王太子?どうなったのか知らん!愛と予知夢で公爵令嬢を救う公爵令息の逆転劇
オーフェリアは滅びの歌を歌う。
聖女として一生懸命働いた。
人々を癒し、病や傷を治して来た。
だが、最後には婚約者の王太子に、裏切られ、国王陛下の命で処刑されたのだ。
お前は偽物だ。市井の下賤な生まれのお前が本物の聖女であるはずがない。
本物は高貴な生まれの公爵令嬢ミルフィルネ・アレクトスが本物の聖女であると。
だから、今、滅びの歌を歌う。
斬られた首を両手で持ちながら、歌を歌っているのだ。
確かに自分は聖女ではなかったかもしれない。
ただ、魔力が強く癒しの力を人より少し使えただけなのだ。
聖女と言ったのは王族や貴族の人達ではなかったのか?
自分からは聖女と名乗った事はないのに、ただただ、人々を癒して病や怪我を治してきたというのに。
お前は偽物の癖に聖女と名乗った。
だから処刑するだなんて。
酷い。酷すぎる。
だから王国を滅ぼしてやるわ。
ミルフィルネは共に、聖女オーフェリアが、斬られた首を両手で掲げて、空に向かって呪詛を吐いているのを、見つめていた。
カルディス王太子は慌てたように、
「騎士団っ。あの女を殺せっ。化け物だ。早く殺してしまえ」
ミルフィルネは、そんな様子を眺めなら、にこやかに笑って。
「オーフェリアは聖女だったのかもしれませんね」
「何をっ?お前が自分が聖女だからって、あいつは偽物だって言ったんだ。だから私はっ」
「オホホホホ。わたくし、貴方の事を許してはおりませんわ。オーフェリア様が現れる前、貴方がわたくしに何をしたのか。デビュタントでわたくしを見初めたからって無理やり婚約を結んで、わたくしは嫌だって言ったのに。わたくしは王妃になんてなりたくはない。幼い頃からの婚約者だっておりましたのよ。それを貴方は無理やり引き裂いた。聖女オーフェリア様が現れて、わたくしは喜んだ。貴方と婚約解消になって、婚約者と今度こそ結婚出来ると。貴方は聖女様と結婚すると、王族は皆、聖女様と結婚するのが習わしだと。貴方はなんてわたくしに言いました?わたくしを側妃にすると。おっしゃいましたわね。わたくしは……ずっとあの方を愛しておりましたのに。あの方もわたくしと結婚出来ると喜んでおりましたのに。絶望したあの方は……ああ、あの方がいないこの世なんて未練はない。オーフェリア様は聖女様。そして聖女様を怒らせると国が滅びる。だから、この王国は滅びるの。貴方は聖女様を殺したのですもの」
ミルフィルネは頬に衝撃を感じた。
カルディス王太子に殴られたのだ。
カルディス王太子は、ミルフィルネを蹴り飛ばすと、青い顔をして、処刑場から逃げ出した。
皆、我先にと処刑場から逃げ出す。
押し合い、圧し合い、大騒ぎだ。
ミルフィルネは頬を抑えながら、地から起き上がると、呪詛を吐いているオーフェリアに向かって歩いて行った。
「さぁ、わたくしをまずは殺しなさい。貴方を陥れたのはわたくし。さぁ、殺しなさい」
オーフェリアは両手で捧げ持っていた自分の首を、身体にスっと着けて、
ミルフィルネを見て、にっこり笑った。
そして、その右手を突き出してミルフィルネの胸を突き破り、心の臓を握りつぶした。
アハハハハハ。アハハハハハハハハ。
聖女の力が暴発する。
逃げた人々も、王都の人々も、王国中の人々も全て飲み込んで暴れ回る。
周りには血だらけの死体が無数転がっている。
息をしているものはいない。
王国は一人の聖女により、滅ぼされた。
ベッドで目を覚ましたファルトはあまりの恐ろしい夢に震えが止まらなかった。
ファルト・ペリド公爵令息。柔らかい金の髪に幼い顔立ちの17歳の少年だ。
彼はベッドの上で汗だくになりながら、今見た悪夢を思い出していた。
ミルフィルネが殺される?王国が滅びる?一人の聖女によって?
