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6 紅 妃  (赤 界)

 

 

 女はまどろんでいた。この数日、世界の形を変えるために、ずっと働きづめだったが、パートナーがこの赤階の帝王宮に上ってきてくれたので、ようやく少しばかり時間ができた。休んでいるゆとりは、たぶんこれからしばらくはあるまい。せめてこの数時間のまどろみを、存分にたのしまなくてはならない。が世界を支える根本である。

 本来<術士>は、世界の時間の流れに逆らおうとはしないものだ。この世界を破綻させずに運営するには、ある程度の変革を加えなければならない。今日とは違う明日、たとえば、パターン化する日常の生活に、ちょっとした新しいタイプの生活用品を加えること。黄階においては、それは二十年ほど前にもたらされたテレビであり、そして最近では、パソコンである。

  この世界の端に置かれた渚から、小舟で渡ったその先にはこの世と違う世界があるという。そこから時折小舟に乗せられ、さまざまなものが流されてくる。

  流されてきたものが渚に打ち上げられ、そしてそれを誰かが拾うと、この世界の生活の道具としてまるで以前からあったもののように鎮座する。

  そういったものがもたらす変化が、あまり大きくなりすぎてはいけない。それでは何も知ろうとしない者たちまでこの世界の形を知ろうとする。 

 日常の、ほんのわずかな変化。それを司るのが<術士>の役割で、世界の形を知らぬ黄階がもっとも変化の度合いを複雑にせねばならなかった。青階は、数年に一度それをもたらせば良いし、少々変化の度合いが極端であっても、めったな事では文化的な混乱は起こらない。そして、赤階はまるで変化させる必要がない。精神そのものを、極端に駆使し進化させなければならない世界であるから、目に見えるレベルで変化する状況に対して、精神のエネルギーを使うことは無駄だからである。

 ここにおいて、精神が変化するために重要なことは、すぐれた首席術士と魂の融合を行うことであり、人と向き合い、目に見えぬ、心で感じぬレベルにじっと耳を澄まし、考えることによって。

 その世界に、新たな秩序を構築しようとする彼女にとって、すべての術士が敵である。それに打ち勝つには、すべての術士を凌ぐ力が必要であり、そして、術士たちが一体となって彼女の野望を阻止する方向に向かないように、手を打たねばならない。 久々に味わうまどろみの空間は、蜜のように甘い。この世界の全てを、自分と、パートナーの望む形に変革すること。

 それは、かつて一度行われたことがあり、そのとき、この世界を支配しようと試みた者は、世界より術士を次々と暗殺していった。

 だが、それは阻止された。世界を総べる六人の帝王と皇王によって。

 だから、同じ失策はしない。

 皇帝と皇王は、手足である術士なしには行動を起こすことができない。だから、先にそちらに手を下すことにしたのだ。

 間もなく、世界の形は変わるだろう。

 彼女は、まどろみの奥に、彼女の新しい世界を見た。そして、その世界を歩く。細々とした部分でさえ、明確にイメージするのだ。その力こそ、世界を変え得るのだから。

 

 ニーは、夜半を過ぎて誰か訪れたらしい物音に目覚めた。

 「老師。遅くに失礼いたします」

 階下の声が、ニーの部屋までかすかに聞こえてくる。

 「おお、これはエリン殿。どうぞ、入られよ」

 エリンといえば、これまでこの塔を訪れたことはなかったが、黄の青階術士であることは知っていた。

 「わが師ムーダーラよりのご伝言でございます。赤の術士イリスに関しての情報を提供願えませぬかと」

 「イリスの件、特に彼女の『影』の件については、本来ファザムの役割であったが、例のこと以来、プラティスが引き継いでおる。特に必要な情報があれば、直接そちらに問うとよかろう。

