表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつも出会いは突飛的に  作者: 月凪蒼月
2/2

1話




「柊哉、これをやる」

月影に渡されたのは、ゲームに出てきそうな剣。

「おぉ、これを使って戦うのか!……って重いな!」

腕にずっしりとくる重み。

これを使って戦う……んだよね?

「それは、tree sword。木の文字を司る者が使用する剣だ」

月影が俺の言葉を無視して言う。

「……俺がtree swordってことは月影は……」

月影は頷く。

「俺はmoon sword」

「私はfire swordよ」

「僕のはwater swordだよー」

「俺のはmetal swordだ」

「私はsun swordです」


うん。

なんという、そのままの名前の剣たちだろう。

まぁ、わかりやすいからいいんだけど。

っていうか……。


「明里、その剣、重くない?」

俺たちの持っている剣は見た目が全て同じような造りだ。

だから、重さとかも変わらねぇはずだが……。


あ、でも、もし明里の方が軽かったら、これは男女平等なんちゃらかんちゃら法にひっかかるよな!

この世界に、男女平等っていう価値観があるのかは知らんけど。

男だって軽いなら、軽い方がいいに決まってる。


「あ、じゃあ、持ってみます?」

明里の言葉に甘えて明里の剣を借りる。

「重っ‼」

重さは変わらなかった。

俺のと。

この世界は、ちゃんと男女平等だった。


「はぁ……」

男として情けなくなってきた。

「まぁ、最初は誰もが重いって感じるし。大丈夫っしょ」

銀河はおもいっきり他人事だ。

これを持って戦地へ行くわけだよね?

全然大丈夫じゃねぇ気がするんだが。


「大丈夫。俺が特訓してやるから」

ガシッと俺の肩に腕を回す月影。

俺は、

「はぁ」

と曖昧な返事しか出来なかった。


「というか、明里ー!腹減ったー。昼飯作ってくれー」

銀河が腹を抑える。

「あ、忘れてた!今すぐ作るね!」

「私も手伝うー!」

明里と火南美思は台所に消えていった。


「と、いうわけで、柊哉。ついてこい」

「……?」

言われるがままに月影の後を追う。

着いた所は、中庭のような所。

中庭というか……裏庭?

庭っていうか……外?

説明がつかないけど。

「さて、柊哉。特訓するぞ」

「特訓っ⁉」

月影の言葉に耳を疑う。

「いつ八神が動き出すか、わからんからな」

「いや、それは知ってるけど……。腹が減っては戦は出来ぬっていうじゃん……?」

「そんなヘタレなら、今すぐここから出て行くんだな」

月影が薄笑いを浮かべる。

「……頑張ります」

渋々納得するしかない俺。

この世界が危険って理解した後に、出て行くなんて行為が出来るわけないだろ?


「よし。じゃあ、それを床に置け」

「え?tree swordを?これを使って練習するんじゃねぇの?」

俺の言葉に月影は首を横に振る。

疑問に思いながらも、月影の指示に従う。

逆らったら、怖そうだし。

「じゃ、特訓開始だ」

月影がニヤリと口角を上げた。

その笑みに背筋がゾクリとしたワケは、月影の特訓を受けて、すぐにわかった。



「いってぇ……」

体のあちこちが痛い。

体力と運動神経には自信があったんだけどな。

中学の頃は、陸上で賞状とトロフィーばっかり貰ってたし。

陸上を辞めてからも、ちょいちょい走ったりしてたんだけどな。


空にはすっかり綺麗な月が浮かんでいる。

月影も空をちらりと見て、

「ま、この辺でいいか」

と呟いた。

「え?何が?」

「柊哉、それを持ってみろ」

「お、おぅ……」

tree swordを持ってみる。

「えっ?」

さっきと比べもんにならないくらい軽い。

「ちょっ……、月影⁉なんか、めっちゃ軽くなったんだけど……」

「それが軽くなったんじゃねぇよ。柊哉に力がついたんだ」

「……マジかよ」

力とか筋肉って、こんな半日でつくもんだっけ?

もっと年単位とかなんじゃなかったか?

この世界と俺のいた世界とはやはりかってが違うのか?


「やっほー!お二人さん、調子はどうだい?」

水城がニコニコとやってくる。

「まぁ、ぼちぼちかな」

俺は苦笑いで答える。

「あ、でも、剣を持てるようになったんだ。早いね!」

水城がビックリしたように言う。

「柊哉は、モトが悪くないようだからな」

月影は無表情で答える。

褒められてるのか、よくわからねぇ。

「へぇー」

水城とそんな話をしてると、


「やほー!どう?順調に特訓は進んでる?」

「お疲れ様です」

火南美思と明里がやってきた。

それから、

「柊哉、調子はどうだ?」

「そろそろへばった頃かぁ?」

境野と銀河までやってきた。


なんだかんだで、選抜のみんなが集まってきた。

そんなに俺が気になるのか?


