Ep06_真夜中の商品製作とおもてなし02
「一応聞くけどそれ何?」
焚火を挟んで座るユーノとルーシャ。そしてその焚火の上で串に刺され焼かれる巨大な緑色をした肉厚の塊。分厚いステーキ肉のように平べったいその身からぽたぽたと滴る肉汁の煌めき……以上に異常にピカピカと光るその緑色の物体にユーノは怪訝な表情を浮かべている。
「せっかくお呼びしてお茶も出さないのもあれなので? ここは在庫処理を兼ねて料理をふるまおうかと?」
「もしかしてそのよくわかんない肉の塊を僕に出そうとしてる?」
「安心してください。これ、肉じゃなくて葉っぱですから」
「葉っぱ?」
ユーノがまじまじと見つめるそれはよく見れば確かに葉としての特徴である葉脈も見える。だがそれでも普通にそれを一目で葉と断定するのは難しいサイズである。
「これまた一応聞くけど……それ何の葉っぱ?」
「以前森の奥深くをお散歩をしていたら大きな花が咲いていて? ちょっと詫びの札束代わりに一枚拝借?」
「途中からなんかお花相手に使う台詞じゃなくない?」
「まあまさに魔王種の種から咲いたかのような大きな花でしたので? 記念に一枚摘んだだけですよ。まああれは摘んでもいい成長の芽でしたから?」
「なんかちょいちょい魔王種に近い存在をやっつけてない?」
「勇者でもあるまいし……一商人如きがそんなおおそれたことできませんよ。そうですね……商人チックに言うなら仕入れですよ仕入れ」
「はぁ……そういうことにしとくよ」
「わかっていただけて何より」
「それで……"お母さん"とはお話しできそうなの?」
「……いえ。相変わらず引きこもりを決め込んでるかのようです。|"終わらない最後の遺言"《ラスト・ラストウィル》の腕輪を以前南の砂漠にあるダンジョンで"たまたま"創れましたが……やはりこれだけでは伝わらないんでしょうね。それに……まだ向こうからの言葉を受けるための道具が私には足りていない」
「そっか……早く"お母さんとの連絡手段"、手に入るといいね」
「気まぐれな救済取引で入手できるのが先か……|"創造錬金"《ジェネシスアルケミー》で偶然創られるのが先か……まあ、いずれにしよ運次第」
「それでも対象の救済に必要という制約がかかった品しか出ない段階でまだ完全ランダムでアイテムが出来上がる|"創造錬金"《ジェネシスアルケミー》よりは気まぐれな救済取引のほうが期待大じゃないかな」
ユーノの励ましにもとれる優しい声にルーシャは遠く空に浮かぶ星々を仰ぐように顔を上げる。
「そうですね……まあお節介な"ルーシア"に倣うわけではないですが、商いの傍らで人助けは当分続きそうですね」
「商人の副業に人助けってなんだかおもしろいよね。いや……人助けの副業が商人なのかな?」
「どちらが主でも関係ないですよ。まあ|"創造錬金"《ジェネシスアルケミー》でできた不用品を売ればこの世界での生活の足しになりますし。何か御入用の冒険者を相手にしていれば気まぐれな救済取引も発動しやすいですし……行商は何かと都合がいいですから。あ、焼けましたよ? 状態異常オンパレードな花粉を持つ花……の食べても無毒な葉っぱ」
「食欲わかないなぁ……」
ルーシャがぐっと串ごとその大きな肉厚の葉を差し出すとユーノは顔の前で手をクロスさせ受け取りを拒否する。
「一応先日毒見はしましたが……まずくはないですよ?」
そういってぱくりと手にした焦げ目のついた葉にかぶりつくルーシャ。それを見てぎょっと慌てるユーノだが、あいかわらずの無表情のままもしゃもしゃと口を動かし咀嚼するルーシャ。それを見ても味の良しあしの想像がつかず、再度差し出された葉を前に頭を悩ませるユーノ。
「味はどんな感じなの?」
「味ですか……そうですねぇ。ピーマンだけでパテを作ったハンバーグに適度ではないぬめり感を加え、そこに肉の脂身に似たジューシーさがミックスされた感じでしょうか。あ、ハーブソルトはお好みで追加で振ってくださいね」
「どうしよう……想像以上に容易に味が想像できてかえって食欲がわかな……むぐっ!?」
台詞途中で開いたユーノの口にルーシャが突き出した葉肉が詰め込まれる。突然の出来事に目を白黒させたユーノだが、ルーシャから串を受け取りゆっくりと咀嚼する。
「好き嫌いはだめですよ、と? 人族の親は子供によくそう言っているらしいですよ?」
