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レディ・チャンドラーは悪女であった  作者:
第二章 レディ・ショーン

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「ところで、宿題はやってきた?」


 さっさと馬車に乗り込んだアイリーンが手を出したので、セオドアはなにも考えずに手を重ねた。


「違うわよ! どうして私が公爵様をエスコートしなきゃいけないの! というか、いつも手を出してくるのはなに?」

「え? 『手を取れ』という意味ではないのか?」

「『金払え』って意味よ! 現金がなくても手付けとして、タイピンとかカフスボタンとか色々あるでしょ!」

「そ、そうだったのか。すまない」

「今日は『報告書を出しなさい』って意味よ」

「ああ。ショーン家とアダムス家の関係についての調査だったな」

「移動中に目を通そうと思ったけど、気が変わったわ。聞いてあげるから報告なさい」


 アイリーンに促されて、セオドアは頭に叩き込んだ情報を口にした。


 今回の依頼主はショーン子爵親子。

 先代の子爵家当主ならびに前アダムス侯爵は、親友同士だった。

 お互いに子供が産まれたら結婚させようという約束をしたが、どちらも女児に恵まれず、約束は孫の代に持ち越された。

 そうして結ばれたのが子爵家の一人娘であるエリザベスと、侯爵家の三男デイヴィッドの婚約だ。

 生まれた時から決まっている婚約だが、どうにも相性が悪い。

 このまま結婚しても不幸になるだけなので、祖父の死を機に婚約を解消したいというのが依頼の内容だ。


「……レディ・チャンドラー。あなた実は閣下をいいように使ってませんか?」


「失礼ね。調査を任せたことで、あなたたちはその頭に必要な情報を入れた状態で現場に臨めるのよ。調べた情報を元に今回の依頼をどうやって達成するか、まずは自分達で考えてみなさい」


「格下である子爵側から解消を申し出るのが難しい、という話だな」


「ショーン子爵家は爵位こそ低いものの、名馬の育成で知られている名の通った家です。侯爵としては引き取り手のない三男の受け入れ先としてちょうどいいんでしょう。ちょっとやそっとのことでは解消に応じないでしょう。となると相手の弱みを握って破棄でしょうか?」


 ショーン子爵は王都にほど近い場所に領地を持ち、自然災害も少なく安定した領地経営を行っている。

 対するアダムス侯爵家は爵位こそ高いものの、あまり順風満帆とは言えない。


「もしくは俺の時のように、一芝居うって相手から解消させる……とか?」

「アダムス侯爵に弱みはあった? 誰に対してどんなお芝居を?」

「……これといったものはありませんでした」


 侯爵は高圧的な人物なのであまり評判はよろしくないが、堅実な性格らしくスキャンダルや犯罪とは無縁だった。


「……ええと。息子に裁量権はなさそうだから、侯爵に?」


 ジャスティンに続いて、セオドアも自信なさげに答えた。


「なるほど。じゃあ公爵様が考えるシナリオはどんなものなのかしら?」

「それは……相手のことを詳しく知らないから、なんとも」

「調査したのに思いつかないのは調べが浅いからね」

「そうだな。面目ない」


 アイリーンの指摘はもっともだったので、セオドアはしゅんとした。


「謝る必要はないわ、だって初めてなんだもの。どこまで調べるかわからなくて当然。人を徹底的に調べようと思ったら、かなりの時間と手間がかかるものなのよ。表面的な事実だけさらって終了にするのが普通だけど、私たちの仕事はそれだけじゃ足りないの。次回は調査結果をもとに作戦を立てられるくらい調べなさい」


「わかった」


「公爵様って、立場のわりに根が素直なのよね。気が弱いのも、お人好しなのもその辺が起因な気がするわ」

「それは……どうにかしなければと思っているんだが」

「どれも特徴であって、欠点として言ったわけじゃないわよ。わたしは公爵様の性格を矯正するつもりはないわ。だって性格って、その人が生きてきた歴史そのものじゃない」

「だがギルスタン子爵令嬢の言いなりになっていた日々は、情けない……恥ずべき過去だ」


「耐えた日々があったからこそ、婚約解消後も公爵様の評判は落ちていないの。アンダーソン公爵の不興を買いたくないというのがあるにしても、裏ではそれなりに言われると思っていたのに全然なんだもの。驚いたわ」


「あの日々は無駄ではなかったのか……?」


「ええ。さあ話しているうちに、現場に着いたわね。どう相性が悪いのか、特等席で鑑賞させてもらいましょう」


 待ち合わせのカフェに到着した三人は、依頼人が予約した席に案内された。

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