落とし子
落とし子
二人の男が、他愛もない雑談に講じていた。内容としては「生物の名称」についてだ。
「タツノオトシゴというのは、一体誰が最初にそう、名前をつけたのだろうね」
「あの見た目から、竜を連想したのだから、物事を幻想的な視点で、とらえることのできる人だったのだろうな」
「だとすると、ファンタジー作家なんかかね。しかも『落とし子』なんて言葉までつけているのが面白い」
「『タツノコ』ではなく『タツノオトシゴ』か。なにかこう、ストーリー性を感じてきたな」
二人の男は軽く笑い合い、その後、かなり長い時間の沈黙が流れた。そして片方の男が、意を決したように、口を開いた。
「実は先日、妻から妊娠したと報告を受けてな。今日お前を呼び出したのは、その相談だったんだ」
「……相談?」
「妻の腹の中にいる子は、おれの子ではないはずなんだ。なんせ心当たりが一切ない」
「つまり……」
「つまりは別の男の子供。『ベツノオトシゴ』ってことだ。笑えないがな」
それを聞いたもう一人の男は、苦虫を嚙み潰したような顔で、こう切り出した。
「いや、その子は『ベツノオトシゴ』ではないよ」
「どういうことだ?」
「『ボクノオトシゴ』なものでね……」
おわり