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8.快方

 気が付くと、母親の顔が見えた。

 頭を手で撫でられる。母親はベッドで上体を起こして、俺を膝枕に寝せたらしい。

 「母さん……寝てなくていいの?」

 まだ体が怠く動くのが億劫で、横になったまま尋ねる。

 「ええ。アーくんが看病してくれたおかげで、すっかりよくなったみたいよ」

 そう微笑む母親は、確かに苦しそうには見えず。それどころか、顔色というか、首筋や腕までうっすらと赤みがさしていて、健康そうに見えた。これまで、単に色白な人だとしか認識していなかったが、どうやら不健康なだけだったらしい。ずっとそうだったから、気付かなかった。

 俺はどうにか体を起こし、母親の顔を抱いて、熱を測るように額を額に押し付けた。

 プロセスを探る。

 ──うん、ちゃんと《加護》が活性化している。ついでに、熱もないようだ。

 「……大丈夫、みたいだね」

 顔を離す。

 活性化しているということは、まだ母親の体調は万全ではないのだろう。だけど、《加護》の力で快方に向かっているようなので、まだ安心とまでは言えないがとりあえず今の俺に出来ることはここまでだ。

 「ええ。……もうすぐ晩御飯だけど、食べれる?」

 「母さんこそ。って、ケリーはもう戻ってるの?」

 「ええ。父さんへの連絡、アーくんが指示してくれたんですってね。ありがと」

 母さんは嬉しそうに、また俺の頭を撫でた。


 食事の後。

 母親には、大事をとってすぐに寝て貰った。

 必然、俺はまたケリーに風呂に入れて貰うことになった。二歳半くらいでは、まだ一人では入らせて貰えない。

 体を洗って貰い、抱っこされた状態で一緒に湯船に浸かる。

 「アフロス様……」

 背後からケリーの声。少し不安気だ。

 「ん。なぁに?」

 今更だが、子供っぽい返事をしてみる。

 ここ最近になって、ようやくまともに喋れるようになったものの、短期間で喋り過ぎたような気もしていた。二歳半くらいの言語能力って、どんなもんだったっけ?

 「……アフロス様って……何者なんです?」

 さすがに、普通ではないと思われたか。声こそ子供らしく、発声も拙いが、やはり喋り過ぎだったか。

 だが、ここで『何者か』という言葉が出てくるのは何故だろう? 

 「何者か、なんて。僕にも判らないよ」

 正直に答えてみる。転生者であることは間違いないだろうが、転生前のことは未だに判っていない。

 「そう……ですか」

 ケリー自身、よく判らずに出た言葉だったらしく、それ以上は何も言わなかった。


 一旦、寝室に母親の様子も見に行く。

 母親は、すやすやと眠っているみたいだ。

 テーブルの上に片づけれれていた紙束をつかみ、自分の部屋に向かう。

 俺たち家族は、全員別の部屋で寝ている。今まで気にもしなかったが、病気がちな母親の安寧のために、そうしたのだろう。俺は夜泣きしていただろうし、父親は不規則な生活をしていた。

 ベッド脇の照明を点け、紙束を持ったままベッドに転がった。

 続きを読む。まだ大事なことが書かれているからだ。


 大地が興味を持った治療師は、大地に不穏当なことを告げたらしい。

 曰く、『神殿を信用するな』と。


引きって、こんな感じでいいのでしょうか?w

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