Ep04_鈍感な君と鈍器持った君へ02
「あの子いまさらだけどあんなに馬鹿でかい鞄を背負ってるのよね」
「そうですね。あれ? もしかして盾持ちの僕よりも筋力ある?」
もはや巨大な岩にも見えてきた容量が異常なルーシャの背負い鞄。ガルシエラとニーベルは目の前で鞄の口と自分たちのもととを行き来する少女の背を見て不思議そうに目を細める。やがてその少女が戻ってきたがその手にしたものを見てぎょっと目を開く。
「これなどどうでしょうか?」
「またこん棒!?」
「いやそれよりもツッコむところあるでしょ! 馬鹿シン!」
ルーシャが次に持ってきたのはまたしてもこん棒。最初に持ってきたカーボンウッド性のそれよりも黒くどこか禍々しさを感じさせるほどだ。そしてそれをダメ押しするように、本体には実に写実的な髑髏のデザインが紅を基調に刻まれている。
「それ装備したら呪われる系の武器じゃないの?」
「私持ってますけど?」
「そ、そうだったわね……ていうか大丈夫なのそれ持ってて」
「武器ですから持てないと使えませんけど?」
「そういうことじゃなくて……あーもうっ!」
もどかしさから苛立ちを隠せないガルシエラ。だがそれとは対照的にどこか子供のように目を輝かせるシン。
「なんかかっこいいなこれ。こん棒らしからぬデザインで」
「お目が高いですね。このデザインの良さに気づくとは
「呪物にしかないデザインでしょそれ」
ルーシャがすっとガルシエラに無言の抵抗よろしく視線を向けるとガルシエラは素早く目をそらす。
「これも小銀貨5枚なのか?」
「はい。こちらはとある魔族の素材からできていまして。なんとその"魔族の加護"が宿っていますのでスキルが使えます」
「え? 今度も加護付きなの!?」
「はい、"スケープブラックゴート"の角で出来てまして……"スケープ・エスケープ"のスキルが使えます。というよりも、これで何かを殴ると勝手に発動します」
「何よ……そのスキル」
「戦闘時における離脱補助の効果がありまして……使用者が戦闘離脱不能状態に陥りますがその使用者の周囲の人たちを強制的に近隣の安全スポットに転移させます」
「ダメじゃん! それ!」
ガルシエラがこらえきれず大声でツッコむとナオシィがどうどうとその背を撫で宥める。何とか呼吸を整え、それが終わると同時に大きく疲労混じりの息を吐く。
「それって使用者が犠牲になるやつでしょ」
「"ここは俺に任せてお前たちは逃げろ"……がナチュラルにできて需要高そうに思ったんですが」
「あ、なるほど。それはかっこいい……」
「却下! 馬鹿シン!」
ガルシエラの"硬化"スキル顔負けの硬さの拳がシンの頭部を襲う。クリティカルヒット……というか当たり所が悪かったのかシンは殴られた頭を押さえ地面を転がりまわる。
「もう最初のこん棒でいいわ! なんかこの後出てくる商品が嫌な予感しかしないから!」
「ん! 同意」
「あはは……まあ、なんだかそんな気がしますよね」
「むぅ……失礼な! これは我が店への宣戦布告ですね? もうスケープ・エスケープを使っても逃がしませんよ?」
餌を頬張るリスのように頬を膨らませ、ルーシャは手にしていたこん棒を腰に差し、また鞄へと昇っていく。そして今度は両手で器用にこん棒を持ったまま戻ってきて早速シン以外の三人の顔を曇らせる。
「このこん棒ならどうです」
「え? 君の店ってこん棒専門店だっけ?」
「こん棒の汚名はこん棒で返上します。あ、ちなみにお買い上げ後三日以内であれば故障による返品は受け付けますよ?」
「え!? そうなの? 良心的だ……あだっ!?」
再度ガルシエラの拳にその場にかがみこむシン。それを横目にナオシィとニーベルがルーシャの前に立つ。
「今度はどんなこん棒?」
「よくぞ聞いてくれました。これはなんと精霊術式を使用する際に消費するマナを軽減し、威力を増幅させる精霊の加護付きのこん棒です」
「ん!? 何それ! 私が欲しいかも」
