表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/45

5.被召喚者の備忘録(1)

 渡された紙の束は、こちらの文字でページ番号が振られていた。

 こちらでは数字十種類と文字二十三種類が使用されており、一応既に覚えている。単語の綴りは覚えていないから、数字くらいしかまだ読めないのだが。

 拾った紙を該当箇所に差し込み、順番を確認、一部狂っていたので並べなおした。


 それは、過去にいた日本人が残した備忘録らしかった。

 冒頭に、『生活にも余裕が出来たので、忘れないように、これまでのことも遡ってここに記す』と書かれていた。

 この備忘録によれば、ここは地球とは別の世界であり、書いたのは召喚魔術により日本から呼び出された、大地という名の男らしい。召喚当時は二十三歳で、コンピュータ関係の会社に勤めていたようだ。

 呼び出したのは四十過ぎのおっさん魔術師で、魔方陣を使って召喚を行ったとのこと。

 その魔方陣は、《言語理解》と《隷属》が付与される仕組みになっていたらしく、おっさんが何か言ってきたのは理解できたし、体がその言葉に強制されて、自分の意思によらず他の場所に移動した、と書かれていた。脳内では『異世界定番キター』とか囁いている。なんで『男の娘キター!』よりテンション低いんだよ。

 魔方陣の機能では、付与されるのは前述の二つだけらしいのだが、大地には他にも能力があったようだ。それが異世界転移によるチート能力付与なのかは、これを書いた時点では大地にも判っていない様子。ただ、その力がどういうもので、どう使えばいいのかは自然に理解できたとのこと。

 その能力とは、《解析・改竄》というもので、個別の能力ではなく解析と改竄の二つで一つの能力らしい。

 さて。問題は、それが何に対しての解析改竄かということだ。

 大地の主観での話だが、それはこの『世界という《システム》』に対しての能力らしい。コンピュータ関係の会社で勤めていた大地には、そう理解するのが一番しっくりくるとのことだった。

 物理法則や現象を《システム》が表現しており、魔術はその《システム》に干渉し、法則を捻じ曲げたり突然現象を発生させたりする。魔方陣や呪文は、その《システム》にアクセスするための関数で、適性がある者だけがそれを扱える。そういう風に理解していれば、大地のそれまでの経験や見聞と全て合致するらしかった。ただ、大地自身の肉体が、それを実行するためのハードウェアなのか、《システム》上で実行中のソフトウェアなのかは判別できなかったらしいが。この世界が《システム》上に展開されたVR的な世界だったとしても、物質として再現された肉体から逸脱できなければ区別はつかないだろうと持論を展開していた。

 こういった話に問題なく付いて行けている時点で、前世の自分も同業者だったのかもしれない。


 途中で話が逸れているが、文章がそうなっているので仕方が無い。しかも時系列的に後から得た知識も加えて書いてあるみたいだ。

 続きを読む。


 召喚され、おっさん魔術師の命令で移動していた大地だが、途中でこっそり《隷属》を改竄し、動作を停止させる。移動した先の建物には、《隷属》付きの精霊やら魔獣やらが何体かいた。

 目的に応じて召喚魔方陣を改修しているらしく、大地は『異世界の知識』を求めて召喚されたらしい。

 おっさんは大地を残してどこかへ移動したので、これ幸いとばかりに精霊や魔獣に話しかけたのだが、《言語理解》があるので意思の疎通はできるはずなのに反応が薄い。人間ではないので表情はよく判らないが、目が死んでいる気がする、という記述に脳内では『レイプ目』とさっきより声高に囁いていた。何だよそれは。……いや、詳しい説明とかいらんから。

 部屋の奥にいた、天使の様な姿をした者が大地に近づき、この場所やさっきの魔術師のこと、ここでの決まりごとなどを説明される。一通り話を聞いた後、天使(もうそう呼ぶことにした)に手を翳し、試しに《隷属》を改竄して止める。天使は、初めは何が起きたのか判らなかったみたいだが、《隷属》による意識の拘束が無くなっていることに気づくと、大地に縋り付いて、泣いて感謝したらしい。そして、他の者も解放してくれと懇願される。

 全員の《隷属》を止め、その後どうするかを話し合う。

 基本的に、全員あの魔術師を殺すことで意見は一致しているのだが、どうやるかで意見が分かれた。

 すぐに出て行って殺しに行こうとする魔獣を精霊が止める。精霊によれば、周辺の建物の中は色々と魔術的な仕掛けが施されており、逃げられる可能性が高いとのこと。

 天使の『ここで待ち伏せして殺そう』という意見が通る。この建物の中には食料や生活のために必要なものは揃っていて、次に魔術師が現れるまで数日待つ。

 最終的には、次に召喚したらしい鳥型の魔物を連れて現れた魔術師を全員で袋叩きにして殺したらしい。盾にされて傷ついた鳥型の魔物も、《隷属》を停止してやると抵抗をやめた。

 他の建物を漁り、魔術師の持ち物を調べたのだが、送還する術は判らなかった。

 精霊たちは、力を拡散してこの世界と一体になることを選び、無数の小精霊となって、消えた。

 魔獣たちは、人のいない山奥の秘境で暮らすことを選び、去っていった。

 天使は、最後まで迷ったようだが、仕える神を探すことを選び、空へと消えた。

 大地は、魔術師の持ち物を全て手に入れ、元の世界に戻る術を探して旅立つ。その後、人里を訪れて巡り、この世界の《システム》や、魔術や能力について調べたらしい。


 ここまでで一旦活動話は途切れ、再び考察が書かれていた。

 その中には、例の体内で蠢いていると感じていたアレについての記述も見つけた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