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Ep07_真実を騙る唄の横で語る裏話02

「どうだった? ギンユーシジンとやらの唄は?」


 聞くまでもなく自身の問いの答えが予想できているのか、ユーノはどこか悪戯っぽい笑みを浮かべている。


演奏を止めて去っていった吟遊詩人がいたスペース。その壁際に置かれていた木箱に腰掛け、傍で地べたに座り黙々と商品を並べているルーシャを見下ろしわざとらしく小さく首を横にかしげる。


「美化されている……というのが率直な感想ですね」

「うんうん、やっぱりそう思うよね」


 予想通りのルーシャの答えにユーノはくすりと笑い、木箱に腰かけたまま足をばたつかせる。


「神と悪魔と精霊が人族と昔は共存していた……というのは間違ってはいませんが、その後の魔族の登場の原因は偶然などではなく"必然"。というか"ルーシア"と"サタニア"のいがみ合いのせいでしょう」

「それに僕の母様の"無関心"……放置といったほうがいいのかな?」

「そうですね。争いを止めれる立場であり止めるべき立場でもあったのに何もしなかったのですから」


 ルーシャはどこか無表情のまま呆れたようにため息をつく。


「ルーシアとサタニアが人族におだてられた挙句、どちらが優れた指導者かとくだらない話でもめ始め、しまいには付き従う人族を巻き込んで争いまでおっぱじめて……それに怒った"母"が両者と人族を罰するために生み出したのが魔王種。そしてその魔王種たちが生み出したのが魔族でしょうに」

「万物の創造主にして"原初の主"である"ラティナ・プリニウス"様……ルーシャのお母さんは同じく自分が生み出したであろう神や悪魔、それに僕たち精霊が仲良くしないのが嫌になったのかどこかに引きこもっちゃったみたいだしねぇ。ルーシャはあの人たちがこの世界に出禁になる前はしばらく"ラティナ"様と一緒にいたんでしょ? ほんと何か聞かされてないの?」


 唸るように声を上げるルーシャだが思い当たる節がなかなか無いようで首を右に左にと交互に傾げている。


「そういわれましても300年前といえば私もユーノ同様に生まれて間もない幼子でしたし」

「母様からはルーシャは生まれた時と今もあまり見た目は変わってないって聞いてるよ? 見た目の若さそのままに身長が少し伸びたぐらいだって。あと生まれてすぐに言葉を理解していて……生まれて早々ルーシアとサタニアをどついて現世レガシアから追っ払ったって」

「幼子だったのでよくわからずじゃれついたみたいなものでしょう。ええ、きっと?」

「ルーシャの3つの"創世術式"もでたらめだけど、身体能力というか加護もでたらめだよね。"原初の加護"ってやつ? 最強格の二人をじゃれる感覚でぼこぼこにするのすごくない? 」

「ちょっと幼かったので記憶が曖昧なんですよねその辺。とりあえず魔王種を討伐し終えたという二人に母からの代理で制裁の拳骨一発ずつ。そして母からの出禁通達状代わりの強制送還効果付きナックルガードですかさずボディーブロー決めたぐらいしか……あの時の二人の悶絶した表情はちょっと愉快でしたね」

「ばっちり鮮明に始まりからフィニッシュまで覚えてるよねそれ。てか、え? ラティナ様の力で封印したとかじゃなくて最後ボディーブローで元の世界に送ったの?」

「まあ病院送りにしたわけじゃないので安心してください。ちょっと母親から与えられた玩具を幼い子供が嬉しくて振り回してたら親戚の人に強めにぶつかっちゃったみたいなものですよ」


 ルーシャののほほんとした様子とは裏腹に、ユーノは初めて聞いたルーシャの過去話にげんなりとした表情を浮かべる。脳内で想像された光景のカオスぶりにユーノは頭痛がしたのか額に手を当てる。


 その様子を見ていたルーシャがそっと両手を伸ばし頭を押さえる……いや、自分で頭を撫でるといったほうが良いだろうか。ルーシャの謎の仕草に気付いたのかユーノは何事かと尋ねる。


「私の母は生まれてすぐに私の頭を撫でてくれました。そしてぎゅっと抱きしめてくれました。私に微笑みかけ、"ルーシャ・サタヴェル"という名を与え、何度も何度もその名で優しく呼んでくれました」