「もうっ! これは好き嫌いとかそんなんじゃなくて……」
「それで? あなたの口に合いましたか?」
「……美味しいよ。あいかわらず人族の調味料ってすごいよね。それだけはほんと脱帽だよ」
視線をどこに向けるでもなく、口をとがらせてユーノが応える。
「神も悪魔も精霊も食に関しては食べられればいい……な残念な方々ですしね」
「ぼ、僕はそんなんじゃないよ! 僕だって食べ物にはこだわりがあるから!」
「せいぜい野菜や肉よりも果実が好きという程度でしょう?」
「り、リンゴ! 果実の中でもさらにこだわりがあるからね!」
「ではそのリンゴの食べ方でお好きな食べ方は?」
「え? 皮を剥いて食べるかそうじゃないかってこと?」
「……ほんと、この世界に迂闊に"証文式召喚術"《ショウモン・サモン》で呼ぶと精霊が帰りたがらない理由がよくわかります」
「ぼ、僕何か間違ったこと言ったかなぁ?」
「いえ、間違いではありませんが選択肢がその二択しかないのが残念かと。今度あなたを呼ぶ際には何かリンゴを使った菓子でも用意しておきましょう」
首を傾げ悩んでいる様子のユーノから焚火へと視線を戻し、そっと火にかけていた鍋を手に取る。そこに入っていた沸騰した湯を同じく手に取ったコップへと注いでいく。それと同時に当たりに広がる清涼な香り。
「あ、なんかすごくいい匂い」
「ハーブティーというものです。ハーブをもっと乾燥させて作られたものもいいのですが、私は摘んで間もないものを使用したほうが楽なので……どうぞ」
すっと差し出されたコップを受け取り、ユーノはなおも湯気が立つコップに鼻を近づけ、その香りと温もりを楽しむように口の端を緩める。
「ハーブって香りづけぐらいにしか使わないって思ってたけど、こんな楽しみ方もあるんだ。これも人族の知恵ってやつ?」
「人族は力こそ他種族に劣りますが、知恵や学びという点では他を圧倒していますね。本当に……あの人たちにも少しは学ぶということを覚えてほしいものです」
どこか口元をむっとさせたルーシャは空いたもう一つのコップに葉をちぎって入れ、そこにまた熱湯を注いでいく。先ほどと違ったどこか粗い淹れ方にユーノは苦笑いを浮かべる。
「まあなんだかんだ君のお母さんの引きこもりの原因をつくっちゃった張本人たちだからね、"ルーシア"と"サタニア"……母様もね」
「人族に直接害をなす魔族たちとは違いますが……それでも神も悪魔もまだしばらくは出禁でしょうね、この人族と魔族の住む世界……現世には。お許しを出す母もこの世界どころか"三界"にすら姿を見せなくなったわけですし」
ルーシャはそう言って右手の指を三本立て、ゆっくりと閉じていく。
「もっとも、この世界の人族たちはその"三界"の存在すらろくに知らないでしょうけど」
「あはは、まあ僕たち精霊や神に悪魔の存在すらもはや伝承上の存在だしね。でも一応それぞれが住まう世界の存在もお伽噺みたいには伝わってるよ。そうそう、そういえば人の世界で僕たち精霊や神や悪魔の消失、そして魔族の出現の歴史がどう語り継がれてるかルーシャは知ってる?」
「うん? 私たちの知るものとは違うのですか?」
「結構その辺で"ギンユーシジン"? とかいう職業の人族が面白おかしく歌ってるよ? ルーシャも一度聞いてみるといいよ」
「ふむ……街角で何やら仕事もせずに歌ってる人族を見かけましたが……あれは仕事だったのですか。たまに人が集まっているのも見かけましたし、そうですね。その横で露店でもすれば人集めの手間が省けそうですね」
「あはは、生粋の商人みたいだね、ルーシャ」
「モノを売るのはいいのですが人集めは苦手ですからね。歌を聴くついでに利用させてもらいましょう」
「そのためにも、まだまだ商品創るんだよね?」
「まあ目的は"売り物"ではないですけど」
「うーん、やっぱりルーシャって商人っぽくない?」
「自分の利益優先という点では商人の鑑だと思うのですが?」
「その利益がお金じゃないからねぇルーシャの場合は」
くすくすと笑うユーノを横目に、ルーシャは両手でコップに手を添えハーブティに口をつける。
「……味はそこそこですが、温かいですね」
そういって吐いた息は白く染まり、なおも更けていく夜の闇へと溶けていった。
拙作をお読みいただきありがとうございました^^




