表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/53

1.秘密④

ジュリエットの告白。この日から二人は同じベッドで寝ることにした。

 その後、私が身体を拭いてもらって、着替えを済ませる時間を挟んで、私たちは再び二人きりになりました。

 二人でミモザを眺めた時とは違い、カーテンを全開にした窓から差し込む月光が、窓台に座る悪魔の横顔をきれいに照らしていました。彼はどれだけ窓台が好きなんでしょうか。もう、私よりも窓台が好きなのかもしれません。

 私はこの男の子をあらためて眺めました。月光を反射して瞬くように光る銀髪。少し怖い黄色の左目はこちらからは見えず、優しいけれど少し悲しそうな青色の瞳だけが見えます。その時の私には、短い人生の間に眺めたどの絵よりも、彼が美しく見えました。

「どうしてあなたは私のことを好きなの?」

「おまえが私を呼んだからだ」

「それだけ?」

「ああ」

「私、あなたがしてくれたお願い、受け入れることにしたわ」

「そうか、ありがとう」

「でも、条件があるの……私、世界と疎遠になった後、孤独に残りの時間を過ごすのは、いやなの……だから……一人ぼっちになった私のそばに、あなただけは最後までいてくれないかしら……私、誰のことを考えるのをやめても、あなたのことだけはずっと思い続けることにするから」

 私は、彼にきちんと言わなければなりません。

「……カイム……好きよ……」

 私は天井に顔を向け、目をつぶって続けました。

「……もしも、あなたが私が提案した条件を呑んでくれるのであれば、私のベッドに入って来てくれる……これからは一緒に寝ましょう……」

 私は言うだけ言うと、右手の甲を閉じたまぶたの上にのせて、黙りました。心臓の音が耳の奥まで響いて、耳たぶと顔が熱くなっているのがわかりました。落ち着くまでに、三十分はかかりそうでした。彼が返事をしてくれるまで、このまま何時間だって待つつもりです。

 しかし、実際は二分も待たないうちに、布団をめくる感触があり、私の横に誰か来たのがわかりました。私が自分の指の隙間からのぞくと、悪魔が瞬きもせずに天井を見ていました。私が思わず「ええ?」と声を上げると、彼も「ええ?」と驚いて、少し身を起こしました。

「……ずいぶん早く来てくれたわね……」

 私は、彼の普段の私に対する遠慮した態度から察して、来てくれるにしても、もう少しは逡巡するだろうと予想していたのです。

「……ああ、もたもたしているうちにおまえの気が変わったから、この先三千年くらい後悔しそうだからな……」

 彼は私を見つめてそうつぶやいた後、ようやく二回瞬きしました。どうやら私の言葉を聞いた後、すぐにスーツの上着と、靴と靴下を脱いで、そのままベッドに上がったようでした。

「だが……正直……私は、自分が今どこで何をしているのか、いまいち信じられない……」

 そして急に顔を赤くして目を逸らし、再び仰向けになり天井を向きました。

「……ジャケットを脱いだだけじゃ、寝づらくない?……」

 彼は跳ね起きました。

「……確かに、このままベッドに入るのは不潔だったか……地獄に寝間着を取りに行ってくる」

「べつにいいわよ」

 私は出ていこうとした手首をつかみました。

「私の手を握るだけで、あんなに緊張してたのに、あなた…この状況には、けっこう落ち着いてる?」

 途端に悪魔は、自分をつかむ私の手に抵抗を始めました。そして今度はとても動揺した声で叫びました。

「落ち着いているんじゃない……おまえの告白に舞い上がりすぎて、理解が追いついていないだけだ……」

 そのまま数秒間、二人とも言葉を発せずに手の引っ張り合いをしました。私は自分がいつの間にか優位に立っていることに気づきました。

「あなた……触られるのに弱いのね」

 私は、飛び起きて手を伸ばして、彼に抱きついてやりました。

 その瞬間彼は、頭からツノを出して硬直し、皮膚まで硬くなってしまいました。

 私は心配になり、彼のほっぺたを人差し指でつつきました。すると、彼は突然、我に返って暴れ出し、私の腕から逃れようとしました。私は楽しくなって来たので、一層強く抱きしめてやりました。

「ま、待ってくれ。ほっぺたはまだ早い」

「ほっぺたがだめなの?」

 私は少し手を緩めました。

「……いや、もう一回触ってほしい……」

「どっちなの……」

「……これはお願いなんだが……おまえさえ良ければ……私の方から、おまえに腕を回すっていうのじゃダメか? 抱きつかれるのは嬉しいんだが、嬉しすぎて逆にわけがわからなくなってまうんだ」

 私がうなずくと、どちらからともなく、二人とも布団に潜りました。そして彼はゆっくり私の頭と背中に腕を回して、自分の胸に恐る恐る引き寄せました。私は彼の身体に頭を押し付け、ようやく私たちは落ち着きました。

「ねえ、なんで私があなたのことを好きになったと思う?」

 私は悪魔の緩んだネクタイの上から、みぞおち辺りに頭をくっつけたまま、くぐもった声で聞きました。

「なんでだ?」

 胸から返事が聞こえました。

「あなたが、私のことを好きだからよ」

「それだけか?」

「そう」

「じゃあ、お互い様だな」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