序章
罪の対語は何だ
果たして無垢の信頼心は罪の源泉なりや
神に問う。無抵抗は罪なりや?
ーー人間失格より
愛とはなんだ。
愛するとはなんだ。
愛されるとはなんだ。
誰かが問う。
誰かが答える。
愛とは、罪だ。
愛するとは裏切りの前だ。
愛されるとは裏切られる行為だ。
愛は必ずしもうまくいかない。
愛されたら最後、誰も助けられない。
裏切られる。
無抵抗は罪なりや?
ーーーー
汚らわしい。
それもこれもすべて、お前のせい。なのに。
「ークズが。人間以下が。ウジ虫以下のお前に何が分かるっていうんだ!?」
ーーあぁ。
そうね。ウジ虫以下よ。人間じゃないよ。
心は意外と丈夫なもの。
何一つ傷つきやしない。
「お前なんて…生まれてこなければよかったんだ…里穂。」
里穂。私の名前。しってる。
けど、
気安く人の名前呼んでんじゃねーよ。
心の中で叫んだはずの悲鳴は、知らぬうちに口から出ていた。
「気安く人の名前呼んでんじゃねーよ。」
傷だらけの××は、酷く悲しんだようだ。
空き巣に入られたかのようなグチャグチャの家で。
涙を出す寸前の堪えた表情。
しかし、それも束の間。
すぐに鬼の形相へと変えた。
「出てけ!お前はもう滝島家の人間じゃない。滝島家の面汚しが。」
私に居場所はない。
急いで自室に戻った。
お気に入りのキャリーバッグにいろいろなものを詰め込んだ。
洋服、ケータイ、財布、通帳、印鑑、時計、靴、教科書、ノート、筆記用具、本、写真…
生きていく上で必要な物をすべて。
幸い、私の通う学校、松木学園は学費一括支払いだ。
小中高統一のこの学園はもしものために一括になっている。
それのおかげで今まで通り学校に通えるわけだが。
さて、どこに住もうか。
私の唯一の得していることといえば、
容姿端麗なところだ。
母親も父親も美男美女として通っていたらしく、子供を産んで年齢を重ねた今でもその美貌は失われていない。
当然生まれてくる子供も容姿端麗になるはずだ。
なのでクラスの男子の家でも回れば数日は持つ。
ーーー
愛とは罪だ。
裏切りだ。
怖いものだ。
何も知らないのは愛ゆえの罰だ。