Ep04_鈍感な君と鈍器持った君へ01
「はぁ!? 武器壊した!? 何やってるのよ馬鹿シン!」
雲一つないほどに天気がよく。大地を覆う草原の緑もあって澄んだ空気もよく。人気もなく静けさが漂っていたため声の通りもよく……開けた草原にガルシエラの怒声が鳴り響く。腰に両手を添え仁王立ちの彼女の前で意気消沈と地面に手をつき嘆き中のシン。その前にはポッキリと折れたロングソードと堅牢な石の塊。否、石にも見えるそれは俗に岩なめくじとも呼ばれる"ロッククローラー"が剣同様に真っ二つに割れたものだ。
ロッククローラーは魔族の中で魔蟲種に属するFランクの魔族でその存在自体はさして脅威ではない。ただしロッククローラーは魔族固有の能力である"魔族の加護"を有しており、それが非常に厄介な加護として知られている。
通常時の柔らかい軟体からは想像できないぐらいに体を石のように硬くする"硬化"と呼ばれる加護で、新米冒険者が不用心に攻撃しては武器を壊すというケースが多く知られている。
「うぅ……冒険者になるときに有り金はたいて買ったやつで気に入ってたのに」
「ロッククローラーは原則無視が鉄則でしょ! 大した素材も取れないし討伐の報酬の割には手間がかかるし武器もいたむしで」
「それなら先に教えてくれよ……」
「んー、シンが見つけるや否や突っ込んだ」
ナオシィが憐れみと蔑みを兼ねた瞳でシンを見下ろす。その後ろで苦笑いをする子供のような童顔と体格の持ち主であるニーベル。
「見事な手際での破壊劇でしたよね」
「うぅ……ニーベル。お前だけは盾役として俺を守ってくれると……弁護してくれると思ってたのに」
「あはは……まあ僕にも守れないときはありますよ。というか盾役よりも先に突っ込む前衛も駄目じゃないですか? 相手がまだロッククローラーだからよかったものの」
「そうよ馬鹿シン! ていうかどうするのよ! マテインの街までまだまだ距離はあるっていうのに武器失くしちゃって」
シンたちが目指すマテインは冒険者の都トラスティンの北に位置する比較的大きな街である。さらにその北には高い山々がそびえたつ"ギルサエム山脈"があり、その麓にある森は冒険者に慣れつつあるパーティにとっても人気の狩り場とされている。
一方で、山脈内に存在する"竜渓谷"はその険しさと危険度から世にも珍しい自然のダンジョンと認定され、"フィアメルトダンジョン"の名を冠している。そしてそこに住まう竜種は魔族の種の中でも最強の一角。ときおり麓の森でも存在を確認されており、その際は竜種を恐れた他の魔族が予期せぬ活動・生態を見せマテインの街では警戒態勢がしかれる。
「冒険者にも少し慣れたからちょっと遠出してマテインの街でしばらく稼ごうって話でしたが、まずはシンさんの武器の買い替えからですし……ははっ、赤字スタートですかね」
「んー……むしろ武器の費用次第では宿代が足りないかも」
「え? そんなにお財布やばかったっけ!?」
「んー……やばそう」
ナオシィは手に取った財布代わりの厚手の袋の中身を見て不安そうな目でガルシエラに答える。
「宿屋が食事なしで一人小銀貨5枚として四人で銀貨二枚。マテインへの旅路に向け食糧や薬を買い込んだから今全財産は銀貨八枚か九枚分ぐらいで金貨一枚分もないかな。街についてシンの武器を買った場合、最悪宿賃が無くなってしばらくは野宿生活……ん~」
財布の中身を掌にひっくり返して力無く硬貨を数えるナオシィ。それを見てつられてガルシエラやニーベルもどこか意気消沈といった表情となりシンが居た堪れない様子で目を泳がせる。
「あ~……最悪俺の武器は剣じゃなくてもいい。あと宿賃がないなら俺だけ野宿でも構わないから……その、武器が壊れたのは俺の不注意だし、な?」
申し訳なさが感極まったのか、シンは無理やり作った笑顔で何とかその場を収めようと提案する。だがその提案にガルシエラはむすっとした表情でシンの頭を小突く。