昨日、ミルフィルネと会ったばかりだ。
ミルフィルネは18歳。ファルトは17歳。
ファルトにとっては、とても優しい姉のような存在だった。
いつも包み込んでくれて。いつも悩みを聞いてくれて。
幼い頃に結ばれた婚約。
その時からいつもファルトの手を引っ張ってミルフィルネは歩いてくれた。
「早く結婚したいな。ミルフィルネ」
「そうね。そろそろわたくしも結婚したいわ。貴方は結婚可能な17歳になったのですもの」
「女性は16歳で結婚出来るのに、男性は17歳にならないと結婚出来ないだなんて。でも、もうすぐ結婚出来る。父上母上に頼んで結婚に向けて動き出そう」
「沢山の人を招待しないとならないわ。貴方とわたくしの結婚ですもの」
「ああ、楽しみだよ」
姉みたいなミルフィルネだけれども、ミルフィルネの事が大好きだ。
ちゃんと恋愛感情も持っている。
ミルフィルネを幸せにしたい。
だからそろそろ結婚をと思っていたそんな矢先に見た悪夢。
夢の中で、ミルフィルネをデビュタントで見初めたと言った。
今度の王宮の夜会で二人揃ってデビュタントをする予定だ。
女性のデビュタントは16歳だが、ファルトが17歳になるまで待ってくれたのだ。
二人揃って夜会にデビュタントして、ダンスを踊る予定だった。
デビュタントでカルディス王太子に見初められたと言った。
カルディス王太子と無理やり婚約を結ばされたと言った。
夢でミルフィルネがそう言っていた。
自分はどうなった?
あの夢の中、自分の姿が無かった。
自ら命を絶った?そんな感じの言い方をミルフィルネが‥‥‥
嫌だ嫌だ嫌だ。自ら命を絶って、その後、ミルフィルネが殺されるなんて。嫌だっ。
カルディス王太子にミルフィルネを盗られるのを阻止しなくてはならない。
必ず、ミルフィルネを守って見せる。
いつまででも、ミルフィルネに姉みたいに頼ってばかりいられない。
自分は男だ。ミリフィルネを守るんだ。
夢が未来を見せたのか解らないが、ファルトはミルフィルネを守る為に動くと決めた。
まず、自分の両親に頼み込む。
「ミルフィルネと結婚します。すぐに。籍だけでも入れさせて下さい」
ペリド公爵は珈琲を片手に、
「貴族の結婚式には準備が必要だ。王都の街の教会で行うのが習わしで。
あらかじめ招待状を貴族達に配り、それなりに体裁を整える必要がある。市井の者の結婚とは違うのだ。籍を先に入れろだと?籍は式が終わってから入れるのが常識だろう」
母であるペリド公爵夫人も、
「そうよ。ファルト。我儘を言うのではありません。一人息子だからって甘やかしたのかしら」
ファルトは二人に真剣に訴えた。
「デビュタントで、もし、ミルフィルネが他の男性に見初められたらどうするんです?私の妻であれば、誰もミルフィルネを奪う事は出来ない」
ペリド公爵はカップをテーブルに置き、
「誰が公爵家の婚約に口を出すと言うのだ?我が家に喧嘩を売るようなものだ」
「もし、王族が口を出してきたら?カルディス王太子殿下は、我儘だと聞いております。女性関係も派手だと、ミルフィルネは美しい。銀の髪に青い瞳。本当に美しいのです。彼女がもし、王太子殿下に望まれたら。父上は断ることは出来ますか?」
ペリド公爵は困ったように、
「断れないな。しかし、考えすぎだ」
「夢を見たのです。ミルフィルネを奪われる夢を。これは予知夢かもしれません」
ペリド公爵はフンと鼻で笑って、
「馬鹿馬鹿しい」
しかし夫人は違った。
