐ろしい気配がしたのも束の間、超絶回転を加えられたハサミが顔面めがけて投擲される。

「ッ!?!?!?」

寸前で避けたはずなのに、風圧で足が浮きかける。

壁に激突し、壁の鏡は粉々に粉砕される。

壁に突き刺さったはずなのに、そのハサミは回転を止める気配が無く、更に壁を掘り進んでいく。

「......避けますか、ニーナが苦戦するのも分かりますね」

「俺は何一つ分からん!?なんだ今のバカげた威力!?当たったら消し飛ぶぞ!?」

「消し飛ばす勢いでやってますから」

「シャレにならんぞ!?って...」

そこまで言って目が行ったのは周りと同じく鏡張りになっている床。

.........白だ。


「死ッ!」

「あああああぁぁぁぁぁ!!!!ごめんなさいいいいいいぃぃぃ!!!」

絶叫しながらも大仰に横っ飛びに飛んでハサミを躱す。

というか狙いが顔面一択なのはなんで!?

「っち、仕留めそこないましたか」

「も、もうハサミないだろ!?ここは引き分けで片を付けようぜぇ!?」

停戦の言葉を無視し、右手を突き出すとその右手が光り輝き始める。

「【創造クリエイト】」

瞬間、その右手にさっきと同じハサミが5本現れる。

「What!?」

「さぁ、これでまだ続けられますね、あと5本も避けられるとは思えませんが」

「冗談じゃ...ねぇ!」

咄嗟に壁に突き刺さったハサミを抜いて、先手で《無欠の投擲》を放つ。

「ほう?」

しかしメイドが飛んできたハサミを素手で超速ではじくと一瞬で粉々に壊れ破片が飛んできて壮馬の腕に刺さる。

「あああぁ!!くっそ痛ええぇぇぇ!!」

「さっさと諦めなさい、そうすれば三撃で殺してあげます」

「一撃じゃなくて!?」


そのままじりじりとメイドが近づいてくる。

ヤバい、こいつヤバすぎる。

「さぁ、死んでください」

そして今度は一気に3本のハサミを投擲してくる。

「流石に三回目は慣れるわ!!」

今度はわざと紙一重で避けて、体勢を大きく崩さないようにする。

そしてそのまま走って間合いを詰める。

「白兵戦ですか、無駄なことを」

メイドはそう言うと、1本のハサミを右手で握り込み、刃を壮馬に振り下ろす。

「その攻撃、それろぉ!!」

そう叫びながら壮馬は攻撃に対して右手を突き出す。

当たる寸前にハサミもろとも振り下ろした右手がメイドの意識を離れ、その攻撃は空を切る。

「ッ...」

「うおらああああぁぁ!」

突然の出来事に体勢を崩したメイドの顔面に今度は壮馬のこぶしが炸裂する。


...と、見せかけて。

「なんて、やるわけねえだろ!逃ぃげるんだよぉ!」

「な...」

当てるとみせかけてそのまま脇を通過して逃走する。


「(なんだよ、今の威力!?距離を詰めて威力を殺したはずなのに3分の1程度持ってかれたぞ!?)」

《被害をそらす》を使ったある意味無謀な作戦を成功させた壮馬は、自身の記憶を探り、誰もいなかった二つ隣の部屋に逃げ込む。

「ッ!よっと!」

そして、そのまま窓から飛び降りる。

...3階から。

「あ、終わった」


CCB<=89 登攀

Cthulhu : (1D100<=89) → 69 → 成功

CCB<=94 跳躍

Cthulhu : (1D100<=94) → 49 → 成功

「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

間一髪で2階の窓に手を引っ掛けて速度を一旦落とす。

そのまままた手を離して地面へと降り立つ。

体勢が変なことになることはなくちゃんと足から降りることができた。

「あ、危なかった...危うく落下死するところだった...」

「待ちなさい」

そう聞こえたのも束の間、さっきのメイドが上から飛び降りてくる。

「く、《空中浮遊》!」

咄嗟に《空中浮遊》の呪文をメイドにかけて、地面につかせないようにする。

「あら、これは」

「そ、そこで頭冷やしてろ...じゃあな!」

《空中浮遊》で動けないメイドを後目に壮馬は足の痛みに耐えながら離れていく。

メイドは首のみを動かし、周りの様子を確認する。

ここは王城の外、城壁の中の庭。手入れが行き届いていることは一目見るだけで分かる。

「外ですね」

「は?」

「なら問題ありません」

何が?と聞く間もなく、メイドの持っている2本のハサミが光り輝いていく。

「【拡大ラージ】」

そしてあろうことか持っていた2本のハサミが長さ2mはありそうな巨大な物へと変貌する。

「はい!?」

「終わりです」

メイドはそういうと巨大化させたハサミを地面に突き立て、松葉杖のようにして壮馬の方に迫ってくる。

「ちょ、ちょちょちょ嘘だろそんなの!」

それを見て壮馬は一目散に逃げ、正面の門を目指す。


「あ、お前なんで外に出て」

「んなこと言ってる場合じゃねえ!」

門兵の質問を無視し、そのまま王城の中へと戻っていく。

「なんなんだあいつは...」

と思っていたが数秒後、地響きのような足音のようなものが近づいてきているのが分かった。

そしてその音が静まった後、門兵が恐る恐る聞こえてきていた方を見ると...

