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01 私はアメリア・ファルクナー

「おはよう、アメリア」


アメリアの兄であるヴィクトルが、眠っているアメリアの横で当然の如く寝そべっている。

兄の言葉を聞いた時、背筋が凍りつく感覚が襲ってきたが、なんんとか耐えた。


「おはよう、ヴィクトルお兄様」


愛らしい笑顔で挨拶を返したが、その心は恐怖と軽蔑でいっぱいだった。


(なんでいつもここで寝てるのよ、気持ち悪い)


「今日もお前は美しいな、アメリア」


「ヴィクトルお兄様こそ、いつもかっこいいわ」


一見仲睦まじい兄弟に見えるが、私たちは赤の他人だ。


(本当に胸糞悪い)


アメリアは心の底から思った。



***


突然の事故で苦しくて寂しかった人生もやっと終わり、死ぬ直前に、(神様が本当にいるのなら、どうか天国に連れて行ってください)そう祈ったはずなのに。


目が覚めた私は、なぜか死ぬ前に読んでいた小説の中の悪役令嬢アメリア・ファルクナーになっていた。

しかも、前世よりももっと悪い環境だった。


(確かに、前世では父親の愛が欲しいとも思っていたし、兄弟が欲しいとも思っていたけれど、私が望んだのはこんな家族じゃない!どうせ2度目の人生を与えてくれるなら、もっと配慮してよ・・・)


「どうした、アメリア?」


「なんでもないわ、お兄様。まだ寝ぼけてたみたい」


「そうか、早く目を覚まして朝食にしよう。父上が話があるそうだから」


「わかったわ。すぐに準備するわね!」


兄であるヴィクトル・ファルクナーが部屋から出ていくのを見守り、朝食へ向かう準備をした。



ーー前世では、生まれてすぐに父親の不倫が発覚し、両親が離婚。


母は祖父が事業で失敗して作った借金の保証人だったため、私は幼い頃から母子家庭の一人娘として、貧しい生活を余儀なくされた。


自分の家庭が普通じゃないと知ったのは、幼稚園を卒業する頃だった。母はいつも働き詰めで、いつも迎えにくる人はいなかった。鍵を開けて家に入ると、暗くて待っている人なんて誰もいなかった。


ずっと周りの子達が羨ましかった。家に帰ればおかえりと言ってくれる両親がいて、兄弟と仲睦まじく遊び、食べ物に困ることもない。


みんながみんなそうじゃないが、私の周りには運悪くそんな子ばかりだった。


母のことは大好きだったが、幼かった私は大切にされていない、愛されていないと思っていた。母は、私を育てるために頑張ってくれていたのに。


だけど貧しさから抜け出すことなんて全くなく、寂しさや孤独にも慣れてしまった。

そしてあっという間に時が流れ、大学に行くためにお金を貯めていた時だった。

どうしても大学に行きたくて、アルバイトをいくつも掛け持ちしていた。そして、早朝のアルバイト帰りに疲労でふらついたところに車が突っ込んできてあっさり死んでしまった。


あっけなくて情けない死に方だったが、保険に入っていたおかげで、私が死ねばお母さんはきっと借金を返すことができるという最後の希望のおかげで思い残すことはなかった。むしろ清々しかった。


この世界で目が覚めた時は、前の人生が夢だったのかもなんて思ったりもした。

みたこともない広いベッドに、煌びやかな装飾の部屋、まさに天国だった。あの家族に会うまでは。


私がアメリア・ファルクナーになったこと、ここが以前に読んだ小説”愛しい聖女様”の世界であることに気づくまでに、さほど時間はかからなかった。なんせあの執着系サイコパス兄貴がいるからだ。


小説の内容は、皇帝の弟であるシオンと聖女であるイリスとの愛の物語だ。

その小説の中でアメリアは、ファルクナー侯爵家の一人娘だった。


だが、アメリアは実際には孤児として引き取られた養女で、厳格な養父とアメリアに異常なまでに執着している義兄から虐待を受けており、養母はアメリアに全くもって無関心だった。


アメリアは、王位継承権第1位であるシオン・ランスロットと政略結婚するが、聖女イリスと出逢いシオンは聖女に惹かれてゆく。


ヴィクトルはアメリアを取り返すために、アメリアを孤立させシオンとイリスは愛し合っていくのだが、アメリアはシオンのことを愛してしまっていたため、イリスを毒殺してしまう。


そして、アメリアはシオンによって処刑されるのだった。


(本当にややこしい愛憎劇に巻き込まれることになると思うと頭がいたい)


「はぁ....」


アメリアがこの世界に転生してから半年が経ったが、物語の中で最も頭を抱える問題は、兄ヴィクトルのアメリアに対する執着だ。


「遅かったな、アメリア。早く座りなさい」


父クラウディオが冷たく言い放つ。


「はい、お父様」


アメリアはいつも通り、ヴィクトルの横に座った。


「アメリア、今日はお前に話がある。お前の婚約が決まったぞ」


「え...?」


アメリアはいきなりのことに驚いた。(あ、もうそんな時期か...)


「よかったな、アメリア」


ヴィクトルが冷ややかな目つきで微笑みかけてきた。きっと本心は別にある。


「お前には勿体無いくらい高貴なお方だ。顔立ちもかなりいいし、誠実な男だという話も聞く。お前もファルクナー家の娘としての責任を果たしてもらうぞ」


「わかりました、お父様。きっとお役に立ってみせますね!」


「ああ、お前ならそういうと思っていたよ」


(馬鹿馬鹿しい、断ろうものなら殴りまくるくせに)


早く朝食を済ませて戻りたい。アメリアはそれだけを考えていた。




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