「柊哉、なににやついてんだ?気持ち悪いな」

銀河が鼻で笑う。

「え?今、俺にやついてた?」

「あぁ。どうせ、『俺のこと気になるのか?』とか考えてたんだろ?」

「うっ……」

「そんなことだろうと思ったぜ」

銀河がやれやれと言うようにため息をつく。

「柊哉、自惚れるなよ?剣が持てるようになったからって、これで特訓は終わりじゃねぇからな?」

月影が薄く笑う。

「デ、デスヨネー」

ゴールはここじゃない。

……長い道のりになりそうだ。


「でも、柊哉ならすぐに私たちのレベルにまで追いつきそうよね」

「まぁ、追い抜かれないように火南美思も頑張るんだな」

「そう言う境野もね」

「俺が抜かれるわけねぇだろ」

「柊哉を甘くみてると、痛い目合うわよ」

「誰だよ」

火南美思と境野の会話を横から眺める。

なんだかんだ、この2人ってお似合いだよなー……。

大人な2人って感じがするもんな。

そんなことをぼんやりと考える。


「ってか、月影は?」


辺りをキョロキョロと見回す。

どこにも月影の姿はない。

「あ、本当だ。またアイツどっか行ったなー」

銀河もキョロキョロと辺りを見回して言った。


「また?月影がいなくなることってしょっちゅうあることなの?」

「まぁな」

境野が素っ気なく答える。

「でも、すぐに戻ってくるから心配しなくても大丈夫よ」

火南美思はニコッと笑う。

「そうなのかー。月影がどこ行ってるとかって知ってる?」

「知らないなー。月影も話さないし、僕たちもきかないからね」

水城が苦笑いを浮かべる。

「まぁ、いつか話してくれると思いますよ。それか、話すようなことでもないかもしれませんしね」

明里が優しそうな笑みを見せる。

「だな。月影が何者であろうと、俺たちの仲間であることには変わりないんだろうけどな」


そんなクサイセリフがさらっと口から出た。

言った後に、恥ずかしさが、襲ってきたけど、みんなの顔が『そうだね』と言っていたから、考えてることは同じなんだなと思った。

そんな青春っぽい雰囲気が流れていた。


すると突然、

「あっ」

明里が何かに気付いたように声を出した。


「そろそろご飯作らなきゃだった!では!」

「あ、私も手伝うっ!」

そそくさと2人は中に入っていった。


取り残された男軍団。

「……んじゃ、俺らも中入るかー」

「そうだね」

「剣の手入れをしなくてはだしな」

3人は、雑談をしながら歩きだした。


「……柊哉?」

止まったままの俺を、不思議そうに見る3人。

「わりぃ。俺、ここで月影待ってるわ」

「そうか。でも、アイツならひょっこり戻ってくるぜ?」

「うん。だけど、ちょっと……」

「わかった。行こう!銀河と境野」

水城が銀河と境野の背中を押しながら進む。


そして、3人の背中が見えなくなった。

俺もなんで、月影を待とうなんか思ったのかは、よくわからない。

なんとなくってやつ。


よいしょと、地面に寝っころがる。

綺麗な月

俺が元いた世界で、こんな綺麗な月が見えただろうか?

なんか、味気ない世界だった気がする。

よく見ると、星にも色々な色があるんだな。

見れば見るほど、宇宙の広さに吸い込まれそうになる。


あの中に地球はあるのだろうか。

いや、そもそも、ここが地球じゃないって確信はないから、ここも地球かもしれないけど。


もし、八神を倒して、ここの世界にまた平和が訪れたら……。

俺は、どうなるのだろう。

きっと、この選抜チームは解散だろう。

必要性がなくなるからな。

元の世界に戻れるのだろうか。

今のところ、戻りたいという意欲は無いんだけど。


でも、みんな、どうしてるかなぁ……?

俺がいなくなって、パニックになっているのでは、なかろうか。

警察沙汰になってたら、めんどくせぇな……。


課題も結局、手をつけてないしな。

帰ってきたら、夏休み最終日とかは、絶対やめてくれよ……。


てか、そもそもどうやって、この世界に来たのだろうか?

それがわからないと、帰れない気がする。


うーん……。

出会いとか、そういうのって、いつも突飛的だよな。

突然、出会う。

誰かに仕組まれたように。

誰も、予想してないことが起こったりするし。


世界は、突飛的なもので構成されているのでは、なかろうか?

今日、月影たちに出会ったのも、突飛的だったし。

本当、未来って何が起こるかわからねぇよなー。



そんなことを考えていたら、

「おいおい。こんなところで1人月見か?」

頭の上のほうから、声がした。

俺はびっくりして、起き上がった。

「つ、月影」

「隣、いいか?」

「お、おぅ」

それから、無言で月を眺めた。

静まりかえった空間。

何故か心地よい。


「全てが0になればいいのにな」


月影がいきなり呟いた。

「え?」

俺が聞き返すと、月影は、

「なんでもねぇよ」

と素っ気なく答えた。


そう答えた月影が、なんだか悲しそうだったので、それ以上つっこむのはやめておいた。

「月影」

「ん?」

「いや、呼んでみただけ」

「なんだよ」

…………。


そういえば、月影って笑うのかな?

唐突にうまれた疑問。

なんか、コイツ、ずっと無表情じゃね?

時折、薄笑いを浮かべるけど。


……よし。

月影って笑うのか検証を始めよう。

ってわけで、俺の最高級の変顔を見せてやった。


すると、月影は腹を抱えて笑い出した。

「お前……なんつー顔してんだよ……っ」

そこまで笑うか。

そこまで笑われたら、逆に清々しいわ。


「いや、月影って笑うのか検証してみた」

俺は変顔のまま答えた。

でも、クールな月影が笑った。

なんか、それだけで嬉しくなってきた。

「ぶはははっ!柊哉!マジやめろっ!腹がよじれるっ!」

目に涙まで溜めてやがる。

変顔をここまで笑われたのは、始めてだ。


「柊哉。俺の反撃だ」

「ぶははははははっ!月影っ!それはダメだろっ!ヤバい!腹が……腹がっ」

月影も変顔をしてくる。

お高くまとってる奴かと思ってたけど、案外ノリのいいやつだ。


……こんなに、誰かと大笑いしたのは何年ぶりだろう?

夜空に俺らの笑い声が響いた。



「月影さーん!柊哉くーん!ご飯ですよー?」

爆笑している俺らを、明里が呼ぶ。

「はーい!」

2人で笑ったまま、返事をする。

変にテンションの高い俺らに、明里は首を傾げていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