「.........どこですか」


そこにはメイドの姿が......巨大化させたハサミ2本を松葉杖代わりにしているメイドがいた。

「は、はははははいいいぃぃ!?」

これには門兵、怯えるのみだった。

「あの男はどこに行ったのです」

「え...えっと......城の中に...」

そういってプルプルと震える指先で城の中を指す。

「そうですか、おっと効果が切れたようですね...【縮小スモール】」

巨大ハサミ2本は光り輝いて、元の大きさに戻る。

「お勤めご苦労様です、では」

メイドは門兵に一礼すると、壮馬を追って城の中へ入っていく。

「......あいつ...ほんとに何したんだ...」

門兵は、10年は寿命が縮まったと感じた。



「ん、あいつ...」

「あ、ニーナ!いい所に...」

「死ねええぇぇ!壮馬あああぁぁ!!」

「あああああぁぁぁぁ!?!?!?!?」

近づいた矢先にブロードソードで繰り出された本気の突きを緊急回避する。

「お前!オマエ何すんねん!」

「それはこっちのセリフだバカ者!なんださっきの!鏡に!鏡にお前が映って!」

「あれはただの手違いだ!それより助けて!」

「なんだ、何をした...............え」

遠くからこっちに向かってくる人影。

無表情のままハサミを2本構えてこっちに突撃してくるメイドを見てニーナはあからさまに慌てだす。


「あ、ああああアリシアさん!?なんで!?」

「え!?知ってんの!?」

「し、知ってるも何も...あ、あの人はこの城のメイド長...アリシア=レイド...」

「王...王女に次ぐ第三位...事実上のルーシアン王国、最強だぞ!?」

「はああああああぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」

絶叫に次ぐ絶叫。今日はよく叫ぶな。

「ちょ...最強って...ちょっと待って!?」

「というかお前本当に何をした!?なんでアリシアさんが鬼の形相でお前を殺しに来ている!?」

「俺は鏡の部屋に入ってただけだよ!」

「それだよ!それが原因だ!あの部屋はアリシアさんと騎士団長以外は立ち入り禁止なんだ!」

「それを先に言えよおおおおぉぉ!!」

壮馬とニーナが悲痛な声の会話をしているうちに、アリシアが追い付いてくる。


「ニーナ、そこをどきなさい。その男を殺します」

「ちょ、ちょっと待ってください、アリシアさん!壮馬にはあの部屋については知らせ損ねていたのです!決して悪気があったわけではありません!」

「その男はあの部屋の鏡を使ってあなたに嫌がらせをしていたようですが、本当に悪気が無かったのでしょうか?」

「は?壮馬、死んでみるか?」

「待った待った!手のひら返しのスピードおかしいだろ!確かに鏡に俺の像を映したけどさぁ!実害なかったじゃん!」

