後悔してももう遅い
「……ッは、………ぐえッ……ぁ」
めいいっぱいに酸素を取り入れようとして胸が苦しくなり、喉の奥がつまる。気持ち悪い声が漏れ出してきて、けど呼吸は止められない。
情けない事に、生理的な涙までもが出てきやがった。
元々体が弱くて、運動も苦手だった僕には、先程までの全力逃走ダッシュはそうとう体にこたえたらしい。
ここは人気の少ない、建物同士が隣接した隙間に自然と出来あがった、じめじめした空気が漂う通路。ここなら暫くの間休んでも大丈夫だろう、とふと考えるが、すぐに頭を振ってその考えを払い落す。
早く彼女を助け出さなければならないのに、僕は何を考えているんだ。もしかしたら今頃、彼女はあいつらのせいで辛い目にあっているのかもしれないのに。そんな状況下で休む奴があるか。
自分の体に鞭を打ち、冷たそうな煉瓦の地面に座り込んでしまいそうだった足を無理やり立ち直させる。
いつもは殆ど走る為に使わない僕の脹脛と太ももは、ぶるぶると痙攣して震え、足の裏は太くて硬い針でもぶすりと突き刺したかの様に、痛かった。けど歯を食いしばれば、何とか走れない事も無い。
早く、彼女を助け出さなければ。あの悪魔の手から。
僕は、もうそれしか考えていなかった。
―――今日は、彼女との記念すべき初デートの日だった、のに、なぁ。
なんで、こうなっちゃったんだろう。