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heroはお隣さん  作者: 沽雨ぴえろ
4/4

狐は鬼畜らしい





転校初日、さて、私は鉄板のごとくハマっております。何にって、もちろん、主人公が転校すると迷うというベタ展開だ。

いや、私にそんなのを望んでいないのはわかっているが、それでもだよ。


迷ったわー。まじどないしよかー?


いやね?そーんなに複雑な造りじゃないのよ。だけどさ、ほら、不良校だからさ?壁に落書きとか物凄くあるのよ。方向とかわかんねーっつーのよ!

それでも歩き続ける私って偉いと思う。



「……おっ」



ふらりふらりとさまよっていると、後ろから何かが走ってくる音がした。

小さく声を上げて、後ろをちらりと見ると―――――



「はっひっ、ふぅうー!!!」


「ひいっ!」



思わず悲鳴を上げた。

ドレッドヘアーの男子生徒が全速力でこちらに走ってきている。その後には誰かが追い掛けているようだ、人影が見える。


これに恐怖を覚えずして何になる!!!

私は悲鳴を上げた後、ビタリと壁に引っ付いた。その横をドレッドヘアーの男子生徒が顔を青くしながら全速力で駆けていった。

風が私の髪を巻き上げる。……スッゲーなはえーな!!



「待てコラ藤……って、あれ、祐葉ちゃん?!」



ハジメさんかぁあーーーーい!!!!

オールバックにした髪は全然乱れていない。…え?本気で走ってないの?



「ハジメさん…何やってんすか…」


「何って…追いかけっこ」


「嘘をつけえええ!!」


「祐葉ちゃんこの前から酷くはないかな?!」



だってどう見ても追いかけっこじゃなかった。一方的な…そう、いうなれば狩猟、狩りだ。

熊を追いかける狐みたいだった。



「と言うか…どうしてここにいるんだ?理事長室に来いと言っていたはずなんだが…」


「あぁ、迷いました」


「………まぁ、うん、そうなるだろうな、ごめんな祐葉ちゃん」



ハジメさんは迷ったと聞くとキョロキョロとあたりを見回し、深く頷いた。

そう思うんなら掃除しましょーやハジメさんや。



「じゃ、とりあえず行くか。着いてきてな」


「はーい」



キビキビと進むハジメさんに付いていくと、ものの一、二分で理事長室に着いた。あるれぇえー?

ハジメさんがドアを開けて招き入れてくれる。失礼します、と一応声を掛けてから入った。

中には茶色の座り心地の良さそうなソファが向き合って二つ、置いてあった。奥にはこちらを向く重そうな机。

ハジメさんはソファにと勧めたので、座った。ハジメさんは、なにやらスマホを弄っておられる…。



「ふっかふか…」


「気持ちいいだろう?」


「遊びに来ます」


「はいダメー」



軽口を言い合うと、控え目なノックが聞こえた。

ハジメさんはその音に目を輝かせて、入るように促した。

誰だろう?



「失礼します」



入ってきたのは、おじいちゃんだった。小さい眼鏡が鼻の上に乗っていて、白髪が素敵ですね。

……うん、やっぱり漫画みたいにイケメン先生来るわけないかー。はは。まあいいか。某あくまで執事な漫画に出てくるおじいちゃんに似ているし。あー、髭があれば……!!



「祐葉ちゃん、紹介しよう、こちらは田辺先生だ。祐葉ちゃんの担任で柔道部の顧問だ」


「こんにちは、田辺です、宜しくお願いします」



田辺さぁぁーーーーーーん!!いや、先生!!

名前にてる!!!あああなんで『べ』なんですか『か』にしましょうよ!!

私は思わず萌えてしまった。いや、仕方ないだろう、リアルタ○カだぞ、リアルタナ○!!

心の中で絶叫していると、ハジメさんが今度は私を紹介し始めた。



「田辺先生、こちらは大塚祐葉さんだ。俺の友人の娘でな、ここの連中よりは真面目だから見守ってやって欲しい」


「ちょっと待たれよハジメさん」


「ええ、分かっていますよ。さ、大塚さん、教室に行きましょうか」


「あっはい」



田辺先生でもスルーすることなんてあるのかと呆然としながら、ハジメさんを睨んでやった。

するとどうだ、ハジメさんはニッコリと笑って言うのだった。



「リアルタナ○さんだろ」



確信犯めええええ!!ナイスだよハジメさん!!ってそうじゃない。そうじゃないんだよ!

