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05 穏やかな日常

ーー公爵邸にきてから1週間が経った。


あれからシオンと会話することはなく、顔すら見ていない。

きっと私を避けているんだろう。

それでもここまで心穏やかに過ごせる日は久しぶりだ。


前世では学校とバイトの繰り返しの日々で休む暇なんてなかった。

それこそ1人で過ごすことなんて当たり前だったし、今更この世界で友達が欲しいとも思わない。


この世界に来て初めて得た家族は、理想とは程遠く、現実はあまりにも残酷なものだった。

結局自分にはこのくらいの不幸がお似合いなんだろうと思って諦めた。

それでもまだ生きたいと思ったのは、きっと心のどこかで諦めが足りなかったせいだと思う。

ついこの先の未来を望んでしまう。

結局この物語の中でも私は最後に1人になるかもしれないのに。


(よし!とりあえず、あの家に帰されないためにもそろそろ動かないとね......猶予は1年しかないんだし!)


アメリアは、エバンの元へ向かった。


「エバン、公爵様はどちらにいらっしゃるかしら?」


「お嬢様....如何されましたか?公爵様でしたら、訓練場にいらっしゃるかと.....」


(あ、そっか....シオンは騎士だもんね)


「ありがとう!訓練場まで案内してくれるかしら?」


「......かしこまりました」


(シオンはどんな女性が好みなんだろう。やっぱりイリスみたいな純粋な感じかな、それでいて人々に愛情をいっぱい与えられる太陽みたいな女性.....だよね。私とは正反対ね)


けれど、そんな女性を演じるしかない。

本当の自分なんて見せてはいけない。どすぐらい過去や感情は心の奥にしまい込んで、新しい自分になればいい。

これまで恋愛経験はないが、アメリアとしてあのサイコパスな家族の中で培った演技力がある。

殴られないために愛するふりをすることはできていたから、今度は愛されるために愛するふりをすればいいだけだ。


ただ、ちょっとだけ難易度が上がるだけ。


(って、まさかシオンまで私を殴ったりしないよね.....?)


きっと大丈夫だと言い聞かせているうちに、訓練場に着いたようだ。


「お嬢様、公爵様はこちらにいらっしゃいます。私はこちらで失礼いたします」


「ええ、案内ありがとうエバン」


エバンは訓練場の入り口までアメリアを案内すると、帰って行った。


近頃頻繁に魔物に悩まされているせいか、訓練場にいる騎士たちは荒々しく見える。


「美しいお嬢様、こんなところになんのご用でしょう?」


揚々とした声に驚いて振り返ると、綺麗な顔立ちの騎士が笑顔で立っていた。

美しい銀髪に黒い瞳がなんとも言えない魅力を放っている。


(こりゃモテるな....)


「あ、あの....公爵様に会いに.....」


「あ!もしかして、アメリア・ファルクナー嬢ではありませんか?あ.....今は公爵夫人でしたね!」


「ええ、アメリア・ファルクナーと申します。どうぞよろしくお願いします」


「こんなにお美しい方だとは.....いえ、とんだ失礼をいたしました!私は、公爵家の騎士リオ・バルフォードと申します。以後お見知り置きを」


「ええ、バルフォード卿ですね」


「あ、シオンに会いに来たんでしたよね!少々お待ちください!」


リオは元気よくシオンの元に走って行った。


(明るい人ね、シオンとは正反対だけれど仲がいいのよね)


しばらくして、シオンがやってきた。


「こんなところまで、なんのご用でしょうか?」


「えっと....その、あれ以来お会いできていなかったので、お食事でもと思いまして.....突然ごめんなさい」


「残念ながら、訓練中ですので。では」


「ちょっと待ってください!」


アメリアはその場から逃げようとするシオンの腕を咄嗟に掴んでいた。


シオンが冷たい表情でアメリアを見下ろしている。


「あ....ご、ごめんなさい!」


(だめ、ここで震えちゃダメ。こんなところで発作を起こしたら終わりよ.....)


必死に息を吸おうとしたが、すればするほど不安は予期に変わり、呼吸ができなくなった。


「ハァ.......ハァ......ハァ......ハァ......」


呼吸ができずに涙が出てきた。そしてその場に座り込んでしまった。


ーー目が覚めると、ベッドで横になっていた。


(え、まさか私あのまま気を失ったの....?)


「目が覚めましたか?」


アメリアが呆然としていると、隣で声がした。

振り向くとベッドの横でシオンがアメリアをじっと観察するように見ていた。


「あ、あの、私......ごめんなさい」


「何がですか?」


「ご迷惑をおかけしたので....」


「いえ、別に。それより、あなたは持病があるのですか?」


(まずい....今バレたら家に帰されちゃう)


「いえ、ありません.....。近頃寝不足だったので.....」


「.....そうですか。ではゆっくり休んでください。医師を呼びたければエバンに声をかけるように」


そういうとシオンは部屋から出ていった。


(突撃訪問は失敗だったなぁ。発作がどのタイミングで出るかわからないし、これからは気をつけないと.....)


アメリアは安心すると気絶するように、再び眠りについた。

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