Ep02_毒沼地帯で沼る人たち03
「おいおい、状態異常のオンパレードかよ!」
「ちっ! 来るときは生えていなかたっというのに、どこに隠れていたんだこいつら」
武器を構えるカイル、カースト目の前で咲き乱れる毒々しい色合いの花々。二人が忌々しそうに舌打ちをする後ろで腰の鞄を慌てて探るヒトミ。やがてその両手に4本のそれぞれ色の異なる中身の瓶を持ち、泣きそうな声で二人に向かい叫ぶ。
「ど、ど、ど、どれ飲めばいいんだっけ~! "アイルプラント"相手だと」
大蛇のようにのびた蔓の先で赤子ほどの大きさの花弁がまるで排出口かのようにあたり一面に花粉をまき散らし始める。
「落ち着けヒトミ! 花弁の色を見ろ! 黄色いのがいるから麻痺の花粉持ちがいる!」
「ということは……抗麻痺薬だね!」
「おう、あのどぎついピンクは確か魅了の花粉持ちだ!」
「じゃ、じゃあ抗精神異常薬もいるね」
「待て、毒持ちの紫もいる! 気をつけろ!」
「れ、抗毒薬もいるの~!?」
「おいおい嘘だろ……レア種の石化花粉持ち、銀色までいやがる!」
「も、もうっ! どれを飲めばいいかわかんないよ~!」
両の手に持った薬瓶をあちこち見てどれがどれやらと目を始めるヒトミ。だがカイルとカーストはふと何かに気づいたようで、互いの顔を見合わせたのちヒトミへと向き直る。
「……いや、お前が持ってるの全部飲めばいいだろ」
「ふえぇ……あ、そっか」
カイルとカーストはヒトミが手にしていた4種の薬瓶をすべて受け取り、慌てて中身を飲み干していく。ヒトミもまた二人に渡したのち、鞄に入っている自分用の4本を取り出すとこぼさないようにごくごくと喉を鳴らす。
「ぷはっ! 飲み終えた~」
「おう、これでこいつらの花粉は怖くねぇ! こうなりゃちょっとでかいだけの花と変わらねぇ。さっさと伐採しちまうぞ」
「そういって油断して蔓に捕まるなよ、カイル」
「捕まる前に俺の槍であいつに風穴開けてやるよ。お前こそちっこい短剣なんかで刈り取れるのかよ」
「肝心なのは武器の大きさでなく扱うものの技量だ。お前こそ棒を振り回して足を引っ張るなよ」
「ふ、二人とも! そろそろふざけてないで……来るよ!」
「あいあい了解。お前は安心して詠唱を始めてろよ」
「そうだな。お前の"術式"での殲滅が一番早い。頼んだぞ、ヒトミ」
「う、うん! 任せて!」
靄がかった中、三人は数多の花粉を物ともせずに戦闘を開始した。
* * * * * *
「ちょうど三人分……まあ、少し抜けた感じでしたが腕前は高そうでしたし抗薬があればあちらは問題ないでしょう」
足元を隠すほどの草に加えて地面を這うでこぼことした根。ときにはぬかるんだ地面や苔も生えており、そこを歩くことを妨げる。だが無表情で歩くルーシャはそれらをものともせず森の奥へ奥へと歩いていく。
本来歩いた後に残る後の足跡はなく、ぬかるんだ地面にも痕跡一つ残さないその足取りはさながら宙を歩くかのような軽快さを維持している。
「先日のラシーナダンジョンの造魔種に続きこの先のリトカーダンジョンに住まう"魔植種"も様子がおかしいみたいですね。一度通った冒険者を覚え、消耗しているであろう戻りの道で襲い掛かるなんて悪知恵。これはもしかしてこちらも"魔王種"が生まれたということでしょうか……」
まっすぐと先を見据えたままただ口だけを作業のように動かし、ルーシャは歩き続ける。
「造魔種・魔植種・魔蟲種・魔獣種……それと海魔種に死霊種、竜種に人魔種の全八種。調子こいてたから100年ほど前に魔王種は"全部"締めといた……と"二人"は言ってましたが、本当に言うことやること全部が大雑把じゃないですかまったく。これは一度他のダンジョンも様子を見たほうがいいんでしょうか。それとも放っておいても"ユグドラ"あたりが上手く片付けてくれるかも?」
ピタリと歩を止め、ルーシャは目の前にそびえたつ大きな門へと目を向ける。深緑の不思議な金属素材でできた門の扉には時を感じさせる生い茂った蔓が幾層にも重なり、絡み合っている。
「まあ、この世界に"出禁"になったあの人たちよりは私がやったほうが……それとも……ねえ?」
ふと顔を上げて空を見上げたルーシャ。その見つめる瞳はまるで空のその先を見るかのようにどこか遠くを……そして懐かしい何かを見るような温もりを感じさせた。
拙作をお読みいただきありがとうございました^^




