第3話 ソフリーン公爵家の会議室
両親が王都に向かっていって二日が経った。
「オース様、今日はソフリーン公爵家全体会議があって、私も出なくてはならないので、いっしょに出てもらいます。なので、今日は、あんまり泣かないでほしいです。……でも赤ちゃんは泣くのが仕事ですもんねぇ。まぁ、流石に、お父様も分かってくれるとは思うけど」
全体会議か、この公爵のことが少しでも分かればいいけど……。
「セリオナ〜、もうすぐ会議始まるよ〜」
セリオナとよくいるメイドのサーヤだ。
「ちょっと待って〜」
「あれ、そうか今日の会議は、オース様も一緒なんだ」
「そうなの、泣かないか心配で」
「別に、泣いてもいいでしょ、私の弟がゼロ歳の時なんて、いつも泣いてたような気がするよ。私の弟に比べたら、オース様は全然泣いてないよ」
「そうなんだ、確かにオース様って、オムツ交換とミルクが欲しいとき以外泣かないな、それでも正直夜泣きは辛いけど」
すみません。生理現象なんです。
「そうだよなー、寝てるときが一番幸せなセリオナには辛いよなぁ」
「まぁ、うん、否定はしないけど。それを上回るぐらいにオース様といっしょにいるときは、幸せですから」
「それに関しては、私もそう思う、やっぱ赤ちゃんているだけで人を幸せにするもんなぁ」
へ、へへへ。
「うん。………ていうか今時間は?」
「あ。………急げーーー」
「で、では、オース様、急いで会議室に向かいますね」
♢
「――全員集まったようですね、では、今からソフリーン公爵家全体会議を始めます。司会進行は私、執事長、クロスト・チェックが務めます。今回、旦那様が不在のためな政治関連などは省略させていただきます」
始まったか、空気がすごく重い気がする、執事長の威圧感がすごい。
ちなみに、セリオナとサーヤは、ぎりっぎり間に合った。
「では皆の報告を聞く前に、前の会議であった、執事とメイドの数を増やしてほしいという意見だが、人件費の予算がなくなったため、増やせないという決断になりました」
意外だな。公爵家と言ってもお金が有り余っているわけじゃないのか。毎日松茸を食べるのは無理かぁ。あ、でも、こっちの世界だったら、別に高級食材とは限らないだろう。
「では最初に、家政婦長マール・シトエ様、仕事の報告をお願い致します」
「はいよ、報告の前に、執事はともかくメイドを増やすってことはできないのかい、昔からいたメイドが二人も抜けちまったの知ってるだろ。………ん?ていうかその二人の人件費はどうしたんだい、クロスト」
マール家政婦長は、この中でも一番の年長者って感じだ、でも一番元気そうなのは?って聞かれたらこの人を選ぶかもしれない、そのぐらい、勢いがある。
「申し訳ありません、その人件費についてですが、シルス北側の警備人数を増やすために、振り替えられました」
「――かっ、そう言われたらなんにも言うことはないよ、最近どんどん北からやってくるみたいだしな、獣が」
「ええ、どうやら、ルスリア王国の最北端、『禁忌の森』からの獣の発生が例年より増えているそうです」
「そうかい、禁忌の森から一番近いのは、ルスリア王国北方『ノーレスト』か、領主は確かガータイトだっけ、できるなら、ノーレスト内で押さえてもらいたいね」
「………」
いきなり空気が重くなったな、こんな時はっ!
「――ふぇっ、ふぇっ、えーん、えーん」
「お、オース様ミルクですかっ?」
セリオナが慌ててこっちへ来る。
よし、少しは空気が戻ったな。
「すまんな、報告の話だったな、話が広がりすぎた、坊ちゃんが泣き止んだら話させてもらうよ」
そうしてしばらくして再開した。
家政婦長の報告から、料理長の食材の仕入れについてだったり、その他の執事やメイド全員の報告、僕のことだったりもした。
とても真面目な会議だった。
成長したら僕もこのようなことをするんだろう。
こうして今転生してきてこの世界で生きようとしているが、正直僕は、前世と同じく、あらゆることに怠けてしまうと思う。
でも、今見ている大人たちは、『ソフリーン公爵家』のために動いている。
そう、僕はその『ソフリーン公爵家』の跡取りなのだ。
でもどうせ僕は、この世界でも怠惰人間になると考えている。
だが、僕は『ソフリーン公爵家』の跡取り、そんな人間にはさせてくれないだろう。
でも僕は、すべてのことに人並み以上になると怠けてしまう。
なら、人並み、いや………普通でいいじゃないか。
僕はずっと、そう考えていた。
人並み以上にならなくて何が悪い、なにが「開智くんは、勉強しなくても平均は取れるんだから、勉強すれば、いい高校に入れる」だ、普通の高校の何が悪い、普通で何が悪い。
普通でいいんだよ。
そうだよ、なら怠惰な僕は、『普通の公爵家』を目指してやろうと決めた。
――そうして考えていると、僕が漏らしてしまったらしく、ソフリーン公爵家の全体会議が終わっていた。
普通ってなんですか。




