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heroはお隣さん  作者: 沽雨ぴえろ
2/4

狐と油揚げと隣人さん




ピンポーン



「……」



ピンポーン



「……いないのかな」



祐葉です。ただ今引っ越してまいりました。そして隣に挨拶に来ている次第であります。

しかし、出てこない。後はここだけだというのに、出てこない。



「仕事かな?」



私は手元のタオルセットに目線をやり、もう一度反応のないお隣さんのドアに目を向けた。

……仕方ない、今日は帰ろう。片付けだ片付け!!

私はくるりときびすを返し、新しい新居へと再び足を踏み入れた。



「お皿ー…っと。あれ?目覚ましどこだ?……あれっ?!お気に入りの漫画が無いぞっ?!!」



ダンボールに頭を丸ごと突っ込み、必要なものを引っ張りだしてはしまい、引っ張りだしてはしまい。

私、片付けしなくちゃ気が済まないんです。



「あと、教材か。教材、…ん?教材?!」



明日の用意もしてしまおうと、教材を探す私だったが、あることに気付いた。

教材、買ってねぇ。



「やっべえええええええ!!ヤバすぎるだろおおこれええええええ!!!」



ハジメさんごめんなさい明日は手ぶらかな!!!

私ともあろう者が教材を買い忘れるとか……何たることか。

ダンボールの前で呆然としていると、私のスマホが唸りを上げた。いやマジで。



グルルルルルルルルル……ガオオオッ



「おっと着信だ」



私のメール着信音だ。一発で私のものだとわかる、それがイイ…。

私はショックでぼうっとする頭を横に振って、メールを開いた。

ライン?やるけど、そんなの友達だけだ。メールってことは知り合いの大人の誰かだ。



[祐葉ちゃんへ]


今から飛壱ひいちに頼まれていたうちの学校の教材を届けに行きます。

新しい家に居てください。







「……え?」



ハジメさん、来るの?今から?ここに?教材持って?

………え、マジで?

…いやいや、聞いた話だとハジメさん超多忙らしいし、そんな雑用でうちに来るはずないか。部下の人かな。

とかなんとか思ってる矢先、それはいきなり来た。



ピピピピピピンポーン



「あっこの押し方はハジメさんだわ」



一瞬でハジメさんだと理解した。

ハジメさんが部下の人をやるわけない。だってハジメさんだもの。

ハジメさんだもの。ですべては丸く収まる。なんて恐ろしいんだハジメさん!!!



「あ、開けなきゃ!」



玄関に急ぐと、またピンポンの連打が聞こえてきた。

相変わらず悪戯というかなんというか…こうゆうのが好きなのは変わらないな!ちょっとイラついてきたよ?!



ばんっ


ガンっ



仕返しのように勢いよくドアを開けると、当然のごとく何か固いものに当たる音がした。

顔を覗かせると、そこには顔面を押さえてしゃがみこむスーツ姿の男の人がいた。



「久しぶりです、ハジメさん。お待ちしてました」


「そんな嘘つかなくてもいいぜ…祐葉ちゃん…」


「いえいえ!心から思ってますよ、さ、中へどーぞ」


「飛壱に似てきてるな、ほんと」



ハジメさんは顔を顰めながら立ち上がって、お邪魔しますと丁寧に言ってから上がった。

靴を揃えている間、久しぶりに会ったハジメさんを観察してみる。

オールバックのこげ茶の髪、一重のつり上がった切れ長の目。

相変わらずのキツネ顔でちょっと和んだ。



「油揚げ食べます?」


「俺は狐じゃない!貰おう!」



私はハジメさんをリビングに案内して、ハジメさんのために餅巾着を取り出した。

ここに来るまでにコンビニで買っていたのだ。まさかハジメさんが来るとは思わなかったがな!!



