Ep03_門限間近の門番問答01
「私のことは構いません……ですが、どうかこの子たちだけでも中に入れてもらえないでしょうか?」
「……いや、"子"というか"箱"だよねそれ? そして、箱というか"商品"なんだよねそれ? 物だけ街の中に入っても駄目なんじゃないの?」
困った顔で腕を組む門番と思しき男が大きくため息をつく。男性の背後では街を守るための堅牢な石造りの城壁と中に入るための大きな門が建っており、夕暮れ時ということもあり街に戻ろうと多くの冒険者が審査を受けては中に流れていく。その一角で流れを止めるルーシャの姿があった。
手押し式の荷車に積まれた小さな箱の数々。丁寧に縛り紐で一つ一つ封がされており、優に100はあるだろうその山積みにされた箱を見て門番は再度大きくため息をつく。
「なんか小さい箱がいっぱいあるみたいだけど、中には何が入っているんだ?」
「それは企業秘密ですよ。門番といえど秘密をばらすわけにはいきませんね」
「いや、その秘密を暴いて中に危険な物が入っていないかを確認するのが門番の仕事なんだけど?」
「あ、私もついでに大きな箱に入るのでお荷物として中に入れてもらえれば……あとは放っておいていただいて結構ですよ?」
「いや、それ完全に密輸と不法侵入のセット犯罪にしか聞こえないんだけど?」
「セットでお得、ウィン・ウィンですね」
「いやいやいやいや、ウィンの二重取りで君しか得しないんじゃないかな。なんならそれを見逃す僕は職務怠慢と懲罰でルーズ&ルーズだよ?」
「むぅ……話が通じない門番ですね」
「いや、一言一句言ってることはわかるよ? そのうえで君の言ってることがおかしいって遠回しにさっきから伝えようと努力してるんだよこっちも?」
いつもと変わらない無表情をキープしつつどこか困ったように口だけすぼめて見せるルーシャ。だが門番はそれ以上に困った様子で、ルーシャの荷台に近づき箱を一つ手に取る。飲み物を飲むためのグラスでも入っているかのようなサイズ感。重さはないのか男性も軽々とそれを手にしている。
「ギルド証も持ってないとかいうし、他の街ではどうやって入ってたんだい君は?」
「この"トラスティン"が初めてですね。入るのに門番がいるだなんて」
「まあ王都のほうもそうだけど、この冒険者の都トラスティンは特に冒険者が戦利品と言ってたまにおかしなものを持ち込むこともあってね。後で問題にならないようこうして僕たちが確認しているのさ」
「あ、その点はご安心を。違法な物は入ってないですし、全部冒険者御用達のアイテムばかりですから」
「そうなのかい? それじゃあ中を見せてくれてもいいんじゃないかな?」
「いえいえいえ、そこは何が入っているかは買ってからのお楽しみ……というドキドキボックス商法ですから。見ちゃだめですよ」
「なんで都に入る前に懇切丁寧に梱包しちゃうかなぁ……」
「都の中で商売しようと私が企てる前に言っていただければ対処できたのですが」
「うん、絶対予見できないし対処できないね、そのリクエストには。神様でも無理じゃないかな?」
互いに譲れない様子。互いにどうしたものかと考えあぐねた様子。互いに顔を見てどうにもならないといった様子。これらが三順ぐらいしたところでルーシャたちの周りにいた人混みは無くなり、二人の様子に気づいた門番の上司と思しき男が近寄ってくる。
「おい、いつまでその娘といちゃついてるんだ、"ゾル"。他の冒険者の審査は終わったからあとお前たちだけだぞ」
「あ、"ミハエル"さん! 助けてくださいよ~、この子が身の上も荷台の上もどっちもおかしくて困ってるんですよ」
「うん?」
「失礼ですね。こちらこそ助けて欲しいです。この人が商売上がったりな要求に加え正体明かせとまで要求してくるんですよ」
「うん、後者は門番として要求してしかるべきだな」
「ほら、おかしさに加えて怪しさもうなぎ上りなんですよこの子」
ぷっくりと頬を膨らませ、むすっとした無表情という変わった顔芸を披露するルーシャにミハエルはどうリアクションしたものか困ったように苦笑いを浮かべる。
