4.日本語
すくすく成長……しているのだろうか。自分ではあまり自覚はないが、以前着ていた服を見るに身長も少しは伸びているらしい。行動制限が緩められ、塀に囲われた庭までは出してもらえるようになった。
言葉についても、語彙はまだ少ないが以前にくらべれば発声もしっかりしてきている。
季節の変化をあまり感じられなかったのは、庭に植えてある植物が常緑樹らしく変化が少ないのと、家の中は空調がしっかりしているのか室温の変化が少なかったからだった。空調らしき設備はどこにも見当たらなかったのだが。
雪でも降れば季節を感じられたのだろうが、このあたりは温暖な気候らしく、雪など降らないみたいだ。それでも、庭に出ると少し肌寒かった。季節的には、今は冬らしい。
俺が産まれたのは夏だったらしいので今は二歳半くらいか。一年の日数はおろか、一日あたりの時間すら未だ判然としない。体感的には、一日の時間は二十四時間より少し長い気がする。ただ、幼児の体での体感なので、あまり自信は無いが。
相変わらず、家に人の出入りは少ない。
ケリーが買い物に行くのを除けば、時折父親がどこかに数日出かけるくらいだ。在宅で仕事をしているらしい。
少ない語彙で理解した範囲では、父親は学者か何からしく、古文書や遺跡からの出土品を調べるのが仕事のようだ。父親の部屋には、古い書物やへんてこなオブジェがたくさんあった。
一応、あまり父親の部屋には入らないように注意されてはいるが、オブジェに触れなければ叱られることもなかった。暇を持て余していたので、時折父親の部屋に入って見物していた。
今日も暇つぶしに父親の部屋に入る。父親は昨日から外出しており、中には誰もいない。
と、紙が一枚、ソファの下に落ちているのを見つけた。
品質はあまりよくなさそうだが、古いものでもなさそうなので、俺が触っても問題はないだろう。落ちていた紙を拾い、裏返してみて──衝撃が走った。
そこには日本語が書かれていたのだ。
紙を手にしたまましばらく固まっていると。
「あらあら。アーくん、お父さんの資料に触っちゃダメでしょ?」
母親が横から覗き込んできた。ちなみに、アーくんというのは俺の愛称らしい。
「これ、何?」
出所が気になり、聞いてみる。
「ああ、これね。かなり昔の書物からの写しで、お父さんや仕事仲間たちでも結局内容が判らなくて、調べるのをやめちゃった物なのよ」
──かなり昔の書物。ここは過去ではなく未来なのか?
脳内では『文明崩壊』という言葉が浮かんだ後、『異世界転移者?』と珍しく疑問形に遷移。
「母さん、もっと、見たい」
これ一枚ではなんとも言えない。他にもあるのなら確認したかった。
「そうねぇ……。写しだし、もうお仕事では使ってないみたいだから、いいかな」
母親は左人差し指で下唇を押さえ、しばし悩んだ末に許可をくれた。そして、戸棚を漁って他の紙を探し出してくれた。
「破いたり汚したりしたらダメよ~」
言いながら、ソファの前のローテーブルに紙の束を置いてくれた。
「うん。ありがと」
俺はソファによじ登って浅く座り、紙の束を捲った。
ようやく日本語登場w
一話あたりの文章量って、もう少し多い方がいいんでしょうか……