「わたくしのお母様が予知夢を見る事で有名だったのですわ。年老いたらその予知夢も見なくなったと言ってはいましたが。領地の災害を予知した話をわたくし聞きました。その血をもし、ファルトが継いでいるとしたら。籍を先に入れても良いではありませんか。正式な式を慣習に従って行えばよいのです。ですから、籍を入れましょう。その事を先方のアレクトス公爵家と話し合って、そうしましょう」
「母上。有難うございます」
ファルトは母に礼を言った後、二人に、
「デビュタントまでに籍を入れたいのです。来週のデビュタントまでに。必ずそこで、カルディス王太子がミルフィルネを見初めます」
公爵夫人はファルトに、
「でしたら、デビュタントを遅らせなさい。籍を入れてから改めて夜会デビューをすればよいではありませんか。貴方の妻になった女性をさすがに王太子殿下といえども、奪う訳にはいかないでしょう」
「そうですね。ミルフィルネに言ってそうして貰います」
必死だった。ミルフィルネを奪われたくない。
だから、アレクトス公爵家にも出向いて、公爵夫妻に頼んだ。
「私はミルフィルネと早く結婚したいのです。籍だけでも先に入れさせていただけませんか?」
ミルフィルネがまず驚いて、
「そんなに急がなくてもよいではありませんか」
公爵夫妻も、
「式を行ってから籍を入れるのが一般的だ。式の準備もこれからだというのに」
「そうよ。式を行ってから」
予知夢の事を言っても信じて貰えないだろう。だから、頼むしかない。
ファルトがミルフィルネの手を両手で握り締めて、
「お願いだ。どうか籍だけでも入れさせて欲しい。来週のデビュタントも伸ばして欲しい。籍を入れてからデビュタントを。私がエスコートするから」
ミルフィルネは笑って、
「あら、エスコートするのは当然ではなくて?貴方がわたくしの婚約者なのですから」
「勿論。そうだ。首飾りもプレゼントするよ。私の使えるお金から。だからデビュタントを伸ばして欲しい。私と結婚して欲しい。デビュタントで君を他の人に盗られたらと思うと眠れないんだ。籍が入っていれば私も安心できる」
「まぁ。そこまで心配して下さるだなんて。貴方がそう言うなら。仕方ありませんわね」
アレクトス公爵夫妻も、
「そちらへ嫁ぐ娘だ」
「でも、ねぇ。籍を先に入れろだなんて」
「どうかお願いします。籍を先にっ」
ファルトは頭を下げた。
ファルトの熱意に、ミルフィルネもアレクトス夫妻も折れてくれた。
翌日、書類を早急に揃えて王都の役所に二人揃って出しに行くことになった。
馬車でミルフィルネを迎えに来て、共に馬車に乗り、役所へ向かう。
書類が受理されればミルフィルネはファルトの妻だ。
カルディス王太子に盗られる心配はなくなる。
途中でがたっと馬車が傾いて、ファルトは焦った。
窓を開けて御者に確認する。
「どうした?」
「馬車が故障をしたようです。しばしお待ちを」
外は暑い。このままミルフィルネを馬車で待たせるわけにはいかない。近くに店がある。
冷たい飲み物も売っているようだ。
ファルトは仕方なくミルフィルネに、
「馬車が故障してしまった。修理が終わるまであそこの出店で飲み物を飲んで待つとしよう」
「そうですわね。喉が渇きましたわ」
二人で出店に行き、冷たい果物の飲み物を頼んで外に設置してある椅子に座って飲む。
ミルフィルネは笑って、
「まるで庶民のよう。こんな所で飲み物を飲むなんて初めての体験ですわ」
ファルトも飲み物を飲みながら、
「そうだね。私も初めての体験だ」
その時、背後から声をかけられた。
「暑いな。なんだ?君達もここで涼んでいるのか?」
振り返ったらカルディス王太子が護衛2人と共に立っていた。
そう、何でこんな所にカルディス王太子がいるんだ?
