Ep02_毒沼地帯で沼る人たち01
「あ、ちょっとそこ行く冒険者さん。よかったらこちらのランダムトレジャーボックス、試していきませんか? いまなら銅貨5枚で一回。何が出るかはお楽しみですよ」
「ふえぇ?」
生い茂る木々に囲まれた森の中、素っ頓狂な声が響く。その声で木々にとまっていた何匹かの鳥が驚いてバサバサと空に逃げていく。
「あ、もちろん当たりが出ればお値段以上のアイテムも出てくるので……まさに冒険者が求めるロマンをそのまま体現したような仕組みとなっております」
状況が読めない様子で女性は頭を……いな、その頭に生えた"二本の黒い角"を抑えるようにしてふさぎ込んでしまう。炎というよりは血の色に似た紅がまじる黒髪がなんとも特徴的なその女性はもとから人と話すのが苦手なようで、口をもごもごとさせたまま目の前にいる商人、ルーシャと目を合わせることもできずにいる。
「見たところお三方とも"天魔族"のようですし、癒しの"神聖術式"を使えそうな方もいませんし商機……おっと、お困りですよね?」
ルーシャは自身の背後にある大きな宝箱を手で示し、表情こそ無表情そのものだが何度もチラチラと箱のほうを見ている。ようするにとても利用して欲しいようだ。
「まったく……こんなところで商売とは気が触れているのか?」
「か、"カースト"さん! 大丈夫なんですか動いて!?」
"ヒトミ"と呼ばれた女性の後ろにいた灰色の髪の女性、カースト。ヒトミの丸く曲がった巻き角と違い、ピンと後ろへと伸びた二本の黒角を有しており、顔つきもあどけなさが残るヒトミと違い凛とした女性らしさを感じさせる。
「……すまないが毒消し効果のある薬を売っていないか?」
カーストは足を引きずるようにして前に出ると苦しそうにルーシャへと問いかける。目立った外傷こそないが、右足を中心に、明らかに人のそれと思えない紫色を帯びた肌色から毒の状態異常にかかっていることが容易に窺われる。
「もちろん用意しております……あの箱の中に」
「すまないが普通に料金は払うから普通に毒消し効果の薬を……」
「すみません、手持ちの商品をすべてあの箱に入れたので在庫はありません」
「……それは本当か?」
「はい、お客様を前に信用を失うようなことは申しません」
「"毒沼地帯を抜けた先"で斬新な販売方法をしておいて貴様……時は一刻を争うんだが……」
「あ、お金を箱の横の穴から入れて開けば商品が入っていますのですぐに商品はお渡しできますよ」
「くっ……おいヒトミ、とりあえずあの箱に金を入れて箱を開けろ。私もやばいが、後ろで寝ている"カイル"のほうが症状はひどい。急げ」
「は、はい! カーストさんもひどそうだから座って待っててください!」
ヒトミからの言葉に緊張の糸が切れたのか、カーストは糸の切れた操り人形のようにその場に力なく崩れる。ヒトミはビクビクとした様子でルーシャの前を通り、箱のそばに行くと側面の穴に銅貨を五枚入れる。
カチャッ
鍵の開くような音が聞こえ、ヒトミはすっとルーシャの方を振り向く。
「え、えっと……」
「料金をいただきましたので鍵は開きました。どうぞ中身をお受け取りください」
ルーシャの答えにヒトミは恐る恐る宝箱の蓋を開く。そして中に入っていたものを取り出し、顔を驚かせる。
「え? これって……ヒールポーション」
「そのようですね。普通に買えば小銀貨1枚。それを半分の銅貨5枚でお買い上げできたので……当たりのようですね」
「え、えへへ……当たりだって。やったねカーストさ……」
「違うだろうヒトミ! 欲しいのは毒消し効果のある毒消し薬の類だろう!」「あ……そっか、えへへ……」
カーストは大口をあけ、呆れた様子で頭を押さえる。だがはっと目を開き、ヒトミのほうに手を伸ばす。
「ああ、とりあえずそのヒールポーションをくれ。体力回復の効果もあるだろうからカイルに飲ませる。手持ちのが切れていたし丁度いいだろう」
「わ、わかった。お願いしますね、カーストさん。あ、あと商人さん?」
「ルーシャです。信頼と信用と誠実さと冒険者の必要品が売りの行商やってます」
「え、ええっとルーシャ……ちゃん? たぶん私よりも年は下だよね」
「呼び方はご自由に。それで、なんでしょう?」
「これって一人一回までしか利用できないとかですか?」
「いえ、そんなことは。蓋を閉めていただければまた中身は勝手に補充されます。お財布の紐と中身が許す限りどうぞご利用ください」