「いくら何でも一人で野宿は危険でしょ! それに、慣れない武器なんか使ったら戦闘でもその……危ないでしょ」
「お、俺なら大丈夫だよ。こう見えて武器は選ばないタイプなんだよ」
「あはは、いつだって戦闘は万全を期すべきですよ。まあ、シンさんの猪突猛進ぶりは今に始まったことじゃないですし、敵を見て真っ先に突っ込もうとするのも僕たちの準備時間を稼ごうとしてでしょ?」
「そ、そうよ! パーティなんだから、一人での単独行動は避けるべきよ!」
「で、でもそれじゃあ俺の気が……」
「そ、そこまで大したミスじゃないわよ! だから気にしない!」
「いや、でもそこはやっぱり俺のミスのせいでお前らにまで苦労をかけるのも悪いだろ。だから俺の分の宿賃は考えなくていいぞナオシィ。」
想像以上にシンが責任感を感じているのを見てナオシィは困惑し、ガルシエラもぐっと言葉を詰まらせる。先ほどまで強く責めていたこともあり罪悪感からかシンの顔をまともに見ることができないでいる。
「の、野宿するならあんただけじゃなくあたしもいてあげるから。そんなに責任を感じないでよ……わ、悪かったわよその……言い過ぎたわ」
「ん! どんまい! シン」
「そうですよシンさん。冒険者は冒険してこそ。野宿もそう悪いもんじゃないですし、街についたらシンさんの武器を優先させましょう」
「で、でも……」
「お困りですかそこの道行く冒険者の皆様? いまならお安く武器をご提供できますよ?」
突然のパーティ外の登場を告げる宣告……というよりは宣伝。そして聞いたことのあるその平坦なトーンに一同ははっと声の聞こえたほうを見る。いつの間に……そしていつからいたのか、どこか獲物を見つけたといわんばかりにふんすふんすと鼻を鳴らし商機に意気揚々とするルーシャの姿がそこにあった。
「他の追随を許さない我が店の品ぞろえ……見ていきますか?」
自分の身の丈以上はあろうかという大きな背負い鞄をどすんと地面に置き、ぽんぽんとその鞄を叩く。
「あ、あなた……たしかルーシャとか言ったっけか?」
「おや? 常連さんでしたか?」
「いやいや、前にあったでしょ私たち!?」
「……はて?」
首を傾げピクリと刹那、眉を動かしたルーシャ。やがて頭を右に左と揺らすように傾け思い出そうとするも中々答えが出ず、しびれを切らしたガルシエラが顔を近づけガシッとその両肩をつかむ。
「ほら、前にラシーナダンジョンで……」
「……ああ、あなたは」
「思い出してくれた? そう、私はガルシ……」
「たしか落とし穴から入店した四番目のお客様」
「その覚え方やめてくれない? てか忘れて?」
「お客様の顔を忘れるなんて商人の風上にも置けないですよ」
「あなた明らかに忘れてるわよね私のこと?」
ガルシエラの追及を気にせず、ルーシャは感情の灯ることないどこか遠くを見るような瞳でガルシエラたちのパーティ、"セイヴ・コロニア"の面々を見渡す。そして折れた剣を回収し手にとったシンを見てきらりとその瞳を輝かせる。
「どうやらそちらの方の武器が壊れてお困り……といった感じですね」
「あ、ああ……ロッククローラーを倒した際に折ってしまってこの様さ」
「ふむふむ……鉄製のロングソードですか。どうでしょう? そちらの武器を下取らせていただけるなら小銀貨5枚ほどで代わりの武器をお譲りさせていただくというのは?」
「は? 小銀貨五枚で武器って……解体ナイフですらその倍ぐらいの値段はするのに。あまり安物の武器じゃすぐ壊れて使い物にならないんじゃ?」
「そうですね、剣などの刃物武器でしたら最低でも銀貨三枚ぐらいはしますし、それでも安物ですからおそらく耐久性は期待できないでしょう。でも……それ以外の武器でしたらしっかりとしたものでもそこまで値は張りませんし、お得ですよ?」
