24.正体
アンリの部屋まで運ばれ、ロープで縛られたまま椅子に座らされた侵入者は、抵抗らしいこともせずおとなしくしていた。
明るいところに出て、初めてその容姿を見たのだが、第一印象は──無表情。捕らえられたことに焦る様子もなく。悪びれることもなく、表情を替えずじっと俺を見ていた。セーナみたいに、俺に何か感知しているのだろうか?
ちょっと黒みがかった銀髪のショートボブ、年のころは十歳前後か。整った顔立ちが、無表情のため人形の様に見える。脳内では『無表情ヒロイン!』とか喜んでいる。……ヒロイン枠なのか、この子?
「あんたは何者なの?」
アンリの尋問に、侵入者は無表情のまま顔を向けるが、何も答えない。
アンリはどう対処しようか思案中らしく、腕を組んで睨みつけていた。
侵入者の生気のなさに不安になり、彼女の額に手を当ててみた。
ちゃんと体温を感じることに安堵しつつ、常駐プロセスを探る。
《加護》と思われるモノが一つだけ実装されていた。《隷属》や稼働中の《祝福》を感知したことはなかったので、もし彼女に実装されていてもそうとは判らないのだが、《加護》一つしか無いのであれば、鑑定せずとも他者の制御下にある訳では無いと判断出来た。
「どうかなさいましたか?」
俺の行動をセーナに問われる。
「誰かに操られているのか調べただけだよ。多分、大丈夫」
「判るのですか?」
セーナが驚く。……おっ、侵入者の表情にちょっとだけ変化があった。なんとなくだが、驚いている様に見える。
「いや……判るのは、何らかの術が施されている可能性の有無、くらいさ。もしあっても、鑑定して貰わないとはっきりしたことは言えないんだけどね。とりあえず、何も施されていないのは判った」
「ふ~ん……。ということは、自分の意志で、うちに侵入して来たってことね。それなら、あんたが何者で、どういう目的で侵入したのか、答えられるでしょ?」
アンリが詰め寄る。が、侵入者は興味なさそうにアンリを見返すだけで口を開かない。
いい加減イライラしてきたらしく、アンリは椅子に座る侵入者の太ももを踏みつけた。行儀が悪いお嬢様だ。裾の長いドレスだから上の方が露わになることは無かったが。
「なんとか言いなさいよ!」
侵入者は、怒鳴りつけられて、思案しているのか少し上を向いて。何か思いついたのか、首をコテンと傾げて。
「……くっころ?」
などとほざいた。
「くっころ言うな! 凌辱されたいんか!?」
思わず素で返してしまった。記憶が自然に流れてきて反応してしまったらしい。
脳内は『くっころいただきました!』『女騎士? 姫騎士なのか?』『オークはどこだ? いや、むしろ俺がオークだ!!』などと大興奮どころか錯乱気味だ。……俺の前世って一体何なの?
くっころさん(もう俺の中では侵入者じゃなくなった)は、俺の突っ込みに目を見開いた。
「あなた、転生者、なの?」
今度は俺が目を見開く番だった。転生者という単語自体にも驚いたのだが。一番驚いたのは、彼女が日本語で話しかけてきたことだった。
「君も、なのか?」
思わず日本語で返事をしてしまう。
俺の返事に、彼女は唐突に立ち上がった。
「きゃっ」
太ももを踏んでいたアンリが転びそうになる。セーナがアンリを受け止め、庇うように前に出た。
くっころさんはセーナには構わず、縛られたままぴょんぴょんと跳ね、俺の胸に飛び込んで来た。思わずそのまま受け止める。
「やっと……仲間に会えた……」
無表情だった彼女が、嬉しそうに顔を歪めながら泣き出してしまったことで、アンリたちも何事かと警戒を解いていた。
サブタイを「くっころさん」にしようと思いましが、ネタバレが酷いので直前で止めましたw




