21 子供たちの夢 (黄 界)
ニーは、ライとともに、イスタドルに送られて黄階に降りてきた。階層と階層とをつなぐエレベーターに乗ったことが珍しかった。 黄階のラベンダーホテルの裏口から出て、そして広い海を見たとき、ニーはたまらなく駆け回って遊びたくなってしまった。なにしろこの黄階は、赤階に起きていた異変などとは無関係に、薄曇りながらも、それなりに明るい海の色であったし、ニーはあまり海を見たことがなかったせいでもあった。
だが、異変のことを考えれば、ニーたちをここまで送ってくるイスタドルは、早くこの仕事を終えて、老師たちの片腕として働かなくてはならないだろう。
防波堤の上に、ひとりの女の人が待っていた。
「千石さん。お待たせいたしました」
イスタドルが、大声で彼女のほうにそう呼びかけた。
「いいえ、わたしのほうこそ、遅れはしなかったかと心配でした」
同じように、彼女も大声で返事をした。
彼女のいるほうにイスタドルが歩き出したので、ニーとライもその後を追った。
「ふたりとも、この方は、黄の黄階術士、ファイディア殿だ。
それでは、この子たち、お願いします」 ニーとライは、ペコリと頭を下げた。
「修道院長から、お聞きしていますので、おまかせ下さい。
ところで、上のほうは大変でごさいましょう」
「ええ。現在、首席の術士の方々が現在、赤階の王宮におりますので。
それにしても、ファイディア様こそ、術士どおしの意識のまとめに苦心しておられると聞いております」
「この黄階の取りまとめでございます修道院長が上階との連絡でお忙しいので、少しでもお手伝いをと心がけているだけですわ。
それでも、わたしの活躍を待たずに、六色統合宮殿においでになった帝王陛下・皇王陛下のみなさまが、揃って捕らわれたというニュースには、さすがに情報の仕入先に苦労なされたようで、さきほど修道院においでになりました。
どうにか、これで黄階の統制もとれるものと思われます」
「それは良かった。
わたしもあまり時間がないので、これで失礼するが、あなたもお気をつけて」
「過去のことがございますからね。
でも、黄階への害が及ぶのは最後でございますから。御身こそ、お気を付け下さい。二公主が動き出したと聞いております。事態はこれで、我々のほうに大きく有利となりましたでしょう。ですから、くれぐれもご無理はなさらないように」
「ええ。わたしは生き延びますよ。何があっても」
「では、ニー、ライ、大人しくな」
イスタドルは、堤防の階段を降りて、またラベンダーホテルのほうに歩いて行った。
「ようこそ、黄階へ。一般人の前では、絶対にファイディアと呼んではだめよ。美波姉ちゃんって呼んで。
歓迎のしるしに、アイスクリームを買ってきたの。修道院に着いたら、食べさせてあげる。
では、行きましょうか」
ファイディアは、ふたりを車に乗せた。
ニーは、生まれは黄階であったので、久々のその風景に、すっかりうれしくなってしまった。しばらく、車の中で、外の風景を眺めながら、まだ幼い頃の自分のことを思い出していた。
この世界では、まだニーの両親も健在である。しかし、ニーはたぶん、死んでしまったと思っているので、ニーは戻ることもができない。どれほど、両親に会いたいと思っていてもだ。
「ねえ、ライはどこの階層からきたの」 ニーはライに聞いた。
「青階。ライは、ここ、もしかして」
「うん」
「お父さんとお母さん、生きてるの」
「たぶんね」
ライは、それっきり何も聞かなくなった。
そして、しばらくして、「早く、大きくなりたいね」と云った。
「どうして」
「そしたら、一人前の術士として、ぼくたちのお母さんの様子も見ていられるよ」
「ライは、家に帰りたい」
「うん。ずっと前はそう思っていたよ」
車は、修道院の前で停まった。
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やっぱり今の私のものではないので、上げるのを少し後悔していましたが、励みになりました。今後ともよろしくお願いいたします。