王太子だぞ?ここは通りの出店だ。
金の髪に青い瞳の美男の王太子は微笑んで、
「馬車が壊れて、ここで休ませてもらっている所だ。そなた達は?」
ファルトは仕方なく名乗る。
「ファルト・ペリド。ペリド公爵家の息子です」
「ミルフィルネ・アレクトスですわ。アレクトス公爵家の娘です」
カルディス王太子はミルフィルネに近寄って、
「なんて美しい。たまらない美しさだ」
ファルトは慌てて、ミルフィルネの傍に行き、
「私達は夫婦です。夫婦」
「夫婦なのか?年若く見えるが」
「先ほど、夫婦になりました」
嘘である。これから役所に行くのだ。でも、ここで嘘を通さないと、夢のように無理やり婚約を解消されてカルディス王太子に盗られる。そんな気がした。
カルディス王太子は顔を歪めて、
「なんだ。人妻か。未婚の令嬢だったら私が婚約を申し込んでいるところだ。失礼する」
背を向けて店の奥へ行ってしまった。
ファルトは安堵した。
ミルフィルネは、
「助かったわ。何だかとても嫌な感じの‥‥‥王太子殿下に舐めるように見られたわ」
「馬車が直ったら急いで役所に届けを出そう。そうしたら正式に夫婦だ」
「そうね。そうしましょう」
馬車が直ったので、役所へ向かい、窓口に書類を提出した。
無事、受理されて二人は夫婦と認められた。
ファルトは安堵する。これでミルフィルネをカルディス王太子に盗られることはないのだ。
「ミルフィルネ。愛しているよ。これからも傍にいて欲しい」
ミルフィルネに手を両手で握られて、
「勿論ですわ。これからずっと一緒にいましょう」
籍を入れたからには、盛大に王都の教会で結婚式を挙げなくてはならない。準備に奔走しながらファルトは、聖女オーフェリアについて使用人に調べさせた。彼女は実在するのか?そうしたら、市井の広場で怪我や病を治してくれる人々の中に力が少し強い少女の名がオーフェリアだという事が解った。歳は15歳。魔力が強ければ癒しの力を持つものがいることは珍しくない。ただ、万能という訳ではなく、ちょっとした怪我や病の症状をよくする程度だ。
そんな人々の中にオーフェリアという少女がいて。少し癒しの力が強いらしい。
王族に見つかる前にオーフェリアを保護しなくては。
ファルトは広場に馬車で出向いて、癒しの力で人々を治している人達の中でオーフェリアを探す。茶の髪に白い肌のオーフェリア。しっかりと顔は覚えている。自らの首を持ちながら滅びの歌を歌っていた少女。
いた。
一人の老婆の手を取って、光を与えている彼女は、滅びの歌を歌っていた彼女と違って、とても優しい顔をしていた。
オーフェリアに近づいてファルトは、
「オーフェリアだな?」
「え?確かに私はオーフェリアですけど」
「その力、我が公爵家の為に使って欲しい。私はファルト・ペリド。ペリド公爵家の息子だ」
オーフェリアは立ち上がって、
「私は他の人よりちょっとだけ力が強いだけです。それに大勢の人たちにこの力を使いたい。お貴族様だけの為に使いたくない」
「きちっと金銭は払う。だから一緒に」
「嫌です。贅沢をしたい訳ではありません。人々を助けたいのです」
「君は読み書きができるか?」
「読み書きですか?私は文字が読めません。だって学校に行っていないので。でも少しは勉強を教わりました。教会の神父様から。孤児なので。今も教会からこうして派遣されて人々を癒しています」
「公爵家に来れば勉強を教えよう。君が広場に来て人々を癒したいというのならそれを止めはしない。我が家の養女になって欲しい。私の妹になって欲しい。その癒しの力が必要だ」
ペリド公爵家の保護。
彼女はきっと本物の聖女だ。
王国を滅ぼす程の、残虐性を持った聖女だ。
でも、人々の苦しみを放っておけない優しい聖女だ。
彼女を保護して、王族から守らなくては。
オーフェリアは頷いて、