「ど、どうなってるのかなこの箱のつくり……じゃ、じゃあ毒消し薬が欲しいからまた使わせてもらうね」
「お買い上げありがとうございます」
深々としたルーシャのお辞儀に物怖じしつつもヒトミはまた銅貨を箱に入れ、蓋を開ける。
カパッ
「こ、これは……またヒールポーション!?」
「おめでとうございます。二回連続で当たりですね」
「え、ええぇ!?」
「あー……せっかくならそれもくれないかヒトミ。今度は私が飲む」
ヒトミはカーストにポーションを渡し、また箱へと向き直り銅貨を入れる。
「こ、今度こそ……って、ルーシャちゃん? なにそれ?」
ルーシャはどこから取り出したのか、いつのまにか手に青みを帯びた金属製のハンドベルを持ってヒトミが箱を開けるのをわくわくとスタンバっていた。
「当たりが出た場合にせっかくなので鳴らそうかと。あ、これ魔除けのベルなので騒いでも魔族は寄ってきませんし、むしろ離れていくのでご安心を」
「それってかなり高級品だよね? 銀貨1枚くらいはするヒールポーション10本分の奴だよね? しかも鳴らすと10分ぐらいで壊れちゃう使い捨て品だよね?」
「あ、お構いなく。ツテで安く仕入れられますので」
「そ、そうなんだ。じゃ、じゃあ気を取り直して! えいっ!」
カパッ
「あ、見て見てカーストさん! 麻痺消し薬の上位品、抗麻痺薬だよ! 小銀貨3枚もする高いやつ!」
「そうか……つまり今はハズレだろう……あと鐘鳴らすのやめろ! うるさい!」
カーストのクレームにルーシャはピタリとベルを振る手を止める。文句こそ言わないが口の先をとがらせ無言の抵抗を見せる。それを見たカーストが大きくため息を漏らす。
「こうなったら出るまで回せヒトミ! 抗麻痺薬なんてものがあるくらいだ、毒消し薬か抗毒薬が入っているかもしれん」
「わ、わかった! えいっ!」
カパッ
「これは……透明だけど……もしかしてお水?」
「あ、はずれですね。でも飲んでも問題ないやつなので旅のお供にどうぞ」
「うぅ……ここにきてはずれだなんて……」
「気にするな! ガンガン回せ!」
「うぅ……ん? うるせぇな……なんだってんだよ」
カーストの後ろで横たわっていた黒い鎧に身を包んだ男性がゆっくりと身を起こす。頭痛がするのかすぐさま頭を押さえようと手を伸ばすも、その額から伸びた一本の鋭い角に触れないよう指を開く。
「う~、気持ちわりぃ。なんだこれ……毒か?」
「あ、か、カイル! 目が覚めたんだね!」
「やっと起きたか馬鹿者」
「ああん?」
カイルは不機嫌そうにカーストを睨むも彼女はやれやれと首を横に振る。そしてヒトミはというと……。
「うおっ!」
「か、カイル~、よかったよぉ、ふえぇ……」
ハグ……の前の半ばタックルと呼んでもいい体当たりでカイルは目をぎょっとさせる。だがそれでも身を倒すことなく、ヒトミのハグを黙って受け入れる。
「あ~、なんかよくわからんが俺は大丈夫だ。だからその泣きながらタックルするのマジでやめろ。そろそろ熟練度増してダメージ入ってるからな、俺?」
「だ、だってだって~」
「……おい、カースト?」
「なんだ?」
「あんま途中から覚えてないんだが……何があった?」
「お前が"リトカーダンジョン"へのショートカットだと言って意気揚々と道なき森を行こうといって歩いてたら転んで沼にダイブした」
「オッケー、ちょっと待て。やっぱ自力で思い出す」
「それで動かなくなったお前を引き上げようと私が片足を突っ込んだところ毒沼だったようで私も毒を受けた」
「待て待て、ほんと待て!」
「しかも状態異常の薬はお前がまとめて持っていたのにそれもご一緒に毒沼に全部ぶちまけるし」
「悪かったからほんと一回待て!」
「それでお前が毒で動かなくなって泣きじゃくるヒトミを宥めながらなんとか木々が開けた場所に出たらそこのおかしな商売をやっているおかしな商人のようなおかしな女がいた」
「いまおかしなって三回言いました? 人のおかしさを面白おかしく過剰に言うのはおかしくありませんか?」
「あーもう、口を閉ざせお前ら! んで誰だよお前は!」
大声で叫んだのちくらっと頭を揺らすカイル。それを見て心配したヒトミががくがくとカイルを揺らしたが、その甲斐あって無事にカイルは毒が回り再度ダウンした。
拙作をお読みいただきありがとうございました^^