「教材を届けに来てくれたんですか?あ、どうぞ」


「あぁ、飛壱に事前に頼まれてたんだ。これ、祐葉ちゃんが取ってる授業の教科書な。あとこれ、うちの学校のロゴ入りボールペン。あ、頂きます」



餅巾着を美味しそうに頬張るハジメさんを横目に、教科書を一つ一つ見ていく。抜けがないのを確認して、ボールペンをつまみ上げた。

珍しく黒じゃなくて、水色だった。



「でもいりませんよーこれー」


「…む、何を言う、きちんと女子高生にアンケートをとってだな、きちんとインクはゲルインクだ。色も黒ではなく水色にしてみた。ノートで沢山使うだろ?」


「いや、ハジメさんの学校、そんなに勉強に熱心なんですか?」


「これこらそうなる予定だ」


「………」



なんて真面目な話をしておきながら、私たちの目線は合っていない。二人ともハジメさんの前に置かれた餅巾着に重なっている。



「今は不良校だと騒がれているが、その内進学校とまでは行かなくとも、一歩手前までは行きたいと考えている」


「………」


「そのために、まずはテストに力を注いでみようと思ってな」


「………、」


「テストで赤点を、そうだな、初めは3つにしておこうか。3つ赤点を取ると、進級不可と――」


「…ハジメさん、いい加減油揚げと餅を分けて食べるの辞めましょうよ」



いい事を言っている。ハジメさんはとても自分の高校に熱心だと伝わってくる。しかし、しかしだ。私はハジメさんの餅巾着に目がいってしまって話に集中できん……!!



「餅巾着は油揚げと餅とのマッチングを楽しむものですよ、なに分けちゃってるんですか?!」


「油揚げ……人類の最大の発見だよな」


「いや聞いてないし!あああ、ほらぁ!油揚げを最後に残して餅だけ食べて!!」


「好きなものは最後に食べるんだ」


「いやわかりますって。じゃなくて、餅巾着は油揚げと餅を一緒に食べてこそなんですよ!!」


「先人達よ、油揚げをありがとう。俺は生涯油揚げと油揚げを考えた人と油揚げ職人を崇め奉る」


「話を聞けこの狐ええええええ!!!!」


「俺は狐じゃない!!!」


「そこだけ聞いてんなよ!!!」



もうダメだ。この人の頭の中は油揚げだ。

私は油揚げを咥えるハジメさんをグイグイと外に押しやった。



「祐葉ちゃん、油揚げとはな、」


「はいはい凄いです感激!そろそろ仕事なんじゃないですか」


「はっ!!そうだった!!」



こんなキツイ顔の人でも、心は狐な油揚げ頭ですから、皆さん仲良くしてやってください。

私はハジメさんを玄関先で見送り、視界から消えたのを確認して中に戻ろうとした。

が、視界の端に何かが見えて立ち止まった。



「…?」



そちらを見ると、こちらを見てキョトンとしている一人の男性だった。

緩くパーマをかけてふわふわとした髪を左から右に持ってきていて、うなじらへんは刈り上げてるのかな?切れ長の目は下へと垂れて、口元には色気のあるホクロ。俗に言う美形というやつだ。甘いマスクとも言う。

こちらを見て動かないから、とりあえず会釈してみた。

すると彼は私からドアへと目線を移し、納得したように頷いた。



「引っ越して来たの?」


「え?あっ、はい」



思ったより声が低いことにびっくりしたが、取り合えじ返事をしておく。

すると彼はにっこり微笑んで。



「俺、鹿賀かがって言うの。よろしくー」



そう言って手を出してきた。握手をしたが、私の頭の中は聞き覚えのある名前に違和感を覚える。

鹿賀?どこで聞いたんだろ…いや、見たのかな?

ほとんど無意識だった。

お隣さんのドアに目を向けた。

そこには綺麗な字で、『鹿賀』とあった。



………………………………。


………………………………。



はっ?!







「お隣さんっ?!!」


「あれー、分かってなかったのー?」



こんな甘いマスクマンと隣なんて、聞いてませんでしたが。

というか、この手を離せええええええええええええええっ






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