表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

買い物 前編

グランスは夜明けとともに起床し、自己鍛錬に励んでいた。傭兵にとって腕の衰えは依頼の所為効率低下につながり、最悪命に関わる。だから、グランスは毎朝トレーニングに励むのが日課となっている。

「ふぅ…。今日はこのくらいにしておくか…」

 本来ならば『流星』の制御訓練もするのだが、今はグランスの首に着いたロザリオ付きの首輪によって封じられてしまっている。

「あいつに聞けば、何か分かるかもしれねェな…」

 昨日、グランスの家に逃げ込んできた少女ルナは、遺伝子覚醒開発をしている研究所から逃げてきたと言っていた。ルナに聞けば、このロザリオに関して何か分かるかもしれないとグランスは考えた。ロザリオを一度握りしめ、グランスは家へと戻った。自宅に戻ると、ルナはベッドの上でぐっすりと寝ていた。

「フッ、お気楽なものだ」

 そうは言いつつも、追ってから一晩中逃げていたのだから、仕方がないのかもしれないのかもしれない。グランスは脱衣所へと入り、汗で服を脱ぎ捨て浴室に入る。蛇口を捻るとシャワーから冷水が一気に飛びだし、グランスの表面を流れ落ちて行く。自分の体を流れ落ちて行く水を見ながら、グランスはこれからの事を考えていた。

 ルナの追手はグランスが殺した。だが、その追手と連絡が取れないと分かれば、向こうは間違いなく次の刺客を送り込んでくるに違いない。グランスの家は町から少し離れている為街に被害が出る可能性は低い。しかし、ルナをあぶり出す為に街で暴れるか、待ちに居るところを襲われれば、決して少なくはない死傷者が出る。多かれ少なかれ街の皆に世話になっているグランスとしては、その事態だけは避けたかった。

「もう、道は決まってるみてェだな…」

 グランスは蛇口を閉め、浴室を出る。そして、用意していた下着とズボンを履き、脱衣所を出る。すると、いつの間にかルナは起きており、グランスに気付いたのか振り返る。

「あ、グランスさん。ってきゃぁあああ!! なんで上半身ハダカなんですか!?」

 グランスが上に何も来ていないことに気づくと、ルナは赤面した顔を手で覆い、叫ぶ。

「…お前一体どんな貞操観念持ってんだよ。それじゃ海水浴にも行けねェだろ…」

 勝手に一人で真っ赤になって騒いでいるルナに、グランスは溜息を洩らす事しか出来なかった。

「そそそ、それとこれは話が別で…。その、グランスさんの引き締まった体が…って、とにかく服を着て下さい!!」

 ルナは完全にテンパっていて、何か色々と口走った後、最終的にそっぽを向いてしまう。幸い、グランスはルナが口走ったあれこれを聞き逃していた。

「はぁ、分かったよ。着ればいいんだろ?」

 グランスは、これ以上騒がれるのも鬱陶しいと思い、戸棚から服を取り出して着る。

「ほら、これでいいだろ?」

 ベッドに座り込んだまま拗ねているルナに、グランスは声をかける。ルナは振り返り、グランスが服を着ている事を確認すると、ホッと胸を撫で下ろす。

「もうちょっと人目というのを気にしてくださいよ。全く…」

「うるせェ。買い物行くからさっさと着替えて準備しろ」

 大きなお世話だと言わんばかりに嫌そうな顔をするグランスは、そう言って出かける準備を始める。

「あ、あの…。グランスさん?」

「…なんだよ」

 ルナは、キュッと手を握りしめ、少しだけ俯いている。心なしか、頬がほんのり赤みを帯びている気がする。

「あの、ですね…。着替えたいので、後ろ、向いていてもらえませんか?」

「無理だ」

「なっ、なんでなんですか!?」

 あっさりと即答された(しかも否定)ルナは、思わず目を見開く。

「俺だって準備があるんだ。それに、お前の見たところで別にどうってことねェし」

 グランスの心ない言葉に、ルナは激昂する。

「どうしてそんなにデリカシーが無いんですか! しかも乙女心を傷つけるなんてヒドすぎます! その、少しくらいは…」

 しかし、最後に何かを言いかけて、ついには黙り込んでしまう。

「そんなに見られたくねェなら、脱衣所で着替えろ。ついでにシャワーも浴びとけ」

 グランスはそれだけ言うと、着々と出発の支度を整えていく。

「むぅ…」

 ルナはムスッとした表情でグランスを睨んだ後、ベッドから降りて干してあった自分の服を引き千切るように回収する。そして、それらを両手で抱え込みながらルナは脱衣所へと消えて行った。