「解りました。私は勉強をしたい。文字を読めるようになりたい。勉強を教えてくれるというのなら」
オーフェリアをペリド公爵家の養女として引き取った。
ただ、自分にはミルフィルネがいる。あまりオーフェリアにべたべたと構う訳にはいかない。
ミルフィルネに勘違いされたら困るのだ。
ファルトには母方の従兄に神殿に行って聖騎士になったロディス・ギラン伯爵令息という知り合いがいた。
神殿に出向き、ロディスに面会する。
ロディスはファルトより3歳年上の20歳だ。
金の髪に青い瞳のロディスはファルトが訪ねて来てくれたことを喜んで、
「わざわざ神殿まで来てくれるなんて、嬉しいね。なんだ?何か用があるのか?」
「実はちょっと相談があるんだ」
夢の話をした。偽聖女として処刑されたオーフェリアという聖女が滅びの歌を歌いながら王国を滅ぼす夢。
ミルフィルネが殺される夢。
そして今、自分の家にオーフェリアがいる事を。
ロディスは考え込みながら、
「おばあ様が予知夢を見る人で有名だったな。だったらお前にも予知夢を見る力があってもおかしくない。残念ながら私は予知夢を見る力はないが。で?私に何を頼みたい?」
「私は結婚したんだ。ミルフィルネと。籍だけとりあえず急いでいれた」
「成程。カルディス王太子に盗られない為にだな」
「役所に行く道中でカルディス王太子に会った時には驚いたけどね。それで、オーフェリアの家庭教師をしてほしいんだ。彼女を正しく導いて欲しい。頼めるかな」
「ちょっと、私は聖騎士だぞ。神殿で仕事をしている。神殿に来る信者達に神官長の教えを広める仕事だ」
「だからお前に頼みたい。聖女様が間違った方向へ行ったら王国が滅びる。私はミルフィルネと結婚したんで、忙しいんだ。彼女に勘違いされたら困る。愛人か?ってね」
「仕方ない。しばらく家庭教師をしてやるよ。神殿長には訳を話せば許可が貰えるだろう。神殿で聖女様を匿いたいところだが、神殿は王家より力が弱いからな。王家が聖女様を差し出せといったら差し出さねばならない」
「今の所、聖女とバレていないから。だからオーフェリアをしっかりと導いてあげて欲しい」
「解ったよ」
ロディスがオーフェリアの家庭教師をしてくれることになった。
ミルフィルネとはまだ一緒に暮らしていない。
王都の教会で式を挙げてから正式に一緒に暮らす予定だ。
ミルフィルネとテラスでお茶をする。
ミルフィルネがファルトに聞いてきた。
「ペリド公爵家に養女を迎えたんですって?オーフェリアとか」
「ああ、迎えたよ」
「まさか、愛人ではないでしょうね。養女なんて……」
「愛人ではない。彼女は癒しの力が強いんだ。我が公爵家の為に役立って貰う。だから養女にした。私にとって妹になるのかな」
「ファルト。貴方、いつの間にかしっかりしたわね。もっと甘えん坊だったのに」
「そうかい?私はいつでも甘えん坊だよ。ミルフィルネが愛しいから」
「まぁ、本当に?嬉しいわ」
立ち上がって、ミルフィルネの傍に行き、その手の甲に口づけを落とす。
愛しのミルフィルネ。君の事を一生守るよ。
オーフェリアはどうしているだろう。
ロディスからの報告ではオーフェリアは学ぶことが楽しいようだ。
「もっともっと勉強したいわ。ロディス様」
「いや、もう夕方だ。また明日、教えてあげるから」
「有難うございます。本当に楽しい。字を覚えたら、本も読めるようになりました」
「それは良かった。こんなに君が勉強好きだとは思わなかったよ」
ロディスはファルトに向かって、茶を飲みながら。
「って、感じで凄い学ぶのが好きなんだ。教え甲斐があるよ」
「それは良かった。引き続き頼むよ」
オーフェリアはとてもいい子だ。
人を殺して国を滅ぼした聖女だと思えない位に。
だからあんな事件が起こるとは思わなかった。
