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13 紅 の 衣  (白 界)

    


 女の白い服が、いつからそのような色に染まったのか、彼はよくわからない。白い大理石の床に広がる、赤い血のあと。手を下したのは自分だったはずだが、彼の服は少しも返り血に汚れていない。

「世界は、これでわたしたちのものよ」

 女は、妖艶な笑みを浮かべた。

「あなたは、世界の皇帝を名乗りなさい。この世界は、これまで三人の帝王と、三人の皇王のものであったけど、その世界を、たったひとりのあなたが手にするのだから」

 女が、血に染まった身体を、彼に近づけてきた。

「遺体は、すでにかたづいた。深い地下の黄階のはるかな下の、黒の宮殿に葬った。ここまで上がってくることはないでしょう」

 生臭い、鉄さびに似た香りが、彼に嘔吐を催させた。

 彼女の顔、姿、形。どれをとっても彼女と似ているが、だが、別物だ。

 彼を、このような衝動と野心に駆り立てたのは、いったい、何ゆえだったのだろう。そこのところが、いまひとつはっきりしない。

「世界は美しいでしょう。この三層世界の形は。重なりあって、唯一の世界になれるのに、かれらはそれを望まない。異なる階層の世界を、自らの世界と違うものとして、受け入れようとしないことが、悲しいわ。

 それにひきかえ、あなたはもう影をもたない。階層のひとつづつに、ひとりづついる貴方自身を、あなた自身が殺してしまった。死んだあなたは、あなたの中に入り、そしてあなたの心と溶けた。

 そんなあなたこそ、世界の皇帝にふさわしゅうございましょう」

 女の声が、遠くに聞こえる。

「この白が、汚れているのが気にいらぬなら、さっそく片付けさせましょう。そして、わたしは赤階に降り、赤帝の後継者として即位し、あなたを助けることに致しましょう。 さて、あなたはしばし、休まれるとよろしい。この階の上に、帝王たちの居室がありますから」

 彼は、女が背中を押すのを感じた。それでも、彼が動かないので、女は彼の背中から腕を回してきた。

「どちらにせよ、引き返すことも、後悔することも、許されないことをご存じなら、前にすすむしかないではございませぬか」

 女の囁きに、彼は背筋が寒くなった。

「さあ、行きましょうか、皇帝陛下」

 女は、彼の手をひいて、血の匂いのする部屋より彼を連れ出した。


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