ぷろろうぐ
市川 宗氏は36になる。
何もしていないわけではないが、できれば何もしたくない。
この国はありがたいことに、もう500年ほど戦争も起きてはいない。
「世の中はこんなに平和なのに、いちいち火種に突っ込む奴の気がしれんね」
というわけで、流行りもしない無資格整体屋で今日も日がな一日中、のんべんだらりと過ごすのである。
「君は本当にひどい奴だなあ。いい加減働いて僕のお小遣いを稼いできてくれよ」
などと、突っ込んではいるがいっていることはただのヒモのようなことを言うのは石井 茜という。
22歳という年齢には見えない少年のような男装がよく似合う、妙な色気のある女性である。
ソファーにだらりと寝そべる宗氏の近くにだらりと座り込む姿は親子のように健全で、娼婦と客のように退廃的でもある。
「何をいうか茜くん。今俺はこの凍えるほどでもないが寒くなった11月の中、さほどこれから多くはないであろう晴天に恵まれた今日という日を、無駄にしないように、精一杯、日光浴しているのだよ!」
「言わんとしていることはわかるけどね、ともかくこの天井どころか屋根までない状況を説明してはくれないかい?」
本来日差しを遮るべき屋根も、いつもなら変わらぬ白い天井も、そこにはなく。
気温が下がってきたからこそ綺麗な青が映える、晴天がそこに覗いていた。
ここは日本皇国、皇国歴2016年11月、天皇が現人神として顕現され、結界にて物理的鎖国を行い二千年余。
現世と幽世の境が曖昧となりもはや伝説の地となった皇国は、世界の一部でありながら世界とは隔絶した文化様式の、混沌とした国であった。
そのあばら家のようなところに住む奇妙な2人は、ともかく精一杯の日光浴を引き続き楽しむのだ。