数日後、カルディス王太子が訪ねてきた。
「あの時はお前達はまだ籍を入れていなかったと。あの後、役所に行って籍を入れたと調べはついている。籍を入れる前なら私がミルフィルネに婚約を申し込んでいたのだ」
客間に通した途端、そう言われた。
だから言ってやったのだ。
「それが王太子殿下のやることですか?籍をこれからいれようとする私から婚約者を奪おうとは。我がペリド公爵家は王家を支持するのはやめましょうか?神殿を支持しましょうか?王家と神殿は仲が悪い。あまりにも王族が横暴なら私にも考えがあります」
カルディス王太子は顔を歪めた。
「貴族の支持が無くなったら王家は困る。チっ。仕方ない。だが覚えておけよ」
カルディス王太子が背を向けて、去ろうとした。
そこへミルフィルネとオーフェリアが現れた。
カルディス王太子はミルフィルネに向かって、
「私の方が美しいだろう?ミルフィルネ。いつでも、私に乗り換えていいんだぞ。他の男の手がついた女だから愛妾くらいにはしてやる。美しいミルフィルネ。考えておくれ」
ミルフィルネが真っ青な顔をしている。
ファルトがミルフィルネを守らなくてはと、歩み寄ろうとしたら、オーフェリアが、
「何て事を言うのです。それが王太子殿下の言う事ですかっ」
怒って王太子殿下の手を握った。
「な、なにをするんだ?」
しゅううううううううっーーーー。
煙が昇る。
しゅううううううっーーー。
ゆらゆら揺れて、
カルディス王太子は溶けるように消えてしまった。
オーフェリアは慌てたように、
「怒りに任せて、王太子殿下の生命力を吸い取ってしまいましたっ。溶けて消えてしまったわ」
ロディスが後から追いかけて来て、カルディス王太子の服だけ残された床を見つめて、冷静に、
「消えてしまったのなら仕方ない。さてどうするかだな」
そう言うロディスは真っ黒な笑みを浮かべていた。
オーフェリアはミルフィルネに、
「無事でよかった。ミルフィルネ様っ」
「オーフェリア」
「あの男に何かされたらと思ったら。私っ」
いつの間にか二人は仲良くなっていたようだ。
しかし、殺してしまったカルディス王太子殿下‥‥‥
まぁロディスに任せておけば何とかなるだろう。
カルディス王太子は行方不明になった。
馬車でペリド公爵家に来たのだが、こっそりと一人でどこかへ行ってしまったようだ。
よくお忍びで女の家へとか、変な行動をする王太子だったので。
護衛も、
「だからお一人で行動するなといつも言っていたのです」
と呆れていた。
人々はいきなり行方不明になったカルディス王太子殿下に対し、
「変…辺境騎士団にさらわれたんではないの?」
「確かに屑の美男だったからねぇ」
よく王族や高位貴族の美男をさらう変…辺境騎士団のせいではないかと、噂しあった。
ファルトは三か月後、王都の教会でミルフィルネと豪華な結婚式を挙げた。
オーフェリアはロディスと愛しあうようになり、婚約した。
姉のようにミルフィルネを慕って、ミルフィルネもオーフェリアを可愛がって本当に姉妹のように仲良くなった。
オーフェリアがミルフィルネに、
「お義姉様。結婚おめでとうございます」
「有難う。オーフェリア」
「祝いの鳥を飛ばしますね」
オーフェリアが両手を広げると、沢山の鳥が、いや、あれはピヨピヨ精霊?
丸くて円らな瞳のピヨピヨ精霊達が一斉に、二人の結婚を祝うようにふわふわと空へ飛び立った。
大勢の貴族達が二人に祝いの花を投げる。
ファルトは愛しいミルフィルネを抱き締めて、
「幸せにするよ。ミルフィルネ」
「わたくしも貴方を幸せにするわ」
空は真っ青な青空。全てがすがすがしい一日だった。
変…辺境騎士団より
「おかしいな。我らはさらってはいないぞ」
「屑の美男だったらしいな」
「誰だ?我らのせいにしたのは???」
「次だ。次。次こそは屑の美男を」