「お前のせいで怖かったんだからなああああぁぁぁ!?」

「ああああああああああぁぁぁぁぁぁ!?すまんすまんすま...うげっ!?振り回すなあああ!!」

涙目のニーナに胸倉を掴まれてブンブン振り回され吐きそうになる壮馬。


「さぁ、そこをどきなさい。一緒に殺しますよ?」

「ちょっとアリシアさん無表情でめちゃくちゃキレてるじゃないですか!」

ニーナごと殺しそうな殺気を纏いながらじりじりと間合いを詰めてくるアリシア。

「......よし!逃げるぞ!」

「は!?ちょ、ちょっと待て貴様ああぁぁ!」

すぐさまアリシアに背中を見せて全力疾走する壮馬を追いかけてニーナも走る。

「......逃がしません」

そう呟くと、アリシアは壮馬達とは別のルートへと走っていった。



「追ってきてるか!?」

「い、いや...いない...別ルートから回り込むつもりか...?」

「よっし、好都合!《生命の察知》!」

周りの生命体の種類を察知する魔術を展開して様子を探る。

そうすると、周りとは全く別次元の速さで走行してくる一人の人間が引っ掛かる。もろバレである。

「つーか早すぎる!確かに別ルートから来てるけどあと数秒で鉢合わせするんですが!?」

「......こっちだ!」

ニーナに引っ張られ、部屋の中へと入っていく。と、その直後にアリシアが現れる。

「......隠れられましたか」



「はぁ...はぁ...ま、まいたか...」

「まいたか...じゃない...本当に貴様は迷惑しかかけんな...!」

「いや、ガチであれはしょうがないって...」

「それで、どうする」

「どうするって言われてもな...」

そう言いながら周りを見渡すとどうやら倉庫のようで、食器類や武器など、王城で使うものであろう物が揃っていた。

「......しっかし、あれも魔法か...便利そうでいいなぁ」

「ん?アリシアさんが使っていたあれは魔法ではないぞ?」

「え?あのハサミを作ったり大きくしたりってお前も出来るんじゃないの?」

「あれは『魔法』じゃなくて『能力』というんだ。魔力を別のエネルギーや現象に変えるのを一般的に『魔法』と呼ぶんだが、ごくまれに魔力を変換する回路の一部が固定化されてしまい、限定的なことしかできなくなってしまう事がある、これを『能力』と呼ぶんだ」

「ふーん、じゃああいつは生成とかしか出来なくなってるんだ。不便なもんだな」

「確かに幅広く色々なことは出来ないが、『能力』は『魔法』よりもその分野においては高い次元のことをやってのける。『魔法』の一種である錬金術は変換するのに同質量の別の物体を必要とするのに対し、アリシアさんの絶対錬成マグナ・フォームは無から物を作り出せる。あの人の魔力の高さもそれを可能にする一因だが」