「もぅ、ヒドいよ。グランスさん…」

 ルナはサイズの合わないブカブカな服を脱ぎ捨て、浴室に入る。そして、鏡に映る自分の姿をじっと見つめる。小柄で慎ましやかなルナの体には、昨夜負ったはずのかすり傷の一つさえ残っていなかった。それは、ルナの肉体が普通の人間とは異なっている事を意味していた。

忌々しい自身の体。どうして私はこの体を持って生れて来たのだろう。数えるのが嫌になる程そんな事を考えた。この体を持って生まれさえしなければ、今頃自分は普通の女の子としてありふれた日常の中にいただろう。

「もう、考えるのはやめよ…」

 鏡の中の自分に呼びかけ、ルナは目を瞑り深呼吸をする。そして、目を開けると鏡の中のルナと再び目が合った。ルナはシャワールームのドアを開け、中へと入った。そして、シャワーの蛇口をひねる。すると―――

「ふひゃぁぁああああああああっ!!」

 シャワーから出てきたのは温水ではなく、冷水だった。それを頭から被ったルナはたまらず変な悲鳴を上げる。

「んだよ、うるせェな。ちっとは静かにシャワー浴びろよ」

 悲鳴を聞きつけて来たのか、グランスは容赦なくシャワールームのドアを開ける。

「何で冷たい水が出るんですか!? 心臓止まるかと思いましたよ!!」

 グランスを認識したルナは、その怒りの矛先をグランスに向けて思い切り激昂する。

「仕方ねェだろ。温水出ねェんだから、それくらい我慢しろ」

 グランスはやれやれと言った表情で、ルナの矛先をスルリと避ける。

「それより、さっさと体拭いて出かける準備しろよ」

 グランスはそう言ってバスタオルをルナに目がけて放る。

「あ………」

 暫くグランスを凝視した後、自分の体を見下ろす。そして、ボンッという音が出そうなほど顔が一気に赤くなる。

「あ、ぁ…」

「ア? 何だよ」

 呻くような声を漏らすルナに、グランスは苛立ちを覚える。

「さっさと服着て――――」

「きゃぁぁああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」

 グランスの苛立ちは、ルナの大絶叫によって一気に吹き飛んだ。



「オイ、いい加減に機嫌直せよ」

「ふん!」

 ルナはツカツカとグランスの前を歩く。グランスは大きくため息をつきながら、ルナの後をついていく。

「だいたい、ハダカ見られたのは今回が初めてじゃねぇんだから別に――」

「初めてじゃないからってそんなの理由になりません!!」

 グランスの弁解に、ルナは百八十度ぐるりと回転してグランスに怒鳴りつける。

「んだよ。じゃあ、どうすりゃいいんだよ…」

 正直、ここまで言われるとグランスも気がめいるらしい。

「自分で考えて下さい!!」

 ルナはそっぽを向いて、またツカツカと歩いていく。

「なぁ、お前に訊きたい事があるんだが…」

「………」

 反応はない。

「この首輪って、何だか分かるか?」

「………」

 これもまた反応はない。

「オイ、いい加減にしろよテメェ…」

 段々声が荒げてくる。グランスは痺れを切らし始めたようだ。

「その首輪は、封魔の首輪です。遺伝子覚醒を抑える為に作られた物です。私も研究所にいた時は付けてましたから」

 ルナは、淡々と振り向くことなく答える。

「じゃあ、お前これ外せるんだな」

「はい。私には微弱ですが生体電気を操る力があります。貴方の家の鍵を開けたのもそれを使いました」

 遂には事務的な口調になり、歩行速度をドンドン速める。

「あっそ…」

 グランスはその後街まで一言も話さずにあるきつづけた。


「ふわあぁぁ…」

 街に辿り着くと、ルナは感嘆の声をあげる。

「人がいっぱいいるよ!」

 ルナはさっきまでの険悪なやり取りなどすっかり忘れて、興奮気味だった。

