Ep03_門限間近の門番問答02
「ひどい目にあった……魔族だけじゃなく野次馬の相手もあって」
「本当ですよまったく……神経質そうな人もいてもう謝りっぱなしでしたよ」
「まあこういうときもありますよ。ほら、魔族の撃退も終わったことですしみんなで酒場にでも行きましょう。私はお酒飲めないので酒場前で解散ですが」
「いやいやいや、君の審査終わらないと仕事終われないからね僕たちは!?」
「……チッ」
「あれ? 今気のせいか聞こえちゃいけない音が?」
「私には何も聞こえませんでしたね。聞こえちゃいけないなら聞かなかったことにするのをお勧めしますよ?」
何食わぬ顔で目をそらすルーシャ。それを見てゾルは両手で顔を覆い泣きそうになるのをこらえる。結局襲ってきたドリルラビットの数は3体。うち1体を倒し、残りは追い払うことでようやく戦闘が終わった。もちろんその後何事かと門に寄ってきた野次馬たちに大声で状況を説明し解散していただくという追加業務も発生していたのだ。
ミハエルは戦闘後、少し離れた場所で二人を見ていたが地面に転がるでかいウサギの魔族、ドリルラビットの遺体へと視線を移しせっかくならと解体用のナイフを手に素材の回収を始める。
「なあゾル? 取るもん取ったら俺先帰ってもいいか? 先に酒場で待っててやるから。軍資金もこうしてできたことだし」
ドリルラビットの螺旋状の形状をした角を手に、ミハエルはにかっと笑った。
「駄目ですよミハエルさん! あなた門番長でしょ? かわいそうな部下とややこしい入場希望者を残して帰らないでくださいよ」
「そうですよ門番長。かわいそうな一般ピーポーとややこしいBKを残して帰らないでくださいよ」
「BKって何の略?」
「……部下ですよ」
「絶対馬鹿って言おうとしたでしょ君?」
「ボケや不細工、暴君の可能性もあるじゃないですか。決めつけはよくないですよ?」
「可能性すべてが罵りに満ちてるんだけど?」
「あ~……落ち着けお前ら。わかった……わかったから」
げんなりとした表情でミハエルは荷台の上にある箱からまた一つを手に取る。
「自分で言ったことだ、これ含めあと3つ箱の中身を確認したらちょうど5個だしそれまでは付き合ってやるよ」
そういってミハエルは箱の重さからまずは中身の推理を始める。
「あ、ちなみに嬢ちゃん」
「ルーシャです」
「ああ悪い悪い。ルーシャ? まだ箱の中に魔寄せのベルは入っているのか?」
「無いですね。かぶりなしで同じアイテムは無し。お得な商品もすべて一品もの……とか適当にキャッチフレーズっぽく添えとけば別にこの世に一つしかないわけでもないアイテムでもお客さんが勝手にプレミアム感抱いて来るかなって」
「最初の五文字の返答以降はオーバーキル感しか抱かないな。でもまあこれで安心して多少は揺らしても……ん? なんかまたきれいな音が……」
「あー、もしかして"残響のベル"かもですね」
「なんだそれ?」
「使用者が直前に詠唱した術式や使用した音系のアイテム効果を再度繰り返すものです」
「へぇ、そんなアイテムがあるのか……って待て待てルーシャ。そうだとすると俺が直前に使用したのって……
「み、ミハエルさん!? あれってまた……」
「……構えろゾル。今晩の酒場の軍資金が増えるぞ……」
「どうせなら酒場代よりも残業代のほうが欲しいです……」
先ほど追い払ったであろう二匹に加え、また新たに三匹のドリルラビットが自分たちに向かってくることを察し、やる気とは無縁のやるせないオーラをまとったまま再度迎撃態勢をとった。
* * * * * *
「私は溜まった書類仕事で忙しいんだ! それなのにまたも人騒がせな真似を! どうなってるんだこの街の門番は!」
「魔族が門の近くまで来たって本当? やだわぁ。私の家、門から近いのに物騒ねぇ」
「珍しいこともあるもんだ。魔族が門の近くまで来るなんて。まあもういないみたいだし酒場に行こうぜ」