「あー、まあこっちとしてはほんと危険なものが箱の中に入ってないと分かればいいんだよ。だからこうしよう。箱の中には冒険者用のアイテムが入ってるんだよな? 箱は開けないから少し持ってみてもいいか? プロの門番ともなればその重さや揺らした際の音で何が入っているかわかるもんだからさ」
「え!? そんな芸当できるんですかミハエルさん?」
「おう、こちとらかれこれ10年以上は門番やってるからな。冒険者の荷物を確認するときにいろんなアイテムを確認してきたからわかるってもんよ」
「箱を開けないというならこちらとしても梱包のし直しがないので助かります。ではこれからどうぞ」
「おう、貸してみな」
ルーシャは荷台のうち、手ごろな位置にあった箱を一つとり、ミハエルに渡した。ミハエルは箱を手のひらの上にのせて持ち、重さを確認する。
「ふむ……ポーションなどの液体ではないな。だがその割には重たいようだし……どこかずしりとした重さを感じる。カチャカチャと金具が鳴る音も聞こえるな。はは~ん、これはランタンじゃないかい? 腰のベルトにぶら下げて使うタイプのちっこいやつ」
「本当にあってるんですか?」
「私も少々答えが気になるので……しょうがないですね。ちょっとこの一箱だけ開けてみますか」
ルーシャはミハエルから返してもらった箱の紐をほどき、ゆっくりと蓋を開ける。その中身を3人が覗くとミハエルの予想どおり小型のランタンが入っていた。
「お見事ですね」
「ええ!? すごいですよミハエルさん。まさかこんな特技があるなんて」
「はは、いったろ? こんなの俺ぐらい長く門番やってるとわかるんだよ」
「あー、でも箱はまだまだたくさんありますし……さすがにこれを全部やってると今晩帰れなくなっちゃいますよ」
「ああ、まあそこはランダムであと3~4個ぐらい確認しとけばいいだろ。この嬢ちゃんがそもそも密輸だなんて真似しそうもないし、モンスターの怪しい素材やわけのわかんねぇ古代の遺物みたいなもんがそもそもないというのならそれでいいだろう」
「さすがは門番も長くやってると物分かりがよくなりますね」
「それ誉め言葉?」
「言葉通り箱の中の物が分かるという意味ですよ」
ゾルのツッコみを聞き流し、ルーシャは荷台から次の箱を取ろうとする。だが、ミハエルの手がルーシャの手を遮るように伸び、箱を掴む。
「悪いが箱を選ぶのは俺がやる。万が一お嬢ちゃんが不正をしようって輩なら隠したいものがあれば避けるだろうしな」
「私の名はルーシャです。まあいいでしょう、おたくの部下の優しさも私の疚しさもありませんから」
「ん? いままた僕への貶し言葉がさらっと混ざってなかった?」
「隠すことなんてありませんから」
「え? そこは隠してくれないと傷つくよ? 僕?」
「箱の話ですよ門番Aさん」
「モブ扱いするのやめてくれないかな? 僕の名はゾルだよ?」
ルーシャとゾルが言い争う中、ミハエルは先ほどの正解で少し味を占めたのか、もったいぶるように箱をゆっくりと上下して見せ、その後軽く箱を揺らして見せた。
「ん? なんだかずいぶん奇麗な楽器のような音がするんだが……って、おいおいまさかこの音色!?」
ミハエルがはっと冒険者のいなくなった周囲を見回す。そして嫌な予感が当たったようで、遠くから迫る影を見てぎょっと目を見開く。
「おいゾル! 剣をとれ! 魔族の"ドリルラビット"だ」
「え? あ! 本当にこっちに向かってきてる!」
「ああ、"魔寄せのベル"でしたか箱の中身。当たりの商品じゃないですか」
ルーシャは先ほど同様にミハエルから箱を受け取り、紐をほどいて中身を確認していた。
「これ、"魔除けのベル"と違って使いきりじゃないので魔族素材を探すときなんかに効率いいんですよね。まあ、入口とはいえ街で使う人は初めて見ましたけど」
「言ってる場合か! 来るぞっ!」
ミハエルとゾルは背負っていた盾を腕にはめ、空いた手で剣を取り向かってくる自身の半身ほどの大きさのウサギの魔族を迎えうった。
拙作をお読みいただきありがとうございました^^