 当方にはまだ、特に提供できるような情報は入ってはおらぬゆえ」

 それを聞いて、エリンは云った。

 「紫と青の領域の者の間で結託をしておると、ある術士は申されていたが、どうやら真実のようですな」

 その声には、皮肉が込められていた。

 「たかがうわさ話で、青階の<術士>たるあなたがそのような言動を気安くなさるのはどうかとも思われますな。

 あのプラティスの事ゆえ、何か情報が入れば、わが弟子ゼルダと、市長であらせられる青階の藍玲帝王陛下のもとにひとまず報告を入れることでしょう。その後の藍玲帝王陛下の招集なさいます会議の席で、そのような情報は平等に情報は公開されるべきでありましょう。また、緊急を要するようなことは、その時々の判断で藍玲帝王陛下がお達しになります。それまで待たれるのが筋というものではありませぬか」

 師は、あくまで年長者らしく、やんわりとした態度でそれを諭した。

 「ですが、ゼルダ殿の耳に先に報告がまいるのであれば、当然、ゼルダ殿の上位の術士であるあなたに先に連絡があるのは当然ではございませぬか」

 「ゼルダは青階の術師の議長、臨時会議を招集する責任上、それは当然の権利でございますな。

 なに、ゼルダとて、わたしにすぐ報告をもたらすはずはありませぬ。藍玲帝王陛下が先に、その報告は受け取るはず。

 それより……」

 老師は声のトーンを落とした。

 「注意なされよ、エリン殿。これが奴らの手やもしれませぬ。

 あらぬ噂に術士が翻弄されて力が分散されるのは、奴らにとっては好都合でございますからな。イメージがひとつであってこそ、世界の形は守られるのです。

 イメージの分散は、奴らに付け入る隙を与えることになる。我々のイメージの力が統制がとれなくなり、分散したときに、彼らのイメージが強ければ、この世界は一時彼等のイメージをトレースします。が、そのあと、我々がまたイメージを戻せば、二つの異なるイメージの混乱の果てに、この世界はどうなることか」

 「奴らとは」

 「精霊ケサルパーティの中に住む者の意識でございます。

 奴ら、長い時間の眠りのおかげで、力は貯えておりましょうが、イリスをたぶらかしたのみで、まだそのイメージに力を貸す者もいくらもおりますまい。

 イメージを溜め、その力で世界の形を変えるには、やはり系統だった力の使い方を学んだ者が必要でございましょう」

 「つまり、<術士>でございますな」

 「さよう。

 奴らは、イリスを得た。

 それだけでも大した力であるが、まだ、こちらのほうのイメージを凌げるほどの力をに,は至っておりませぬ。

 しかし、我々のほうがイメージを分散させてしまえば、奴らはさらに、対立した<術士>を自らの力として取り込んでしまうこともあり得ることでございます。

 すなわち、術士が正しい力をもってまとまる事こそ、世界の崩壊を防ぐことでございます」

 「世界の崩壊。

 この世界が崩壊する危険があるとおっしゃるのか」

 「さよう。

 我々の暮らすこの世界の形は、我々が思っておるほどに安定したものではございませぬぞ。ゆえに、<術士>が絶えずイメージを重い描く必要があるのですからな。

 我々の描くイメージが、一時的にせよ、奴らのイメージにすり代えられ、そしてまた再び我々のイメージに戻される。このような不安定な状態が繰り返されれば、世界のイメージは分離し、亀裂がはいることでしょう。

 ひとつの世界に、異なる二つのイメージは共存できるものでない。どちらかが、どちらかを食う、でなければ、それが混沌の渦を生み、そして世界を破壊する」

 囁くようなその老師の言葉に、ニーの眠気は吹っ飛んでしまった。

 その師の言葉は、すでに「奴ら」という言葉で敵の存在を指している。つまり、暗に、反逆者する一派がこの世界で活動していることを知っているのだ。

 彼らが、ファザムを殺したのだろうか。たぶん、そうなんだろうか。

 「老師、あなたはすでに、ご存じなのですか、世界に何が起こっているのか」

 「過去にあった事だが、今度は過去の者どもより、力をもっている。

 その力に対抗するのは、現在の世界の形を愛することじゃ。恋心をもって、この世界を常に心に描くことじゃ。今、生きているこの三つの階層から成る世界をな」

 

ああ、中二病展開真っ盛りなころだな。


まあ、腐病をわずらう前だから、今よりましか。

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