ルーシャに負けないほどにどこかクールに感情を表に出していなかったナオシィ。だがルーシャの説明にぱっと顔を明るくし、先ほどまでのクールさはどこへと言わんばかりに子供のようなはしゃぎっぷりで目を輝かせる。
「そちらの方はもしかして術師……しかも精霊術式を使われるのですか? だとしたら非常におすすめな一品ですね」
「ちょ、ちょっとナオシィさん!? 今はシンさんの武器を探してるわけで……」
「でもすごい効果! ちょっと試しに装備してもいい?」
「どうぞ?」
「ありが……うぐっ!?」
ルーシャに差し出されたこん棒をつかむと同時に手にしたままドスンと地面に突き立てるナオシィ。何が起こったのかと、驚いた様子でその小柄な体を震わせる様子にニーベルは素早くナオシィを守るようにしてルーシャに対し盾を構える。
「ど、どうしたんですかナオシィさん!? まさかそれ呪いの武具とかで……」
「……ごく……もいの……」
「はい?」
「すんごく……重いの」
「重い?」
「あ、言い忘れましたがそちらのこん棒、特殊な木材でできてまして装備すると重さは大樹10本分らしいです。あ、装備さえしなければ小枝10本分ぐらいですので持ち運びは便利ですよ?」
「そ……そんな重さの表現初めて……うぅ……」
こん棒から手を放しよろよろと後ずさるナオシィ。倒れそうになった彼女をニーベルがそっと腕をまわし支える。
「装備したら持ち運べないんじゃだめでしょう!」
「こう考えましょう……戦闘時にだけ装備して固定砲台として立ち回れば?」
「それでもいざというときに後衛の術師が動けないってのは致命的だよ!」
「それではこちらはどうでしょうか?」
ルーシャはもう一つのこん棒を差し出す。だが警戒したニーベルは反射的に盾を構える。
「ちなみにそれはどんなこん棒なの?」
「一度何かを殴ると防御力が飛躍的に増加し、なんと自身だけでなくパーティ全員が鉄の硬さを得ることができます」
「"神の加護"でもついてるのかな……? ちなみにそのこん棒もすごく重たいとかなんとか?」
「普通のこん棒ぐらいの重さですよ?」
そう言ってルーシャは棒立ちのままぶんぶんとこん棒を振り回して見せる。その様子を見てニーベルは再度差し出されたこん棒の柄を恐る恐る手に取る。
「ちなみに効果は3分間。そのこん棒で何かを殴ると効果が発動します。一度使うとその効果は失われますので、残念ながら以降は普通のこん棒としてご使用ください」
「う~ん……効果はいいけど使い捨てかぁ」
「なんか"普通のこん棒"って聞こえたけどもうそれでいいじゃない!」
後ろでシンにくどくどと説教をしていたガルシエラが財布を手に前へとやってくる。そしてぎゅっとルーシャの手をつかみ、その手のひらに銀貨を1枚乗せる。
「最初に見せてくれたカーボンウッドのこん棒! それとその普通のこん棒を買うわ!」
「お買い上げありがとうございます」
ルーシャはぱっとガルシエラの手を振りほどき、深々とお辞儀をする。そしてガルシエラからの説教でなおも地面で正座中のシンのもとへいくとそっとこん棒を渡す。
「カーボンウッドのこん棒はどうぞ腰にでも差しておいてください。差し当たってはこちらを装備されるといいでしょう」
話の詳細を聞いていなかったシンは何が何やらとルーシャに言われるがままにこん棒を二本受け取り、装備する。
「ちょ、ちょっとルーシャさん逆でしょ! そっちの効果付きのこん棒を装備したら駄目じゃないですか!」
「そうですか? すぐにでも必要かと思ったのですが?」
「え……うわっ!?」
すさまじい突風と間違うほどの風はその場にいた者たちを危うく地面からさらうほどの暴風。しかし事実はそれよりも恐ろしい。過ぎ去った突風ののち、ニーベルたちははっと空を見上げる。
その姿はさながら水中を自由に泳ぐかのように……。長く巨大な体をくねらせて泳ぐ青白い鱗をまとった巨竜。全長にして30メートルは優にあろうかというその姿にニーベルやナオシィ、そしてガルシエラにシンも呆気にとられ身動きができずにいた。
拙作をお読みいただきありがとうございました^^