「普通だろ。街なんだから…」

 グランスは呆れつつも無意識に笑いをこぼしていた。はしゃぐルナは、きょろきょろと街並みを楽しそうに見ていた。

「ほら、買い物の目的はそっちじゃねェぞ」

 グランスは、ルナとはぐれないようにルナの手をパシッと掴む。

「ひゃわっ!?」

 ルナは咄嗟に可愛く悲鳴をあげて、振り向く。

「さっさと買い物済ませて帰るぞ」

 グランスは実に簡潔に告げると、そのままルナの手を引いて歩きだす。

「あ、あの…グランスさん?」

「あ? 何だよ」

 ルナはグランスの手をキュッと握って、俯き気味に頬を赤らめている。

「いや、その、手―――な、何でもないです」

 ルナは何かを言いかけたが、途中で黙りこくってしまう。一方のグランスは、ルナの声が小さくて聞き取れなかった。

「何だよ。さっさと行くぞ」

 グランスは特に気にも留めず、そのままルナの手を引いて再び歩く。ルナは呆けるように、細身の割に広いグランスの背中をずっと見つめていた。

「ほら、着いたぞ」

「へっ…?」

 グランスの声に我に返ったルナは、素っ頓狂な声をあげてしまう。グランスの指差す先を見ると、拳銃型の看板が建物の壁から吊るされ、《ガンスミス・ゲイルの店》と書かれていた。

「ここって…」

「あぁ、これからお前の護身用拳銃を買う」

 拳銃。それを訊いた瞬間、ルナの鼓動がドクンと跳ねる。嫌な感じがルナの中を巡るのが本人にも分かった。

「言っとくが、お前が買うのは人を殺す道具じゃねェ。お前自身を護る為の道具だ」

 ルナの思考を読み取った様に、グランスは言った。ルナは一瞬驚き、思わず顔をあげる。「武器持った奴に丸腰じゃ勝てねェからな」

 グランスは苦笑いを混ぜた表情でルナを見ていた。

「そう、ですね…」

ルナも笑って返したが、何かまだ言いたそうな表情をしていた。しかし、グランスは気付くことなく、そのまま店の中へと入っていき、ルナは慌てて後に続く。中に入ると、カウンターで暇そうに一人の男が頬杖をついて客が来るのを待っていた。男は体格が大きく、浅黒い肌で、頭はスキンヘッドと、いかにもという感じの身なりをしていた。

「相変わらずネーミングセンスねェな、オイ」

 グランスは馴れ馴れしく、暇そうな男に声をかけた。

「うるせえよ。俺がネーミングセンスねぇこと知ってるだろ?」

 店主ゲイルは吐き捨てるようにグランスに返した。たが、ゲイルがグランスの後ろから顔を覗かせるルナに気づくと、ニタァっとイヤらしい笑みを浮かべる。

「で、今日は連れがいるみてえだが、ひょっとしてデートか?」

「で、デートぉ!?」

 ルナはからかうゲイルの言葉を真に受けて顔を真っ赤にしているが、グランスは深くため息をついて呆れ果てていた。

「デートだァ? 普通こんな埃くせェ所来ねェよ。買い物だ、買い物」

 グランスがそう言ってやると、ゲイルは眉をひくつかせながら立ちあがる。すると、グランスの後ろにいたルナがビクッと震えた。何故なら、ゲイルが予想以上の巨漢だったからだ。カウンターに座っている時もそれなりの大きさだったので、体が大きい事はルナにも予想は出来たが、正直ルナにとっては予想以上だった。

「オイ、急に立つから俺の連れがビビってるぜ?」

 気付いていたのか、グランスはルナを親指で差してニヤリと笑う。

「おっと、悪いな嬢ちゃん。脅かす気はなかったんだ」

「だ、大丈夫です。ちょっとおっきくてびっくりしただけです」

 謝るゲイルに、ルナは笑って返した。

「そういや、お前まだ自己紹介してねェよな。一応世話になんだからしとけよ」

 グランスは二人の妙な空気を払ってやる。

(こいつ、ムカつくくせにこういう気の利いたこと出来るんだよな…)

