Ep02_毒沼地帯で沼る人たち02
「それで、このルーシャって女はこんな辺鄙な場所でおかしな宝箱を使ってあこぎな商売をしているってのか?」
「名誉棄損で訴えますよ?」
ルーシャはぷくっと頬を膨らませ怒りをアピールするもぶれない無表情で、感情が読めずカイルはどう扱ったものかと考えあぐねる。
「ヒトミ、カイルのアホはとりあえずもう大丈夫みたいだから早いとこ毒消し薬を手に入れてこい」
「あ、そっか……まだ毒状態なんだっけ二人とも」
「おう、なんだかおもしろそうだし俺がやってみようじゃねぇか。要は行商が景気づけによくやってるくじ引きみてぇなもんだろ」
「おい、もう動いて大丈夫なのかお前」
「ああ、状態異常無効の"精霊の加護"ほどじゃねぇが、俺たちの"悪魔の加護"も加護なしよりは状態異常に対して丈夫だしな。なんだ? ヒールポーションも飲んだってのにお前はまだ動けないのかよカースト?」
「はあ? 動けないとは言っていないが。お前のお守りに疲れて少し休んでいただけだが?」
よろよろと立ち上がる二人をヒトミはおろおろと交互に見遣る。
「む、無茶しちゃだめだよ二人とも。まだ毒は回ってるんだから」
「宝箱を開けるなんざ冒険者にとってご褒美みたいなもんだろ。それすらできないなんてことはないぜ」
「そうだぞヒトミ……まあ、この男は限界いっぱいいっぱいなのに意地を張っているようだからまずそうなら止めてやれ」
「そういうお前も足が震えてるぞ、カースト」
バチバチと火花を散らす猛者感と風前の灯火感を漂わせる両者。はた目からは今にも戦闘がおこりそうな雰囲気だが、その中間にある箱にルーシャが何やらペタペタと貼っている。
「何してるのルーシャちゃん……って、え? これ本当? 小銀貨5枚を入れると10回分の料金なのに11回分のアイテムがまとめて出てくるって」
「はい。まあ、お二方が無理をされているようなので早々に倒れられる前に稼がせていただこうかと?」
「なんだかかわいい顔して鬼みたいなこと言ってるねルーシャちゃん……」
「商売の鬼は商人にとって誉め言葉ですね」
「え……あ、うん……」
パンパンと膝についた泥を払い、ルーシャは再度魔除けのベルを手にスタンバイする。
「レディファーストだ、先を譲ってやるよカースト」
「ふん、いいのか? 先に私が毒消し薬を2本出せば貴様は引く必要もないんだぞ? ああ、安心しろカイル。"自力ではどうせ出せない"だろうから私が引いた分を恵んでやろう」
「そういうのは現物手にしてから言えよ? じゃないと俺が毒消し薬を手に入れても渡してやるときに気まずいだろ? な?」
「戯言……をっ!」
カーストはイラっと刹那こめかみを引くつかせたが、不敵な笑みを浮かべ箱に小銀貨と銅貨を入れて蓋を勢いよく開く。
カパッ
「……水8本と抗麻痺薬1本。それに抗精神異常薬が1本に抗石化薬が1本」
「え、ええぇ!? すごいよカーストさん! 特に銀貨3枚はする抗石化薬まで!」
「いや……でも毒消しの類が全然ないんだが……」
両手で大量の瓶を持ったまま顔をうつむけるカースト。その肩にポンと優しく手が置かれ、振り向いた先には優しの欠片もなく笑いをこらえるカイルの姿。
「ま、まあいくら高額品を引いても……な、ぷすぷす……。あ、ルーシャ、かわいそうだからもっとベル景気よく鳴らしてやっていいぞ。ほんとかわいそうだから」
「貴様……」
今にも殴り掛かりそうなカーストを羽交い絞めにするようにして取り押さえるヒトミ。それを横目にぶんぶんと調子に乗って腕を回し、すぐさまくらっとふらつくカイル。
「おい馬鹿。おとなしくしてないと腕だけ回してくじを回す前に毒が回るぞ?」
「う、うるせぇな! 見てろ……よっ!」
カパッ
勢いよく蓋を開けたカイル。だがしばらく中身を見てそっと蓋を閉じる。
「ど、どうしたのカイル」
「何をしている貴様。さっさと中身を取り出せ」
「いや……おいルーシャ、この箱ぶっ壊れてんぞ」
慌てて箱を指さすカイルをよそ目に、ルーシャはカパッと蓋を開けて中身を取り出すとカイルの手の上にどさっと乗せる。
「おめでとうございます。水11本ゲットですね。あ、ベル鳴らします?」
「……いらねぇよ」
両手いっぱいの水が入った瓶を見下ろしたままばつが悪そうに佇むカイル。その無残な姿にカーストもさすがに口を閉ざしたまま気まずそうに目をそらす。
「どうしたカースト。笑いたきゃ笑えよ……」
「いや、なんだその……まあ、いつかいいことあるさ、な?」
「そうですよお客さん。どうです? 今回の結果はそのお手元の11本なのに"十二"分な水で流してもう一度挑戦というのは?」
