第6話 誕生日前日
二章開始
「お父様、お母様、おはようございます」
朝の光が差し込む食堂に、子供らしい高い声が響いた。
「おはよう、オースちゃん今日も可愛らしいわ」
「おはよう、明日はお前の六歳の誕生日だな」
そう、僕はこの世界に転生してから六年を経とうとしている。
今までのことを話そう、あれはゼロ歳のとき。
両親が王都に帰ってきた後だった。
執事長のクロストと、家政婦長のマールによる、教育が始まった。
結論から言おう。……くっっっそ、大変だった。
ゼロ歳から、子守唄と称して、なんか色々な事を話していた、まぁ殆ど聞いていなかったけど。
そして歩けるようになって少しした頃。
小さい手に木剣を握らされた。
基本の持ち方から素振りまで。
正直、クロストには、正気か!?と思ったが、案外、体を動かせるという楽しさもあって、どうせ暇だしと思い、ほぼ毎日のように、訓練と言う名の遊びとしてやっていた。
まぁ、全然筋肉もついてないので振り下ろす速度も正確さもないが、それなりの形にはなっていたと思う。
そして声に出して言葉を喋れるようになった頃。
マールによる、礼儀作法の練習が始まった。
断言するが、これが一番きつかった。
前世は平均点の平民で、しかも怠惰に生きてきた人間だ。
一挙手一投足に気持ちを込めて歩いて、座るときには背筋を伸ばす―――。
貴族の話し言葉は、案外早く覚えられた、やっぱり子供特有の吸収力があるのだ。
何より最悪だったのが、サボろうとしてもサボれないということだ。
なぜなら、日常の動作だからだ。
楽にできたのなんて、自分の部屋ぐらいだ。
部屋の外に出たら、執事やメイドたちに監視されていて、もしだらだら歩いてたら、マールに報告され……。
大変なことになる。
そんなこんなで、今まで過ごしていた。
まぁ、クロストやマールの教育は、「普通」の公爵家になるためには、必要なことだろうと思い頑張った……。
―――頑張った?
……まぁいいとして、明日は、誕生日だ。
今までの誕生日は、屋敷内でだが、盛大に行われてきた。
そんなことより、その一週間後に控えている、禁忌の森への遠征が決まっていることだ。
目的は、その森の中にある、祠に行き、『神の選定』を受けることだ。
そこでようやく、待ちに待った、魔法が使えるようになる。
もしかしたら、『スキル』も使えるようになるかもしれない。
転生してから、魔法を使えることを知り、ずっと楽しみにしていた。
だが一つ懸念がある。
それは、同い年の貴族の子どもと会うことだ。
僕にとっては、初めての同学年との対面となる。
会話ができるか不安でいっぱいだ。
そして今更ながら気づいたことがある、クロストとマールの教育はこのために行われたのではないかと。
そう僕は、貴族の中でも位が高い公爵家の人間だ、おそらく、王家の子供がいて、僕はそのお相手役をするのだろう。
王家と関わるため、最低限なマナーと、万が一のための護衛術。
確か、父は国王と仲が良かった気がする、もしかしたら、息子同士仲良くさせようとか言って、成り行きで決まったのかもしれない。
まぁ、ただの予想だ。
「ごちそうさまでした」
うーん、やっぱり今日もうまかった。さすがボクス料理長の作った料理だ。
ちなみに、松茸料理は、僕の要望で、一週間に三回夜に出してくれることになった。
うん、とっても幸せだ。
「オースよ、明日の誕生日楽しみにしとけよ」
「はい、……それより、一つ質問をしていいですか?」
「そ、それよりとは、……まぁなんだ?言ってみろ」
「禁忌の森の遠征についてです。もしかして僕、王家の方と同行するんですか?」
「おぉ、鋭いな。緊張させないように、当日まで言わないようにと思っていたんだが」
いや、心の準備とかの時間も欲しいもんですよ。
「そうなんですね、驚きました」
「すまんな、ちなみに、王家の子供は、ソルトという名前だ」
「ソルト様ですか」
「何より、子供ながら、非常に頭が良いっていう話だ。第九王子でありながら、派閥もだんだんとでき始めているらしいぞ」
「そうですか」
第九王子ねぇ、どんだけ子供いるんだよ。
「まぁ、同学年なんだし、気楽に接していいと思うぞ、おそらく学園でも同じになるだろうし」
「長い付き合いになりそうですね」
「そうかもな……」
「では、ありがとうございます。失礼します」
あぁ、大変そぉ。
♢
「お、おい、もう少し親との会話を。……もう反抗期か?」
オースが部屋を出たあと、ジュリアスはがっくりと肩を落としていた。
「いえいえ、あなた、オースちゃんは、おそらく第九王子と同じく、頭が良いのでしょう。執事長や家政婦長からの報告では、何をさせても、飲み込みが早いと言ってました」
「そういえば、そんな報告があったな。まだ六歳になろうとしているところなのにな」
「えぇ、きっとオースちゃんは、将来立派な人になるのでしょうね。第九王子を支えて、国王にまで押し上げてしまったりして」
「あぁ、あるかもしれないな。……ソシルナ、楽しみだな」
「はい、楽しみです」
「――それより、今は明日の誕生日のことだ。ちゃんとプレゼントは用意しているな」
「ふふっ、もちろんです」
静まり返った食堂には、公爵夫妻の笑みがこぼれていた。




