2.加護?
健やかに育ちながら、頭の中では前世の記憶を探り続けたおかげか、ある程度能動的に情報を引き出せるようになった。ただ、自分が何を知っているかを知らないため、辞書を片手に物事を探っている感じだ。しかも、知りたいことがその辞書に載っているかどうかも知ろうとするまで判らないし、載っていることが正しいとも限らない。
まだ離乳食を食べ始めたばかりで、自由に動き回れない。抱っこして連れて行かれる先も家の中だけで、たまに窓から外を見ることは出来たが、ここが何処か、どういう所なのか未だ判らない。ただ、建物の中を見る限り、平成日本と比べて文化というか文明というか技術というか、そういうモノが低そうなのは判った。照明以外に電化製品らしきものが一切無く、ちらっと見えただけだが書物も活字ではなさそうなのだ。ただし、前世の記憶によれば、文明を嫌って原始的な生活を送る人たちはいるらしいし、人里を離れて荒野で暮らす人もいるらしいので、ここが過去の地球や異世界であるとは断言できない。
転生という言葉から連想されて、脳内では『異世界』とか『魔法』とか囁いている。
いっそ家族が魔法でも使ってくれたら、ここを異世界認定するのだが。いや、ひょっとしたら前世でも秘匿されているだけで実は魔法は存在していたんだとか言われるかもしれないが。
成長するにつれ、脳内で『チート』連呼がうるさい。
チートという言葉から連想して、いくつかの記憶が引き出される。
『言語理解』……異世界転移モノでは定番らしいが、転生モノには関係なさそう。
『スキル』……ステータスとか見えないし、仮に何か持って生まれてきていたとしても、もう少し成長してみないと認識できなさそう。鑑定能力とかあれば便利そうなんだが。
『内政チート』……ここが異世界や過去の地球なら、前世の知識で何か出来ることはあるかもしれないが、それもやはり成長してからだな。
『魔力』……小さい頃から鍛錬することで総量を増やし、肉体を強化したり高レベルの魔術を使えるようになったり……できたらいいなぁ。そもそも魔法が存在する世界なのかも判らないし、仮にそうだとしても、自分自身の中にそんなものがあるのか認識出来ていないからどうにもならない。
実のところ、体内に『何か』がある気はしている。前世では記憶に無いモノが。
夜中、体調でも崩したのか気分が少し悪くなったとき、それに気づいた。体内で、何かが蠢いていることに。
実際に何らかの器官があるという感じではなく。目に見えない、触れられない何か、という気がする。
その蠢きが強くなるにつれ、気分が良くなって。すっかり良くなったと思ったら蠢きも治まった。
***
一歳を過ぎると、つかまり立ちも出来るようになった。
どうやって一歳になったと認識したかというと、食卓で何やらお祝いみたいなことをやっていたからだ。他の祝い事かもしれないが、俺が主賓っぽかったので多分間違いない。
一歳でつかまり立ちは若干成長遅い? そもそもこの世界の一年がどれくらいなのかも判らないが。
相変わらずこの世界のことはよく判らない。
が、例の蠢くものは認識出来るようになった。転んで、怪我とまではいかない軽い打撲で痛みを感じたとき、蠢いたのだ。肉体に対する加護なのか、怪我や病気に反応して活性化するらしい。
何度か活性化した後、不活性化してもそれが『ある』ことを感じられるようになった。そして、不活性化しているそれが何か、探るように意識してみると、実は停止している訳でもなさそうだ。
方向性に悩み中w