第1話 オースの両親
「はーい、オースちゃ〜ん、いないいないばぁ!」
今視界いっぱいに映り込んでいる人物は、僕の父、ジュリアスだ。
ジュリアスは、ルスリア王国西方にある『シルス』という領地を治める、ソフリーン公爵家の当主である。
さて、今の状況を説明しよう。
僕は今、三十代半ばであろう父に変顔を見せられている。
まぁ、赤ん坊の本能には逆らえないのか、笑ってしまっているのだが。
そしてそれを、十人ぐらいの大人に見守られている。
おそらく服装からして、この屋敷に仕える執事やメイドだろう。
とっても恥ずかしい。
けれど執事やメイドたちは、その光景を見て微笑ましそうに見ている。
んー。どうしたものか……。
「ん?なんだ、この匂いは?」
……あ。くそっ、漏れた………。
赤ん坊なので、仕方ないといえばそうなのだが、精神年齢が一応十六歳であるので、恥ずかしいったらありゃしないのだ。
「ほら、あなた、どいてくださいな」
「ん?あー、そうかそうか、オースいっぱい出たか〜?」
「………」
「なんだ、そんなゴミを見るような目をして」
「はぁ………。はいっ、オースちゃん、いい子だからじっとしててね」
そう言って、今僕の「下」を拭いてくれているのは、僕の母、ソシルナだ。
本来、このようなことは、メイドがすると思うのだが、ようやく授かった子供が可愛くて仕方がないのだろう。
どちらも、親バカそうだ。
「そういえばあなた仕事は、やっているの?」
「………」
「オースと一緒にいたいのは分かるけど、仕事を疎かにしては駄目よ。あなたらしくもない。いつもはキビキビやっているでしょう、キビキビ」
「………」
「あと、もう少ししたら王都に行くんでしょう、私も同行するんですからしっかりエスコートできるように準備しておいてくださいね」
母の目が笑っていない。
「そうだったな、はは、ようやくラスベルに自慢できるぞ!」
父がようやくかと言わんばかりに言っている。
「こら、王様を呼び捨てにしないでください、いくら仲が良いと言っても、だめですよ、親しき仲にも礼儀ありですよ」
「ところで、それにオースは………」
「残念ながらお留守番ですね………」
側近であるルクリス・シャズルが、ジュリアスの背後にスッと現れて告げた。
「あーーー、やっぱ行くのなしにしてもらおう!」
「………本当にそうしてもらおうかしら」
母も父に同意するように言う。
「絶対に駄目ですよ」
「ルクリス、お前は俺の側近だろ!」
「だからこそです。あと、オース様の親離れも大切ですから」
「いやまだ、早くないか?」
「いえ、ソフリーン家の次期当主となられるお方、いつまでも親に甘えきっていてはいけません」
「いや、まだゼロ歳だよ?」
「とにかく、予定の変更はできません」
ルクリスさんってもしかして、ちょっと抜けているところがあるのかな?
「……仕方ない」
父が諦めたように言う。
「はい、オースちゃん。きれいになりましたよー」
………なるほどなー。
普通に親バカな父、まぁ、しっかりすればできる人みたいだけど。
そして、ちゃんと現実的なこともわかっている母。全然親バカだけど。
何故か、ゼロ歳児に親離れを求める父の側近。
どうやらもう少しで、王都に向かうそうだ、そしたら、この屋敷にいる他の人とも関わることができるかもしれないな。