「はぁ...厄介だな」

余りにも大きい力の差にため息しか出ない。

「なぁ、弱点とかねえの?こう決定的な」

「あるわけないだろ、最強を馬鹿にする...な......」

と、ここまで言ってニーナの頭に一つの出来事がよぎる。

「あるかもしれない。アリシアさんの弱点」

「あんの!?」


「確かこれは1か月前...東洋の国から納豆という食べ物が送られてきた時のことだ」

「.........なんかオチが想像できたぞ」

一瞬で疑いの目になる壮馬。

「納豆というのはちょっと臭いのだがな、その食べ物が在庫から消えるまでアリシアさんは通常業務が出来なくなってしまったのだ」

「大事件じゃねえかよ!予想の斜め上を行ったわ!!」

「というわけで臭い物がアリシアさんの弱点だと思われる」

「死体でも掘り起こしてくるか?」

「そういう系の臭さは大丈夫っぽいぞ」

「じゃあ...食糧庫か?」

「あぁ...それしかない」

倉庫での会議が終わった二人は見つからないようにひっそりと食糧庫へ向かうのだった。



そして何事もなくたどり着いた食糧庫、ここから臭い食品を探し出すのだが不思議とニーナに迷いはない。

そして、食糧庫の隅から一つの樽を取り出す。

「それが臭い食材か?...って、樽に入ってても臭いな...」

樽の中から漂ってくる異臭に思わず顔をしかめる。

「あぁ、秘密裏に私が保有している。名前を...」

そして、一泊置いて答える。


「シュールストレミングだ」

「シュールストレミング!?」

まさかの『世界一臭い食材』の登場に驚くしかなかった。

「実は私の好物でな」

「シュールストレミングが!?」

「あぁ、だから秘密で取り寄せたんだ。もちろん私の出費だから違反というわけではない。ちょっと食糧庫使わせてもらってるだけで」

「それを嗅がせるのか...死ぬんじゃないかな」

「......そうはならないと信じたい」

ニーナも自信が無いのか、俯きながら答える。


「なるほど、そこでしたか」

「ッ!?痛ァッ!...」パタン

「パタン!?パタンって!?おいニーナしっかりしろ!衛生兵!衛生兵ー!」

余りにもあっけなくやられるニーナ。そばには血の付いた泡だて器が転がっていた。

「まさか...」

「そう、そのまさかです」

そこにそのメイドはいた。鼻栓をした状態で。

「鼻栓!?まだ開封もしてないのに!?」

「本当はもっと重装備で来たかったです」

「どんだけ弱点なんだよ!」

鼻栓をしているのにもかかわらず、まだ臭さに負けているらしく、前に踏み込んでくるのを躊躇していた。


「実は1週間前からこの臭さに悩まされてましてね、原因を探していたんです。今見つかりましたが」

「ニーナ...勝手に置いてたのバレとるやん...」

「ニーナには後で説教をするとして、あなたは生きて返すわけには行きません」

「あんた俺への殺意、高すぎだろ...そろそろ頭冷やしてくれよ...」

「無理ですね、あなたは下着を見られた時の女子の怒りを分かっていない」

「あれは不可抗力っつーか、床にまで鏡を付けとくそっちの設計ミスだろ!」

「どうでもいいです、とにかく殺します」

「待って!ねえ、待ってよ!話し合おう!?」

壮馬の静止も虚しく、2本のハサミを構えるアリシア。

殺される――――そう思った壮馬の頭に一つの『魔術』が思い浮かぶ。

咄嗟に向かった視線は―――シュールストレミングの樽だ。


「なんとでもなれやああぁぁ!!《リーチ》の魔術!」

「!?」

自分の腕が届く範囲の物の調整、新しい要素の付け足し、回収ができる魔術リーチ

間に障害物があっても働くその強制力によって、樽の中のシュールストレミングが樽を突き破って壮馬へと向かっていく。

――――瞬間

「あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?」

目の前でずっと平静を装っていたアリシアが...発狂した。

そして――

「【創造クリエイト】!!!!」

ぶっ壊れた樽を更に覆うようにしてアリシアが鉄の箱を作り出す。

それによって拡散しかけた異臭はギリギリ寸前のところで封じ込められることとなった。

「あ......終わった...」

壮馬がさわやかに死を受け入れかけていると―――


「な、ななななな何してくれてんですかぁ!?」(泣

「メンタル弱ッ!?」

「殺しますッ!絶対に殺しますッ!」

「あああぁぁ!!待て待て待て待て!」