 そう心の中で思いつつも、ゲイルはグランスの計らいに感謝せざるを得なかった。

「あ、あの、初めまして。ルナって言います。その、今日はよろしくお願いします!」

 しどろもどろなルナの自己紹介に微笑ましさを感じつつ、ゲイルも自己紹介で返す。

「俺はここの店主のゲイルだ。よろしくな、嬢ちゃん」

 ゲイルは大きな右手を差し出して、ルナに握手を求める。ルナは一瞬ためらったが、その大きな掌に自分の小さな手を差し出す。すると、ギュッと強い力で握られたので、ルナはビクッと体をすくませる。

「あ、悪い。痛かったか?」

「あ、いえ…。その、いきなりでびっくりしただけですから…」

 これまた、さっきと同じような展開にグランスは思わず腹を抱えて笑いそうになった。

「オイ、デジャヴはその辺にしとけよ。俺はこいつと話しがあるから、お前は店内でちょっと良さそうな銃を探しておいてくれ」

 グランスが助け船を出してやると、ルナはコクンと一度だけ頷いて店の奥へと駆けて言った。

「で、話って何だよ…」

 ゲイルは低い声で訊ねた。だが、良くない話である事はグランスの表情から察せられた。

グランスは顔を近づけ、小さく告げた。

「あいつは恐らく、あの研究の被験体だ。しかも、かなり完成度が高い」

「―――っ!?」

 思わず声をあげそうになったゲイルはぎりぎりのところで踏みとどまり、どうにか堪えた。

「…あの研究は、お前の件で永久凍結されたんじゃねェのかよ」

 苦悶の表情を浮かべるグランスは、ギリッと奥歯を噛みしめる。

「今のところは何とも言えねェが、とにかく、俺にはアイツを守る義務がある」

 グランスは強い信念の灯った鋭い眼差しで、店の奥を見据えた。

「お前の事だから、ここを出るんだろ? でもよ、行く当てはあるのかよ…」

「正直なところない。だけど、他の街でも俺と知り合ってる連中は幾らかいるから、困った時はそいつ等から力を貸してもらうさ」


◇ ◇ ◇


(二人とも、一体なにを話してるんだろう…)

 ルナは店内を巡回しつつも、二人の様子をずっと伺っていた。声は聞き取れない。でも、表情から読み取る限り、余りいい話ではないようだ。声が聞きとれない以上、これ以上様子を伺っていてもしょうがないので、ルナは店内に置かれている銃に視線を移す。ショーウィンドウに飾られているもの。箱に入れられているもの。大小さまざまな銃が店の中にはあった。研究所で生まれ育ったルナには、どれも見覚えのないはずの銃器達。だが――

「やっぱり…。私、知ってる」

 ルナは、一度も見た事が無いものに対する知識を持っていた。銃器の扱い方だけではなく、調理器具の扱い方やあらゆる機械の操作方法なども知っている。それが、ルナにとっては気味が悪くて仕方なかった。

「嫌………」

 肩が震え、胸が苦しくなる。自分が一体、どれだけのものを抱えているのだろうと思うと、発作のようになる。

「オイ、大丈夫か?」

 突然、ポンと肩を叩かれたルナは反射的にその場から飛び退く。見ると、肩を叩いてきたのはグランスだった。呆気にとられたグランスの表情を見て、

「ご、ごめんなさい…。その、びっくりして…」

 とだけ言ってルナは黙り込む。

(ごめんんさい…)

 ルナは、心の中でもう一度謝った。

 

◇ ◇ ◇


ゲイルとの話が終わり、グランスはルナを呼ぼうと店の奥へ向かった。少し行くと、ショーウィンドウの前で茫然と立ち尽くしているルナの姿があった。

「オイ、何か良いのはあったか?」

呼びかけてみたが、反応はない。表情も何処か虚ろな気がする。しばらく様子を伺っていると、ルナは急にその場で震えだしていた。グランスは、店の前での会話を思い出し、その事だと思った。

