Ep03_門限間近の門番問答03
「おし、ゾル。門の外の警戒は俺がやる。お前にはあの三回目ましての御仁の対応を任せる」
「ちょっ!? それなら僕が門の外を担当しますよ! ミハエルさんどうぞあちらへ!」
「おいお前ら! 何度私を煩わせれば気が済むんだ!」
来て早々開口一番に大声でクレームをいう男性。結局二人で対応に当たったがそれを見てどこか退屈そうにため息をついたルーシャがてくてくと少し離れたところに置かれた箱へと近寄る。そこにはミハエルが買った水晶がまだ一つ置いたままになっている。それを手に取り、ルーシャはなおもいがみ合う3人のほうへとゆっくりと視線を向けた。
「あれで気づかないなんて……この街の門番は大丈夫なんですかね」
やれやれといった様子で首を振ったのち、ルーシャは水晶を手にした腕を大きく振りかぶる。
「こんなとこに水晶を置きっぱなしだと誰かが気付かずころんじゃいますから……ちゃんとしまっておいてくださいね」
「え? ば、馬鹿っ! 透明のやつを投げるな! 見えな……」
パキッ
「うわっ!?」
捕り損ねて地面に落ちた水晶が割れると同時にその場に強烈な光が発せられる。暗くなってきた周囲の闇をかき消すように伸び広がるその強さはさながら閃光弾のよう。
「ひ、光るなら説明しとけよルーシャ……って、あれ? いない」
「み、ミハエルさん!?」
ゾルが慌てて剣を抜こうとしたのを見て、反射的に剣を抜きすぐさま振り返る。その先で振り下ろされる黒腕。殺意のこもった振り下ろしの一撃をぎりぎり剣で受け止め、その刃の先で自身を忌々しそうな赤い瞳で睨みつける"人だったもの"を睨み返すミハエル。
「お前……人魔種だったのか。しかもその全身真っ黒な体……黒妖人かよ! 道理で今度は何の騒ぎもないのにお前さんだけ寄ってきたわけだ……」
人の姿を形どることから人魔種とよばれる魔族のなかでも特に数が多いとされる黒妖人。ランクが高いものほど知恵もつき、人族の言葉を理解して人に擬態すると言われている。
「うまく人族の街に入り込んだというのに、奇妙な道具で我を何度もこけにし……挙句の果てにはまたも奇妙な道具で我の魔術、人化擬態を暴きおって……殺してやる!」
「チッ……人語を解するってことは低ランクの魔族ってオチは期待薄だな」
ミハエルはぐっと腕に力を籠め、黒妖人の腕を押し返すと素早く距離をとる。
「ミハエルさん!」
「詰め所にいる奴いたら呼んで来い! 俺たち二人じゃ分が悪い!」
「は、はい! 急いで呼んで……!?」
詰め所へと続く道を走りだそうとした矢先、ゾルは自身が手にしている箱に気づき走るには邪魔になるから捨て置かねば、と思ったがその箱の説明が脳裏によぎりふとその足が止まる。
そしてミハエルと対峙する黒妖人に向かいその箱の口を向けおそるおそる蓋を開く。
「な!? なんだ!? 我の力が……体が……うおぉぉおお!?」
ゾルの手にした箱が青白く発光し、その口を向けられた黒妖人の体がまるで砂と化すかのようにさらさらと粒子となり、箱の中へと吸い込まれていく。
「そ、その箱は何だ!? 何故そんなものを貴様ごときがぁぁああ!」
その言葉を最後に、黒妖人は光の粒子となって箱の中へと全て吸い込まれた。それを見てゾルは慌てて蓋を閉じる。
「つ、捕まえたのか? 黒妖人を……?」
「は、はい……そうみたい……ですね?」
二人でゾルが手にする箱を見つめたまましばらく固まっていたが、やがてゾルが持っていた箱も先ほどの魔族同様に砂のようにさらさらと光の粒子へと変わっていき、暗くなり始めた空に向かい煙のように消えていく。
最後の光の粒が消えた時、終わったのだという安堵が一気に訪れたようで二人は同時にその場にへたり込んだ。
「さっき王都のほうでも人魔種が忍び込もうとしてたって噂した矢先にこれかよ……」
「ははっ……"封魔の箱"があって助かりましたね」
「とんでもねぇ代物だったな。たぶんだがあの黒妖人、人語を理解していたから最低でもDランク。下手すりゃCランク……小さな村なら滅びてたレベルの可能性もあったからな」
一般的にEランクは気を付けないと冒険者でも死に至ると言われている。そしてDランクはさらに危険を増し、並の冒険者が相対したならば常に生死を賭けるレベルといわれている。Cランクともなれば小さな集落が。Bランクでは1000人規模の国をも亡ぼす脅威といわれている。
「奴が魔術を使い始める前に封印できてよかったですよ」
「まったくだ……」
「というか……こんなアイテムを小銀貨2枚で売ってるって……あの子の店はどうなってるんだ」
「ああ、他にも俺でも見たことがないアイテムもあったし。聞いてた感じこの街で商売する様子だったよな?」
「ええ」
「あの箱、買えるだけ買っときたいな……」
「本当に……正直でたらめですよあの価格で……」
「明日は俺休みだから探してみるか」
「あ、ずるいですよミハエルさん!」
「ははっ、この後の酒場で金が溶けなきゃおまえの分も少しくらいは買っといてやるよ」
ミハエルは地面に刺した剣を杖代わりに立ち上がると剣を仕舞い、くいっと顎でゾルを促すと街へと向かい歩き始める。"さっさと行くぞ"というミハエルの無言の合図にゾルもまた立ち上がり、小走りでその背を追いかける。
ゾルがミハエルの横に並ぶと同時に沈みかけていた夕陽も店仕舞いとばかりにその光を休め、空に輝く星にその座を譲り渡していた。
拙作をお読みいただきありがとうございました^^