「そうなのか?」
シンは武器は選ばないとは言っていたが、実のところそれ以外の武器に関する知識は浅い。ましてや素材そのものはともかく、値段の相場などはそこまで深く見てはいなかった。ルーシャは半ばよじ登るようにして地面に置いた鞄の口まで行くと中から何かを取り出し、勢いよく広げた露店用の布の上に置く。
「これは……こん棒?」
「はい、価格と硬さに定評のある"カーボンウッド"に銅を混ぜて作られたものです」
ルーシャの紹介にシンは装備してもいいかと尋ね、そっと手に取る。
「こん棒ってもっと重たいのを想像してたんだけど、これはなんだか軽いな」
「はい、重さはそこまでないため打撃力は筋力に依存するところが大きくなりますが、非常に丈夫ですし壊れる心配もなく殴り放題ですよ?」
「殴り放題って……でも、重さは前の剣と同じぐらいで案外悪くはないな。いったん保留にするから、ほかにもどんな武器があるか見せてくれないか?」
「喜んで」
ルーシャは再度鞄を登り、またもごそごそと中身を探って何かを手に降りてくる。
「これは……え? またこん棒?」
「先ほどのものとは性能も違いますよ。これはなんと加護つきのこん棒です」
「え? 加護付き!?」
先ほどの魔族の加護の他、この世界には3種の加護が存在している。主に防御力よりの身体強化や能力が恩恵の神の加護。それとは真逆で筋力よりの身体強化や能力が恩恵の悪魔の加護。そして身体の強化こそないものの、敏捷さや状態異常への強い耐性が恩恵の精霊の加護だ。
それらが付与された武器ともなればその加護にまつわる能力を通常の加護による能力発動と同様に"生命力"を糧に発動できる優れものである。
中には加護ではなく"神聖術式"や"悪魔術式"、"精霊術式"などの詠唱による術式の力を宿したものもあり、そちらは"マナ"と呼ばれる精神力を糧に通常の術式のように発動することができる。
いずれもダンジョンや古い遺跡などで見つかることがほとんどで、市場にもなかなか出回ることはないため高額というのは冒険者の常識である。
「い、いくらこん棒とはいえ加護付きだと折れた剣と小銀貨五枚じゃ割に合わないんじゃないの?」
「ん、ガルシエラの言う通り」
「ああ、私もダンジョンで商売してるときにたまたま拾ったものなので元手は安いというかほぼタダですので。街の武器屋、もとい同業者に売るのも癪なのでこうして冒険者の方と直に取引することでお互いメリットは出るのではと。なので値段についてはお気になさらず。これでも商人ですので完全に損な取引は致しません」
ルーシャは先ほど同様試しに装備して見るようシンへと手にしたこん棒を差し出す。先ほどの真っ黒な外見と違いどこか赤みを帯びた木材のような質感。それでいて硬度も申し分は無いといった様子だ。
「ちなみにこれはどんな能力が宿っているんだ?」
「そちらは精霊の加護付きですね。敵を殴ると追加で炎の追撃が発生し……燃えます」
「炎の追撃? それってすごくないか?」
「そうですね……それで殴れば敵も……こん棒も……燃え広がった炎で持ち主をも地獄の業火で焼き尽くしますね」
「うん、ひどい武器だな」
シンは爆弾でも扱うようにそっと両手でこん棒を持ち、恐る恐るルーシャに返却する。
「お気に召しませんでしたか?」
「お気に召す人はたぶん人じゃないと思うぞ……」
「そうですか。簡単に火も起こせそうで需要はあるかと思ったのですが」
「使うたびに水でもかけて火を消せば使い捨てってわけじゃないし便利かもだけど。今はシンの武器が欲しいんだから」
「かしこまりました。それでは次行きましょう」
ルーシャは不評だった棍棒を手に鞄をまたよじ登り始める。商売に張り切りだした目の前の少女の姿にすでにガルシエラを始め他の者たちは何やら不穏な空気を感じていた。
拙作をお読みいただきありがとうございました^^




