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The Piper's Callin'  作者: 佐藤みにぃ
第2章
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ドロイドの停止

「それでは――のように進めていきましょう。――次の――」

 オーストラリア高官が首脳会議に向けた次の調整事項について述べている。その間に宮前純は音声を受信モードのみに設定してオフィス入り口に待機していたドロイドに業務指示を与えていた。

「――それとすまない。次の会議の十分前に首相へ連絡を入れておいてくれないか」

“承知しました。伝言はありますか?”

「テキストメッセージを転送しておいてくれ。開始――私はホロ会議が長引いていますので会議室まで直行します。最新資料を事前確認の上、五分前から打ち合わせをお願いします――以上。ああ。念のため最新資料の格納場所も案内しておいてくれ」

 純は書類に目を通しながらそう言った。だがやがて不審に思って顔を上げた。いつもならば小気味悪いほど間髪入れずに返答してくるのにと首を傾げた。

「――どうした? 指示に問題あるか?」

 もう一度ドロイドに呼び掛けてみるが数秒待っても応答がない。なんだ? 彼はホログラム機能を一時停止モードに切り替えて椅子から尻を引き剥がした。ドロイドの前に立って様子を伺う。そしてぎょっとした。ドロイドが直立したまま1mmも動かない。完全に活動停止しているのた。

「おい。どうした? どうなっている?」

 固まったように動かないドロイド。故障したのだろうか。再起動プログラムを命じてみたが応答がない。仕方がない。――純は顎をさすりながらとりあえずはホログラム会議に戻ることにした。しかし一次停止を解除してもホログラムは動かない。そういえば音声も聞こえてこない。

「おいおい。通信も?」

――一体どうなっている?

 純はシステムに先ほどの会議コードへ再接続するよう命じた。しかし通信不可という答えが返ってきた。ならば――。

「テクニカルサポートへつないでくれ」

 コール音数回で担当者が出た。純は少しだけほっとした。現在の通信状況とドロイドの活動停止状況について簡潔に伝える。相手は慌てた様子で答えてきた。

「――申し訳ありません。――はい。実は官内中のドロイドが活動停止したらしく……状況と原因を確認しているところです」

 どうやらテクニカルサポート室には問い合わせが殺到しているようだ。鳴りやまないコール音と数人の話し声が彼の背後から聞こえてくる。

「……通信状況はいつ復旧する?」

「その点についても状況を把握しているところです。……ただ国内や国際通信に限っては問題報告されていません。どうやらEG経由の通信状態が原因のようです」

「官邸内の問題は?」

「先ほど官邸内を緊急スキャンしましたが他に問題は確認できていません。今のところは通信状況の一部不調、及び原因不明のドロイド停止――それら二点です」

 何か分かったらすぐに報告してくれ、と純は指示をしてから通信を切った。定例会議参加者へ状況を説明する音声メモだけを送信して席を立つ。彼らは確認できないかもしれないが念のためだ。腕時計を確認すると既に次の予定開始時刻を過ぎている。

――仕方がない。

 純は大きなため息をついた。太い眉を額の中心に寄せながらドロイドが準備していたであろう書類をかき集める。すると背後からドアノックが聞こえた。

「申し訳ありませんが、今は急いでおりまして――」

 苛立ちを抑えながら振り返る。そして驚いた。

“失礼します。純。首相から緊急招集です――至急オフィスへ向かっていただきます”

 そこにいたのは首相専用の秘書ドロイド――バトラーであった。

「――今行く。――というか、君はどうして動いている?」

 バトラーは首を傾げた。

“申し訳ありません。ご質問の意味が分かりません。――純。急いでください。首相がお待ちです”

 純はバトラーの後を追いながら状況を整理した。すらりとした長身に燕尾服を見事に合わせた男性ドロイド。彼は政府支給のドロイドではなく、首相の命令を第一優先とする個人ドロイドだ。

――そうか。もしかして……。

「バトラー。君はアンティークドロイドだよね?」

「はい。私は二0四三年に製造された特注の人型ロボットです」

 官邸内のドロイドは政治用ドロイドだ。各国政府やEGにアクセスできるホットラインプログラムが基礎構造に組み込まれている。だが個人用ドロイドは別だ。バトラーは後者なので他のドロイドのような状況に陥っていないのだろう。純はこの仮説が正しいと確信した。会議室へと向かう途中で二台の掃除ロボットとすれ違ったが、彼らは普段と変わらない様子だったからである。

――掃除ドロイドに官邸システムへのアクセス権限はない。だから影響を受けていないのだ。一体何が起きているのだろうか? ただのシステムダウンであれば良いのだが……。

 ウイルス感染やテロの心配をしながら会議室へ入室すると、既に西山夕樹首相と近藤林兵衛副首相が話し込んでいる。どちらもいつもに増して真剣な表情をしている。やはり、何かが起きているようだ。

 その表情を読み取ったのか、首相が顎をしゃくった。

「バトラーは部屋の外で待機していろ。純。早く座りなさい」

 純は近藤の隣に腰掛けた。副首相は額の汗をくしゃくしゃのハンカチで拭いながら口を開いた。

「……少々問題が発生しているようですな」

「少々ではないだろう? 情報コード1なのだから」

 西山が苛立ちを隠さずに訂正した。どうやら事態を把握しているのは西山だけのようだ。

「情報コード1ですか?」

 それは宮前純が人生で遭遇することはないだろうと思っていた情報規制コードだった。

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