 ぽつりぽつりと視線を上に向けたままどこか独り言のように語るルーシャ。どこかもの寂しい雰囲気にユーノは微かに唇を動かすも開くには至らず、沈黙が続く。


「母と過ごしていた世界が天世ハイネルだったのか深淵アビスだったのか……はたまた幻園スピリタなのかこの現世レガシアだったのかはわかりません。だけど、おそらくあの場所はそのいずれでもない、母と私だけがいた世界。そして母はたぶんいま……あの時一緒にいた世界にいるのだと思います」

「そっか……そうだね。きっとそうだよ。300年前……ラティナ様がルーシャを現世レガシアに送った後、そのまま姿を消した理由はわからないけれども、きっと何か事情があったんじゃないかな」

「そうでしょうね……私に"こんな名前"を付けたぐらいですし……大方この世界をなんとかして欲しかったのかもしれませんね。ルーシアやサタニア、ユグドラもこの現世レガシアに迷惑をかけましたが……結果的にそれを罰するためとはいえ母もまたこの世界に魔王種……そして魔族という害をもたらしてしまい、心苦しくなったのかもしれません」

「それでこの世界や僕たちの前に顔を出しづらくなっちゃった……のかな」


 二人そろって首を上げ、雲一つない青空のその先を見つめる。しばらく黙ったまま、少しの時間が流れる。そして二人を吹き抜けるように温かな風が通り過ぎたのを機にルーシャはそっと視線を地面に落とす。


「まあ"三界"のいずれにも私は出入りしようと思えばできるわけですし、母のいる世界に戻れる方法もあるでしょう。引き続き気長に探しますよ。会いたいのは確かですし……"私を生み出した理由"も知りたいですしね」


 ルーシャはそこまで言うと置いていた鞄を勢いよく背負い、ぱっぱと膝とお尻についた汚れを払う。


「私はそろそろまた街を出て各地を巡りますがあなたはどうしますか?」

「う~ん、今は特に幻園スピリタでやることもないし、もうしばらくこっちにいようと思う」

「どうせいるのならいい加減人前に姿を現してもいいのでは? 先ほどから前を歩く人が私一人で何をしているのかと不審な表情を浮かべていましたよ?」

「神や悪魔たちと違って精霊は出禁とまではいわれてないけど、あまり僕たちだけが目立つとあの二人がひがんでまたこの世界に来たいって言い出しかねないでしょ?」

「……ありえますね。出禁とはいえ来ようと思えば来れる力は持っていますし」

「まあ神と悪魔の贖罪が魔王種の討伐だとしたら僕たちは"無関心"の罰として魔族から人族を助けてやろうって決めたわけだけど、正直僕は別に母様からは何も言われてはいないしね」

「ふむ……つまり無職ということですか。なんだか王女っぽいですね、ユーノ姫」

「待って……ルーシャの中の王族基準って職の有無なの? あと姫はやめてよ」

「いまさらですけどユーノは精霊女王ユグドラの一人娘ですし、私のような一介の商人が呼びつけるような立場じゃなかったですね」

「ま、待って待って! ほんと待って!」

「以後気を付けますね? ユーノ様? あ、お帰り用の魔法陣、もう用意したほうがいいですか?」


 立てた指を口に添え、慌て始めたユーノを不思議そうに見るルーシャ。


「やだやだやだ! もう呼ばないなんて言わないでよ!? 僕、ルーシャに会えなくなるとすっごく悲しいよ? 水の精霊に負けないぐらいに目から水を流すよ?」

「ふむ……まあユーノは優れた精霊ですからその辺の精霊には負けないでしょうね」

「そ、そういうことを言ってるんじゃなくて~!」


 がくがくとルーシャの両肩をつかみ涙目で揺さぶるユーノ。ただただされるがままに揺さぶられるもルーシャにさして驚いた様子はない。


「まああなたが迷惑してないのなら今後も呼びますよ。私もこの世界で気兼ねなく呼べる話し相手は欲しいですから」

「ルーシャ……うん、いつでも呼んでね!」


 どこか飼い主に甘える子犬のように、ユーノはぎゅっとルーシャに抱きつき安堵した表情を浮かべた。

拙作をお読みいただきありがとうございました^^

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