私はニコニコと笑う田辺先生に促されながら、ニヤニヤと笑うハジメさんを睨みつけつつ、理事長室を出た。



「そういえば、田辺先生、ここの生徒は派手な方が多いと聞きましたが、廊下に誰も出ていないんですね」



歩きながら、気になることを聞いた。

そう、迷っていながらも思っていてのだが、不良校と有名なこの楓茗高校だが、誰も廊下に出ていない。理事長が知り合いということもあり、少し遅めに登校した私だが、それにしたっていなさ過ぎやしないか。

だって不良校だよ?不良がいてなんぼな学校だ。八時半過ぎでも誰もいない。

その疑問を田辺先生ぶつけて見ると、田辺先生はニコニコとしながら答えてくれた。



「ああ、そうですねぇ。理事長が代わってから、少しずつ規則が厳しくなっていますから」



……いやいやいやいやいや、それだけじゃないぞ、きっと。そんな規則が厳しくうんたらってだけで、不良がそんな大人しくなるもんじゃないと私は思っている。

しかし田辺先生の話には続きがあった。



「まぁ、一番は理事長の作った、新しい校則のせいですかね」


「…校則?」



嫌な予感しかしない。

そして、その校則は私にも適用されるんだろうなぁ…超怖い。



「校則を破ったら、理事長直々に罰が与えられます。もちろん、体罰ではありません。人それぞれ違う物が与えられます」



…いや、さ。あの、田辺先生?それ、にこやかに話す内容じゃなくないですか?

聞いただけではそこまで怖くないように思われる。しかし、あのハジメさんだ。人それぞれ違う物が与えられますって、きっとエグイものばかりなのだろうなぁ…うん、超怖い。


そんな事を話していると、あっという間に教室に着いたらしい。



「では、入ってください、と言ったら入ってくださいね」



といって、田辺先生はさっさと教室に入って行ったが……いや、あの、田辺先生、それ意味無くないですか?だってここの学校、廊下側にも窓付いてるし。教室の中丸見えなんですよねー。つまりは廊下も丸見えなんですよねー。

今だって田辺先生の話聞かないでこっち見てますけど。

それにしたってカラフルな頭だ。私も軽く色を抜いているから茶色だけど、焦げ茶だ。それをはるかに超える色合いに目がチカチカする。

と、そこで田辺先生に呼ばれた。



「大塚さん、どうぞ」


「はい」



三十人ほどに見詰められながら、教室に入る。

田辺先生の隣に立つと、田辺先生が紹介をしてくれた。



「大塚祐葉さんです、皆さん、仲良くするんですよ」



で、終わり。さっさと席に付かせてかれるみたいだ。ちょっと拍子抜けしたけど、転校生からすれば嬉しいことこの上ない。

田辺先生はきょろりと教室を見渡すと、ざわめく教室の中央に目を留めた。

え、まさか……




「大塚さん、あなたはあの真ん中の席です」



まじかぁぁぁあ!不良に囲まれるのか私!

顔を引きつらせている自信がある。が、他に席はないのだろう、覚悟を決めてその席に近付く。

椅子に手をかけると、横の席の人と目が合った。

金髪ロングに蛍光ピンクのメッシュを入れた女子だった。



「えっと、よろしく」



とりあえずそう言うと、その女子はまじまじと私を見つめた。その視線に戸惑いながらも、席につく。

さると、その女子は体ごとこちらに向き直りニッコリと笑った。



「あたし安芸ってゆーの。大塚さんよろしくー」


「うん、よろしくね、安芸さん」



思ったより普通の子だった。いや、ほら、不良ってイメージだとさ、オラオラ系とか、ケバケバ系とか、さ。

まあケバケバ系ではあるけれど、全然嫌な不良じゃない。

そのことに安心して、もう一度よろしくと言ってみた。

すると、その事になぜか驚かれた。なぜや。

安芸さんが口を開いたけど、その前に田辺先生がHRの終わりを促したので、いったん話は途切れた。



「大塚さんって、普通の子だよね?」



田辺先生が教室を出ていった瞬間、安芸さんは声を掛けてきた。

…普通?え、それは平凡すぎてウケるー!という類だろうか。



「ほら、うちらってさ、世間でいう不良ってやつじゃん?その中に不良っぽくない子が来たからさー」



違うっぽいわ。

なるほど、確かにそう思うだろう。私もそう思うものー!

なので、正直に言ってみた。

理事長が知り合いで、すぐに転校できたんだー、と。



「…え?理事長?」



途端に青くなるのは見物だった。耳を澄ませて聞いていた周りのクラスメートも青くなっている。

あれ、これはもしかして、理事長が怖くてお友達できませんフラグ乱立?まじか。



「…大塚さん、理事長と知り合い?」


「え、なにそれ」


「理事長?」



うるさかった教室が更にうるさくなった。

……これはリアルに友達出来ないかもなぁ。ハジメさんの野郎。

とか何とか思っていたら。がしっと肩をつかまれた。



「え?」


「大塚さんっ!あんた、苦労してんでしょ……!!」


「あの、」


「あの鬼畜理事長だもんね!苦労しないはずが無い!!」


「えっと」


「愚痴とかなら何でも聞くからね!このクラス皆大塚さんの味方だからさ!」



うんうん、と頷くクラスメートに思ったのは二つ。

まじか。と、ハジメさんどんだけー、だ。

取り敢えず、ハジメさんのおかげで友達出来た。めちゃくちゃできた。だって一日でクラスメート全員とか思わないでしょ。一気にlineに三十人ほど追加された日だった。



「あ、安芸さん、私大塚ってあんま呼ばれないし、祐葉でいいよ」


「あ、ほんとー?じゃあ祐葉って呼ぶね。あたしのことも安芸って呼んで」



見た目は不良だけど、なかなか優しい。楽しくなりそうな予感に、思わず笑ってしまった。

お父さんに報告することが増えて、嬉しいなぁ。








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