泣き出しかけるアリシアによって我に返った壮馬が最後の命乞いをしようとして―――。


「そこまでにしときなよ、メイド長さん」

アリシアの後ろから声をかけてきたのは赤髪の女性だ。

床にまで付きそうな長い髪をたなびかせながら、真っ黒な魔女のような衣装に身を包んでいる。

「...何の用ですか、魔導士団長」

「いやぁ、研究のための材料が無くなっちゃってね、作ってもらおうと思って」

「......そうですか、ではこの男を殺してから」

「待ってって!?」

「待ちなって、殺したら多分あんた、後悔するよ?」

今まで振り返らなかったアリシアがゆっくりと振り返り、赤髪の女性を睨む。


「この男が、そうだと?」

「可能性はあるだろう?なんでも不可思議な『魔法』じゃない術を使うらしいじゃないか」

「...............」

何が何だか分からない壮馬を差し置いて、長考すること、数十秒。


「......分かりました、殺すのは最後にしておきます」

「その言葉めっちゃ不穏だわ!『あれは嘘だ』とか言わないだろうな!?」

「なるほど、そんな方法がありましたか」

「すいません!今のは忘れてください!」

躊躇なく土下座をする壮馬を見て、魔女風の女性は腹を抱えて笑う。

「はははははは!あ、あんた面白いやつだなぁ!」

「え?は?」

「メイド長相手に喧嘩売って、その直後に土下座で命乞いって手のひら返しが早いにもほどがあるよ...!」

「はは、俺の取りえの一つでもあるからな...」

「...つくづく最低の男ですね」

「いやいや...逆に才能あると思うぞ?」

そういうと、魔女は食糧庫から出ようとする。

「あ、私は魔導士団長、序列5位レイナ=リーズシャルテだ。よろしく頼むよ。壮馬君」

それだけ言ってレイナは食糧庫から出て行く。


「......命拾いしましたね、日稲月壮馬」

「あ、あぁ...助かっ...日稲月の方は俺、言ってないよな?」

「...つくづく勘がいいですね」

「どういうことだ?」

「あなたは知らなくてもいいことです」

なにやら意味深な言葉を残し、アリシアも食糧庫から立ち去ろうとする。


「そういえば...最後に...あのスープは美味しかったですか?」

「あ?...スープって...」

「私の新作です」

「......美味かったよ、また頼む」

「.........じゃあ、また新作の実験台にしてあげますよ」



...壮馬が求めていたのはどんな日常だったのだろうか?

それは、壮馬自身にも分からない。

だが...危なっかしくも楽しい日常というのも悪くはないのではないだろうか。




《タールクン・ホテプの鏡》

嫌がらせあるいは警告の目的で、対象がのぞいている鏡の中あるいは鏡のような表面上に、呪文の使い手の像を映し出すことができる呪文である。

呪文をかけるためには5マジックポイントと1正気度ポイントのコストがかかる。

対象は地球上のどの場所にいてもかまわない。

呪文の使い手は自分の首から上を映し出すのに十分な大きさの鏡が必要である。

その鏡の中をじっと見つめ、対象の姿を心の中で思い浮かべ、短い呪文の文句を唱える。

するとマジックポイントと正気度ポイントが消費されるので、そのまま待つ。

対象が暗い窓とか鏡とか、その他鏡面になっているものをのぞいたとき、そこに呪文の使い手の像が形を成し始める。

対象が鏡をのぞく前に呪文の使い手が疲れてしまった場合には、注意力を失ったことで呪文が敗れてしまう。

鏡の中の呪文の使い手の像は、犠牲者の目をまっすぐ見据えていたり、鏡の中に写っている犠牲者のすぐ後ろに立っていたりする。

犠牲者が眼鏡をかけていた場合は、レンズに写り込むものの中に現れるかもしれない。

呪文の使い手は対象が聞き取ることができるようないくつかの単語や短い語句を発することもできる。

呪文の使い手の方も鏡の中をのぞくことによって、対象の姿やその周りの様子を見ることができる。


《リーチ》

この呪文の使い手は、自分の腕あるいは触肢を伸ばして届く距離にある物を、間に邪魔になる物(平面的なものでも立体的なものでも)があっても、調整したり、新しい要素を植え付けたり、回収したりできる。

呪文のコストは一定ではない。

呪文のためにコストにしたマジックポイントと、通り抜けるべき邪魔もののSTRを競わせる。

呪文には5ポイントの正気度喪失もともなう。

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