日も暮れかけてより遅い時間ということもあってか。先の戦闘のときよりは出来上がった人の群れも規模は小さい。
「はいはい、皆さんお引き取りを。魔族はもういませんから安心してください」
「お騒がせしてすみません。ほんとすみません」
魔族撃退後にまたも出来上がった野次馬たちを追い払うミハエルとゾル。その様子を荷台に腰掛けぼけーっと眺めるルーシャ。野次馬の中には先ほどの時も何事かと慌ててやってきた者もいたのか、怒鳴り声でクレームを言うものもいた。怒声が起きるたびにゾルはぺこぺこと頭を下げては謝罪する。
しばらくして戻ってきた二人の顔には明らかに先ほど以上に疲労の色が見えた。どちらかというと戦闘よりもその後の野次馬やクレームへの対応が堪えたようだ。
「あ、あと二個だったな。正直もう嬢ちゃんを見逃して酒場に行きたいんだが……」
「さあ、サクサク行きましょう。酒場は待ってくれても私は待ちませんよ?」
荷台の箱を指さしルーシャは渋りだしたミハエルを急かす。
「も、もうこの際3つ審査しただけでも十分じゃないですかミハエルさん?」
「俺もそんな気はしてきたが……男たるもの二言はない。よし、この箱にするか」
「ゆ、揺らす前に中身がベルじゃないかだけでも確認してくださいよ。いくらEランクの魔族とはいえもう陽も落ちかけてますしいやですよ? 暗がりの中の戦闘は?」
「あー、これは重たいからベルじゃなさそうだ……てかほんと重いなこれ!?」
最初片手にひょいっと乗せたがその重さに慌てて両手に持ちかえる。ベルが入っていないと予想はしつつミハエルはまずは箱を傾け中の反応をうかがう。
「んー、なんか球体のようなものが入ってる気が……」
「もしかして"爆発玉"とかじゃないでしょうねそれ?」
「いや……それよりもなんか重たい。さっきの残響のベルとやらもそうだがこんなアイテムあったっけか?」
「なかなかお目にかかれないアイテムが入ってるってのもドキドキボックス商法のお約束ですよ?」
「いやそんな聞きなれない商法のお約束なんてしらないよ?」
「無知は罪ですよ?」
「無名な方が罪じゃないかな」
ルーシャとゾルの鍔迫り合いが続く中、ミハエルは箱を地面に置き、少し考えたのち懐から硬貨の入った小袋を取り出す。
「おい嬢ちゃん……じゃなかった、ルーシャ。この箱は一箱いくらだ?」
「小銀貨2枚の予定ですが?」
「だったらこの箱俺が買おう。だから開けてもいいか?」
「購入いただけるのならあなたはお客様です。お買い上げありがとうございます」
ピンと小銀貨を指ではじいてルーシャに渡し、ミハエルは手にしたナイフで箱の紐を切り蓋を開ける。
「なんだこれ? 水晶? 3つも入っていて、道理で重たいわけだ」
ミハエルは箱の中から小さなボールサイズの透明な球体を1つ取り出し、そっと手にする。
「ああ、"審判の瞳水晶"ですか。当りといえば当たりですが用法が限られてるやつですね」
「審判の瞳? 水晶? なんだそりゃ?」
「魔族の中には姿を変え擬態するものがいるのはご存じですか?」
「ん? ああ、魔蟲族や魔獣族に多いよな。人魔種にも姿を変える"魔術"を使うやつがいたっけか」
「そうですね、魔族が使う魔術は人族に姿を変えるのもあって危険ですよね。まあ、そういった魔族の擬態を強制的に解除させる使い捨てのアイテムですね」
「また変わったアイテムを扱ってるんだな。ちなみにどうやってこれ使うんだ?」
「簡単です。その水晶を割ればいいのです。割れた水晶を中心に20メートルぐらいですかね効果があるのは」
「ふむ……使い切りなのは残念だがあるが俺たち門番としては喉から手が出そうな商品だな」
「といいますと?」
「な~に、都に入ろうと人間になりすましていた人魔種が王都のほうでいたって聞いてな。こいつがありゃ怪しいやつがいたら使えば擬態を暴ける」
