シロクマみたいな人
朝、学校に行く途中で寄ったコンビニで買ったペットボトルのお茶についていたおまけのストラップ。その眠たげなシロクマをじーっと眺めているとどこか既視感が湧いてくる。
なんだろう、どこかで見たことがある気がするんだけどなぁ……。
CMでも登場しているシロクマだからか、と思うけどそうじゃなくて、画面越しじゃなくて近くで、もっと身近にいる気がする。
もやもやしながらそのかわいいシロクマをスマホにつけて学校に向かって歩いた。
校門を通り過ぎても、玄関で靴からスリッパに履き替えても解消されないもやもやを抱えたまま、階段を上って教室に入る。
(あ、)
自分の席に行く途中、その既視感が何から来ているのか思い出した。思い出したというかその既視感の正体が私の席の隣にいた人物だったからなんだけど。
(白井くんだったかぁ……!)
鞄を机の横にかけて白井くんとスマホにつけたシロクマを見比べる。うん、やっぱり似てる。
すっきりしたなぁ、と思いながら白井くんを見ていれば、白井くんは困った顔をしてこちらを向いた。
「僕の顔に何かついてる?」
「? ううん、特に何も?
…………あ、ごめん私見過ぎだね!?」
「うん、まぁ……。何かあった?」
「ごめんね、白井くんこの子に似てるなぁと思って見てたんだ」
この子、とスマホにつけたシロクマを人差し指で揺らす。
白井くんは少し身を乗り出してじっとシロクマを見る。
「似てる、かなぁ……?」
「似てるよ〜! 色が白いところとか、眠たそうな目とかおっとりした感じとか!」
「うーん……?」
納得がいかないらしい白井くんは複雑そうな顔をしながらシロクマを眺めて、あぁそれなら、と顔を上げて私と目を合わせた。
「相沢さんはアザラシかな」
「アザラシ? なんで?」
「秘密」
「えっなんで!?」
「それより、シロクマに似てるって褒め言葉なの?」
「もちろん! 私シロクマ好きだしかわいいしすごい褒め言葉のつもり!」
「かわいい、って男子高校生には褒め言葉にならないと思うんだけど……。まぁでも好きな子の好きなものに例えられたんだから、褒め言葉として受け取っておこうかな」
「あはは、そうし、て……?」
あれ? 今なんか私すごいこと言われた気がする……?
「えっ? ……えっ?
あ、え? 聞き間違い?」
「じゃないよ。相沢さんって鈍いよね。ふたつの意味で」
「え? あれ今貶され、ていうか嘘、え? 冗談?」
「でもないよ。
ねぇ、相沢さん知ってる? シロクマってクマの中でも1番肉食性が高いんだよ」
「そ、うなんだ……?」
「うん。だから、食べられないように気をつけてねアザラシさん。
まぁ、逃がさないけどね?」
スルリと頰を撫でられ、頭も体もピシリと固まる。そんな私を見て白井くんはクスッと笑う。
シロクマがおっとりしているなんて、かわいいなんて誰が言ったんだ!