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最悪な家族

おはよう、世界。

今日も今日とて、最悪な目覚めです。


金色の髪に青い瞳――鏡に映る美しい女性の姿には、この世界に来て2年経った今でも慣れない。

以前の私とはまったくの別人だ。


目の前にいるのは、兄ルーカス・ファルクナー。


――その笑顔を見るだけで、胸がぎゅっと締め付けられ、呼吸が浅くなる。


「おはよう、フィリア」


彼の声は低く、甘く、しかしどこか支配的で、心臓の奥に冷たい恐怖を落とす。


(また、ここにいる……どうして、いつも……)


私は手をぎゅっと握りしめ、震える指を無理やり落ち着かせた。


「おはよう、ルーカスお兄様」


愛らしい笑顔で挨拶を返したが、その心は嫌悪と軽蔑でいっぱいだった。


「今日もお前は美しいな、フィリア」


「寝起きなのにやめてよ、恥ずかしいわ……。ルーカスお兄様こそ、今日も素敵よ」


互いに顔を見合わせにこやかに微笑む。


一見仲睦まじい兄弟に見えるが、実のところ私たちは赤の他人だ。


(本当に胸糞悪い)


フィリアは心の底から思った。


突然の事故で苦しくて寂しかった人生もやっと終わり、死ぬ直前に《神様が本当にいるのなら、どうか今よりもいいところに連れて行ってください》確かにそう祈ったはずなのにーー。


目が覚めた私は、なぜか死ぬ直前に読んでいた小説の中の悪役令嬢フィリア・ファルクナーになっていた。そして、この世界は前の人生よりも、もっと悪い環境だった。


(確かに、前の人生では父親の愛が欲しいとも思っていたし、兄弟が欲しいとも思っていたけれど……私が望んだのはこんな家族じゃない……)


「どうした、フィリア?」


「なんでもないわ、お兄様。まだ寝ぼけてたみたい」


「そうか、早く目を覚まして朝食にしよう。父上がお前に話があるそうだから」


「わかったわ。すぐに準備するわね」


ルーカスが部屋から出ていくのを見送り、朝食へ向かう準備をした。


***


前の人生で、私は日本のとある田舎町で”沖田瑠衣”として生きていた。


生まれてすぐに父親の不倫が発覚し、両親が離婚。


母はどうしても父のことが許せず、もう関わりたくないからと養育費を断ったそうだ。

そのせいで、私は幼い頃から母子家庭の一人娘として、貧しい生活を余儀なくされた。


自分の家庭が普通じゃないと知ったのは、幼稚園に通い出した頃だった。


私はまだ幼かったが、いつも迎えにきてくれる人はいなかった。

そのため、特別待遇で先生方が家の前まで手を繋いで送ってくれていたのだ。


母は昼夜問わず働きに出ていたため、鍵を開けて家に入るといつも部屋は暗く、そしていつも私は一人だった。


本当は、ずっと周りの子達が羨ましかった。

家に帰ればおかえりと言ってくれる両親がいて、兄弟と仲睦まじく遊び、食べ物に困ることもない。


みんながみんなそうではないということはわかっている。

けれど、運悪く私が仲良くなる子たちは、みんな恵まれた子ばかりだった。


母のことは大好きだったが、幼かった私は大切にされていない、愛されていないと思っていた。

そして何より、いくら父が許せなかったとしても、養育費だけはもらうべきだったのにと思った。

だから私は母を好きな気持ちと同じくらい、母を恨んでもいた。

母がいくら働いても貧しさから抜け出すことはなく、寂しさだけが募り、いつしかそれにもなれてしまった。


そしてあっという間に時が流れ、高校生になりアルバイトを始めた。

どうしても大学に行きたくて、アルバイトをいくつも掛け持ちしていた。


そして、早朝のアルバイト帰りに、疲労でふらついたところに車が突っ込んできて……あっさり死んでしまった。きっと大学に行きたいだなんて、欲を出したせいだ。


あっけなくて情けない死に方だったが、母の生活はこれで少しは楽になるだろうと思い、むしろ清々しかった。


この世界で目が覚めた時は、前の人生の方が夢だったのかも……なんて思ったりもした。

真夏の夜の夢……まさにそんなものだったのではないか、と。


みたこともない広いベッドに、煌びやかな装飾の部屋、まさに天国だった。

新しい自分の家族に会うまではーー。

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