ミハエルは水晶と箱をいったん地面に置き、荷台に向かい次の箱を選ぼうと近づくがそこにゾルが割り込む。
「なんだか結構レアなアイテムが多く入ってるみたいだし。よかったら最後に一箱僕にも売ってくれないかな?」
「構いませんよ? 私とあなたの仲ですし、小銀貨2枚と銅貨2枚でお譲りしましょう」
「ははは、なんだか悪いね、そのお値段で……あれ? なんかさっきと値段変わってない?」
硬貨をつまみルーシャに料金を渡す直前でふとゾルは眉をひそめる。迷いから硬貨を手にしたまま硬直したゾルだが、その手からルーシャは素早く硬貨を摘み取った。
「ささっ、お好きな箱をどうぞお客様?」
「釈然としない……けどまあいいよもう。さて、これにしようかな」
ゾルは荷台の上の箱を手にとり、すぐさま怪訝な顔をする。
「これ……中身入ってる? 揺さぶってみたけど中から何も音がしないんだけど?」
「開けて確認してみてはどうでしょう。もう購入いただいた商品ですし開けてもらって構いませんよ?」
「うーん、なんか怖い気もするけどじゃあ……って、あれ? 本当に何も入ってないんだけど?」
「ああ、"封魔の箱"ですねそれ」
「え? 何それ?」
「言葉通りの意味ですよ。その箱自体がただの箱ではなくアイテムでして、人魔種の魔族を封じ込めることができる人魔種特効のアイテムとなっています」
「へぇ、それはすごいね。人魔種は高ランクになると厄介だし。ねえねえ、これってどのランクの魔族にまで使えるんだい? あと使い方は?」
「最低でもDランクぐらいまででしたら大丈夫かと。使い方としては人魔種に箱の口を向ければOKです。射程は10メートルほどで、捕らえた後はその役目を終え箱が消えて中の魔族も消滅します」
淡々と商品を説明しながらルーシャは荷車へと近寄り、ハンドルを握る。
「さて、これで晴れて私は無実の身。安心して門をくぐれ……あ、いけませんね」
「うん? どうしたんだい」
「いえ、先ほど皆様にお貸しした魔寄せのベルと残響のベルが入った箱を向こうに置いたままでした」
「ああ、忘れずに揺らさずに鳴らさずに持って行ってね」
「注文が多いですね。でもまあ、何度も鳴らしたのでもう音が聞こえる範囲の魔族はいないのではないですか? ドリルラビットは耳が利くので本来の効果範囲よりも遠くにうろついていたやつが来ただけでしょうし」
「そうだといいんだけどね」
「それでは、お互い今日はもう店仕舞い。入っていいんですよね?」
「え、あ、ああ」
「おう、悪かったな嬢ちゃん……じゃなくてルーシャ。そう睨むなって、悪気はないんだ。まあ結局普通のアイテムしかなさそうだったし問題ないだろう」
ルーシャが去ろうとしているのを見てミハエルは先ほど買った水晶を腰に下げた鞄に移すのを中断し、ルーシャとゾルのもとへとやってきた。
「それよりも、お前さんは商人ならギルド証を発行してもらったほうがいいぞ?あれがあれば俺たちもこんなに厳しくチェックする必要はないしな」
「そうだね。少なくとも登録の際に"回想の鏡"で悪事を働いていた場合は鏡面が黒くなってばれちゃうしね」
「……参考にしますね。って、あ……」
「うん? どうしたんだい」
背中を向けて荷台を引くルーシャがどこか気まずそうな声とともに足を止める。その足の先には倒れた箱が一つ。
「すみません、魔寄せのベルが入った箱を蹴ってしまったようで」
「えぇ!? み、ミハエルさんまた魔族が来るかもですよ!?」
「いつ酒場に行けるんだ俺は……」
慌てて門の外を見て武器を取る二人。だが先ほどとは違い門の外には近づいてくる影はない。その真逆、門の中からは明らかに不機嫌さと怒りを兼ね備えた初老の男が近づいてくる。ある意味魔族よりも相手したくないその影に二人は大きくため息をついた。
拙作をお読みいただきありがとうございました^^




