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番犬

〈春曇り蝶の麗らを望む人 涙次〉



【ⅰ】


 鰐革男、對カンテラ一味、初回を滑つたのには(ほぞ)を嚙んだ。

 但し、すつかり(これはカンテラのお蔭なのだが)彼本來の卑劣さ- これは魔物である彼にとつては、褒め言葉なのだ、が帰つてきた事については、自恃の念を抱いてゐた。


 彼の身體から骨肉を分け取つた、ホンムンクルスたちに依る親衛隊、一様に鰐革と同じ顔をし、次なる惡事を待つてゐる。鰐革は、自分と同じ顔かたち(脊恰好も含む)のこの親衛隊の特性を活かし、何か出來ぬかとプランを練つてゐた。例へば特攻作戦。親衛隊たちを踏み台にし、カンテラの寢城に突入させ、自分はその中に入り混じる事に依つて、カンテラと一戦を交へる- この思ひつきは事の他、彼の氣に入つた。

 【魔】として健常な狀態の彼にしてみれば、親衛隊が幾ら滅びやうと、カンテラの息の根を止められゝばいゝのである。



【ⅱ】


 さて、そんな鰐革の目論見を他處(よそ)に、カンテラ一味には一味なりの動きがあつた。

 珍しく、安保さんの發案から、テオは仕事を始めた。ロボットの番犬をカンテラ事務所で「飼ふ」、と云ふ、新しい事務所護衛の手段を、導入しやうとしてゐたのである。

 ロボット犬(貝原會長直々に、ロボット開發の「實驗室」となつて慾しい、とカンテラに申し込みがあつたのだ)としてのボディの作製は、既に安保さんは濟ませてゐる。後は、カンテラの【魔】判別のノウハウを、テオがプログラミングして、ロボット犬に「吹き込む」ばかりである。


 これをプッシュしたのは、犬好きのじろさんの「思ひ」であつた。愛犬・ジョーヌの死の後、彼は特に犬を飼ふ事はなかつた。こゝにきて、久し振りに、例へロボットであつても、犬を抱いてみたい、と云ふ氣持ちが(はや)つた。


 一味としても、かの自爆テロで名を馳せた「セールスマン」、そして先日の「半【魔】的」な武里芳淳の匕首、が思ひ出され、本格的魔導士であるカンテラの結界でも、突破されてしまふ事も往々にしてある、その事を思ひ、事務所の入り口に【魔】検問の番犬、は有難かつた。



【ⅲ】


 その「ロボ番犬」の納品日がやつて來た。命名は、じろさんに任され、彼はロボ番犬に「タロウ」と名付けた。もう大分以前の話になるが、ジョーヌとの思ひ出を想起される、あの佐武ちやんの店にあつた、フォルクスワーゲン・ニュービートル・カブリオレの「お祓ひ行」に因んだ名前である。


 ロボ番犬は、一般的な黑柴犬をモデルとしてゐた。♂、である。「タロウ」の名が似合つた。


 その納品日早々、事件は起こつた。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈柴犬を連れて初老を樂しめば氣分西郷どんとはなりぬ 平手みき〉



【ⅳ】


「あのう、この事務所には、砂田御由希の係累の方がゐらつしやると聞いて、參つた者ですが」-大方の予想に叛して、この人物(年配の女性)は、鰐革の手の者ではない。

 ロボ番犬に依れば、「パス」だつたので、リヴィングに通した。訊けば、「をばさん」とは遠縁に当たると云ふこの人、「をばさん」のゐる施設に訪ねる用件があつたらしい。何やら、遺産相續に纏はる話がしたい、との事。「をばさん」が思ひがけず金錢的に潤ふ、と云ふ事になれば、テオは勿論、嬉しい。


 テオが詳しく施設への道のりを説明して、茶飲み話も早々にその人は立ち去つた。と、「わん! わん! ぐるう...」タロウが唸つてゐる。鰐革の「軍團」が、大挙攻め入つてきたのである。タロウだけでは、事務所入り口を守りきれない。


「よしよし、タロウいゝ子だ。あとはをぢさんたちに任せて」じろさんが見たところ、タロウは健氣にも、自分も戦ひに加わりたい、そんな様子。

 鰐革親衛隊、カンテラ、じろさん入り乱れてのチャンチャンバラバラが展開された。事態は乱戦の模様を呈してゐた。その中で、一際響く大聲が...「痛て痛て、何しやがる!!」一團の中で最も【魔】の臭ひが濃い、鰐革(作戦どおり、親衛隊のコスを纏ひ、紛れ込んでゐた)の脛に、タロウが嚙み付いてゐる-「貴様、そこにゐたのか!!」カンテラ、斬り掛かる。だが、何せこの人數である。雑魚どもは容赦なく、そんなカンテラに挑みかゝつてくる事を止めない。



【ⅴ】


 その間に、「畜生、覺えてやがれ!!」鰐革は姿を晦ました。すると、大將に欠ける親衛隊は、一挙に弱體化、まあ一應だがケリは付いた。


 じろさんは嬉しさうである。「タロウ、お手柄だぞ」-その武勇傳を後に訊かされた貝原會長、お礼の金一封をよこしてきた、と云ふ。タロウは骨のおもちやを買つて貰ひ、每日それで遊んでゐる。本物の犬以上の、働き- 安保さんの狙ひは、ずばり的中した譯である。



【ⅵ】


 殘るは「をばさん」の事。テオはメールで、「をばさん、この施設から出られさうだよ。これもテオちやんのお蔭だねえ」と傳へられ、ご滿悦である。施設は何くれとなく「をばさん」の面倒を見てくれたのだが、何しろ施設は施設。晴れて自由の身(?)の「をばさん」と、早く會ひたい、そればかり、テオは思つてゐた。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈風來の身でありながら次に咲く豫定地を見た綿毛が一人 平手みき〉



「性急に過ぎたか...」鰐革、策の練り直し。頑張れ(笑)魔界の盟主!! と云ふところで、今回を〆させて貰ふ。ぢやまた。

 

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