それでも僕はリア充になって爆発する道を選んだ―2
なんとなく、長くはないなと感じていた。もう、リアミツルの肉体は限界なんだと思った。
つまり、そう、僕は、もう死んでしまうんだ。
病室の天井が見える。つい先日、見たばかりの天井だ。
これまでのことが全て夢だったら良いなって思ったけれど、このしなやかで折れそうな手は、僕のものではなくて、リアミツルのものだ。
「あ」
声を出してみても、女の子の声だった。
元に戻ってくれていたら良かったのに。
安全、安心を得たい。元の体に戻りたい。元の生活に戻りたい。
独り、絶望の中、涙を流す。
『元に戻ることは出来ないと言ったろう?』
不意に、頭の中に、声が響いた。あの時の、僕の願いを中途半端に叶えてくれたやつの声。人ならぬ何かの声。
もしもあの時、リアミツルを助けてやってくれだなんて願ってなければ、僕は今頃、何も気にせず楽しく日々を過ごせていたんだろう。後悔したって、取り返しはつかないけれど。
「元には戻れない……か。なら、せめて、僕は、僕に会いたい……」
『鏡を見れば会えるだろう?』
「僕じゃない。これは僕じゃなくて、リアミツルだ。僕は……最期に、僕の身体に会いたい」
『そのまま待っていればすぐに会えるさ』
「本当か?」
『ああ。だが、気をつけろ。お前たち二人が触れ合ったら、爆発するようになってる』
「ば、爆発? 何で……」
『代償だよ。当たり前だろう? 何の見返りもなく願いが叶えられるとでも思ったのか?』
「お前は、何者なんだ……?」
『この世界の主宰者さ』
「え……」
『実を言うと、リアミツルは、かつては本当にリア充だったのだ。両親や親戚にも愛され、友達もいっぱい居てなぁ、毎日携帯に連絡が途絶えない人気者。もっと言うと、お前たち二人は恋人同士だった。本当に、見ていられないくらいにアツアツでお似合いでラヴラヴだったよ。……だから、記憶を奪って引き離してやろうと思ったのさ』
「何を……言ってるんだ? 僕たちは、記憶を奪われていた……?」
『それとな、はじめに死にかけたのは、お前だ。彼女は、お前を助けるために、神頼みをした。「足立くんの命を助けてあげてほしい」とな。既に充実したリアルを送っているのに、願いを口にするような欲張りなヤツは、最終的には爆発してしかるべきだろう。散々苦しみを与えた後に、爆発させてやろうと思ったんだよ』
「そんなことが……」
『お前らが幸せそうにしているのが、憎かった』
「じゃあ、リアミツルの身体が、こんなに貧弱なのは……」
『ああそうさ、その通りさ。俺の放った呪いさ。何度も順番に、苦しみを与えるように、時には身体を入れ替え、魂を入れ替え、ぐちゃぐちゃに苦しめてやった。どうだ、苦しかっただろう?』
そうだ、苦しかった。耐えられないほどに。
『お前らは、爆発するまで俺の掌の上で踊らされ続けるのさ! この世界は、“リア充を爆発させるためだけに創られた世界”なんだよ!』
死に掛けた僕を助けるために、彼女が代償を支払った。その結果が、このリアミツルの虚弱な肉体ということなんだろう……。
僕は、僕という人間は何て自分勝手なんだろうと怒りを抱いた。
彼女に対して一瞬でも憎しみを抱いたことを恥じたいと思った。
本当に、何も知らなかった。何も見えていなかった。
僕は、知らぬ間に彼女に助けられて、幸を願われてきたんだ。そのことを、こんなクズで根暗な世界の主宰者から聞かされるまで知らないでいたんだ。
――だったら、今度は、僕の番だ。
リアミツルは、いや、僕の身体は、ここに来てはいけない。僕のことなんか放っておいていい。せめて、僕の肉体のままで、残りの長く続くであろう一生を、できる限り幸せに過ごしてくれればいい。僕の分までリア充になって欲しい。そう思った。
『うーん、そうだなぁ、どうするかなあ。そろそろ爆発させても良い頃合だけど、まだしばらく爆発せずに苦しんでる姿を見るのも飽きてないんだよなぁ。爆発、リア充の爆発かぁ。フフッ、かつてリアじゅうだったお前たちは、爆発の瞬間、どんな絶望の表情を見せるかなぁ、クククク』
僕は、この世界の主宰者を自称するヤツの話を、全部メールに書いて送った。だけど、やっぱり返信はなかった。
僕は、三時間くらい、「絶対に開かないでくれ」と願いながら、扉を見つめ続けていた。
そのうち、起き上がっているのが辛くなって、横になった。息を吐いたら、胸に刺されたような痛みが走って、本当に、思い通りにならない身体だと思う。
涙が出た。