「傷跡えぐるようなフォローやめてくれない? え? 喧嘩が売りの商人なのお前?」
「夢と希望と冒険者用アイテム売ってます」
「さっきと売りがなんか変わってない? ルーシャちゃん……?」
「常にお客様のニーズに応えるべく売りを変える柔軟さが商人には求められますから」
「そう思うならこんなふざけた箱使わず毒消し薬を売れよ貴様……」
「……次回ご来店時の参考にさせていただきましょう」
「今参考にしろよ……まったく」
カーストはヒトミのほうを見てくいっと顎で箱を示す。
「私たちはこのざまだ、やはりお前が箱を開けるのが一番争いもなく戦死者も出ない」
「おい、戦死者って言うな。まだ生きてるぞ」
どこか拗ねた様子のカイルにくすりと笑い、ヒトミはとぼとぼと歩くカイルとすれ違う形で箱の前に立ち、ふんすふんすと鼻を鳴らす。
「それじゃあ……やっちゃうね!」
カパッ
勢いよく小銀貨を入れ、間髪入れず蓋を開けるヒトミ。それを見てすっとベルを構えるルーシャ。そしてそれはもういらないと無言でツッコむカースト。
「ええっと……お約束のお水が1本に抗麻痺薬が1本。抗精神異常薬が2本とそれに……嘘っ!? 抗石化薬が2本だよ!」
「おいおい、すごい強運だな」
「えへへぇ……それにはいっ! これ!」
そういってヒトミは両手に一本ずつ瓶を持ち、カーストとカイルに差し出す。
「やっとあったよ、毒消し薬! あと、抗毒薬も3本入っててなんだかすごい得しちゃった」
「あ~、最後にまとめて欲しいものが出てくるとはな」
満足そうに微笑むヒトミの頭にポンと手を置き、カーストも初めて笑みを見せる。
「ちっ……今日は運がない。わりぃがありがたくこの毒消し薬はもらっとくぜ」
「うん!」
カイルは照れくさそうに薬を受け取り、背を向けて中身を飲み干す。その様子がどこか子供っぽく、カーストもくすりと口に手を当てて笑い、その後受け取った薬の中身を一気に飲み干した。
「ん? どうしたのルーシャちゃん?」
「いえ、なんだか当たり商品ばかりで今回完全に赤字のような気が……」
「え、あ、ああそういえば!? な、なんだか悪いし良かったらつかっちゃったアイテム以外は返すよ? ルーシャちゃんのお薬のおかげで私たち助かったわけだし」
ヒトミは慌てて腰の鞄にしまった瓶を取り出そうと手を入れるがその手にそっとルーシャの手が添えられる。
「いえ、結構ですよ。それはお客様が正当な取引の末に手に入れられたものです。お気になさらず……どうせ使用期限今日までですしそれ」
「あ、ありが……え? 最後なんて?」
ルーシャはプイっと顔を背け、天高く遠くへと視線を向ける。
「この販売方法ですと箱の中の商品の補充はできても中の商品を中々取り出せないので問題ですね……まあ、ちょうど交換が必要そうな商品も捌けて助かりました」
「え、えええぇ!?」
「まあ、そういうことですから早めに使用してくださいね。抗薬系のアイテムの効果は服用後1時間ぐらいですから……まあこのあと森を出られるならちょうど良い時間じゃないですかね?」
「うぅ……なんだか得した気分が一気に損した気分に……」
「まあ、今回はお互い痛み分けということで。それではもうこれ以上はここで儲けはでそうにありませんので失礼しますね」
そういって宝箱をリュックのように背負い、ルーシャは小さく会釈するとすたこらさっさと逃げるように走り出す。
「え、あ、えぇ! ま、待ってルーシャちゃん! ……って、もう見えないし!」
「ん、あれ? ルーシャはどこに行ったんだ?」
「な、なんだかもうここじゃ商売にならないからって行っちゃった……」
「はぁ? なんだよ、最後まで愛想ねぇな」
「まったくだな……だが確かにここにもう長居はしたくない。私たちも帰ろう。さすがにこのままダンジョンには行けないだろう」
そういってカーストは返事を待たずに歩きだす。カイルもやれやれといった様子で頭の後ろで手を組み無言のまま着いていく。その方角を見てヒトミは不思議そうに首をかしげる。
「あれ? 街の方角ってそっちだっけ?」
「ん、そうだが? なんだ? まさかダンジョンに行きたいとか言わないだろうな?」
「え、あ、あれ? 勘違いかなぁ……ルーシャちゃんが走っていったほうって……」
「おい何してんだヒトミ。ぼさっとしてるぞ置いてくぞ」
「ま、待ってよカイル! カーストさん!」
ふと脳裏に浮かんだ疑念を振り払うようにぶんぶんと首を振り、ヒトミは遠くに見える二人の背中に向け走り出した。
拙作をお読みいただきありがとうございました^^