「オイ、大丈夫か?」

 グランスが肩に手を置いた瞬間、ルナはその場から弾かれるように飛び退いた。これには正直、グランスも驚いた。ルナの瞳の奥に一瞬だけ敵意を感じ取ったからだ。

「ご、ごめんなさい…。その、びっくりして…」

 ルナは謝ると、そのまま黙りこんでしまう。ただ事ではないな。グランスはそう思った。

「あ、ゲイル。お前のとっておきを出してくれねェか?」

 グランスはカウンターから様子を伺っているゲイルに視線を向ける。

「応!! その言葉、どれほど待ち焦がれた事か!!」

 ゲイルは見悶えるように体を震わせた後、親指を天井に向かってビシッと突き立て、カウンターの奥へと駆けていった。

「……?」

 ルナに視線を戻すと、ルナは何がどうだか分からないと言った表情を浮かべていた。

「ま、そのうち分かるぜ」

 グランスはルナの無言の問いかけを、笑って誤魔化した。

 しばらくすると、ゲイルがカウンターの奥にある物置から帰って来た。

「あったぜ。嬢ちゃん、こいつらを使ってやってくれねえか?」

 ゲイルが持ってきたのは箱だった。少しばかり誇りを被っているが、結構新しい。

「開けても、良いですか?」

「ああ、いいぜ」

 二人の奇妙なやり取りを、グランスは隅で顔を歪めて笑った。ルナはそんなグランスに気づくはずも無く、ゆっくりと箱のふたを開ける。すると、中に入っていたのは二丁の拳銃だった。

「……綺麗」

 正直ルナ自身、拳銃に向かってその形容を使うとは思ってもみなかった。だが、それを使うだけの美しさが、その銃にはあった。大口径リボルバー式と小口径自動式。素朴でありながらも洗練されたフォルムには、何か流れるような模様が刻まれている。そして、全体として青味を帯びた黒色をしており、更に模様も相まって、まるで流星を思わせるような美しい拳銃だった。

「名前はねえから、嬢ちゃんが付けてくれよ」

「え…。私が、ですか…?」

 ルナの問いかけに、ゲイルは笑顔で首肯する。ルナはゆっくりと箱に収まった二丁の拳銃を見る。そして、その二つを両手に取り、グリップを握る。ズシリと重たい感触が、その存在を知らしめてくる。

「双子の流星ジェミニ・スター…」

 ふと、ルナの頭の中にそんな言葉が過った。

「…いい名前じゃねえか。大事にしてやってくれよ」

 ルナが顔をあげると、ゲイルが嬉しそうに笑って親指を突き立てていた。

「はい!」

 ルナは元気よく返事をして《双子の流星》を胸に抱いた。何と言うか、道具というよりパートナーという感じだった。

「おっと、こいつを忘れるところだったぜ」

 ゲイルは何かを思い出すと、カウンターの下からホルスターが二つ付いたベルトを出した。

「これに入れておいた方が便利だと思うぜ」

 ルナは一度《双子の流星》を机の上に置いた後、ベルトを腰に巻いた。それから《双子の流星》をそれぞれのホルスターに収める。

「どう、ですか…?」

 ルナは頬少し赤らめつつ、二人に訊いた。

「似合ってるじゃねえか!」

 と、ゲイルは称賛したが、

「流石にむき出しだと危ねェから、コートで隠した方が良いな」

 と、グランスは冷静な突っ込みを入れた。だが、ルナはグランスの言葉など気にも留めず、ホルスターに収まった《双子の流星》をずっと見ていた。

「うっし。武器も手に入った事だし、次は服と防具を買いに行くか」

 グランスはカウンターに片腕を乗せ、ゲイルに訊ねる。

「で、いくらだよ。これ、お前の自信作なんだろ?」

「あぁ、今回限りは要らねえよ。嬢ちゃんのあの笑顔で腹いっぱいだ。ま、次来た時はお前からがっぽりボらせてもらうがな」

「安心しろ。もう二度と来ねェから」

 ガハハハと豪快に笑うゲイルに、グランスは一言返してやると、そのまま身を翻した。

「オイ、いつまでもファッションショーやってねェで行くぞ。だいぶ時間食っちまったからな」

 グランスは、くるくる回ったりして喜んでいるルナに一言言うと、そのまま店を出て言った。

「あっ、ま、待って下さい!」

 ルナは慌ててグランスの後を追いかけようとして店の出入口まで来たところで振り向く。

「あの、今日はありがとうございました! また来ますから!」

「おうよ! いつでも大歓迎だぜ!」

 ルナの笑顔に、ゲイルも笑顔で返した。

「――――また来ます、か……」

 ゲイルは、店を出て遠ざかっていく小さく力強い背中を眺めながら一人呟いた。


暫くぶりの更新です。今月は後一、二回ほど更新します。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