宇宙蟻地獄 大国
相変わらず地盤沈下は続いていた。対策協議会での成果も全く効果がなく、なすすべがない状態が続いていた。首相は苛立ちを隠そうとはせず、閣僚会議の中で各担当大臣が持ち寄った内容を痛烈に批判していた。特に地盤沈下対策協議会での結果に対しては担当のサカキ大臣には大臣が項垂れ震えるほどで有った。もともと不治の病もなくなり飢えや諍いも無くなった世界において未来をどう開拓するのかが最大の関心事の時代に目の前で起きている原因不明の事故に対応できる大臣など首相をはじめ誰もいないのである。できるとすれば多義にわたる知識と行動力を持ったいわゆるこの時代でのアウトロー的なものたちだけなのだ。
山野をトップとして行われた地盤沈下対策は何の効果も挙げることができずに対策は停止した。また、地下推進掘削中に出てきた高硬度物質への対策も一切の効果を出す事ができなかった。そんな時事件が起こった。新たな隕石が今度は都市に集中して落下してきた。今の政府には対応する事ができない事だった。
この隕石落下より以前より頻繁に陥没事件が起きるようになった。人々はいつ自分が陥没事故に巻き込まれるのか不安にかられ部屋の中でおとなしくするようになっていた。
ゴングウジは朝教授の家に来た時以来毎日教授の家にに顔を出すようになっていた。そして教授の手伝いをしていた。教授はと言うと、普段と変わりない生活を送っていた。
「ミコト教授。ご無沙汰です」
トリイがミコト教授に呼びかけた。
「本当に君は何処にでも出没するんだな。まるで・・」
「地盤沈下みたいだなんて言わないでくださいよ」
2人は思わず笑ってしまった。
「教授お言葉に甘えて来ました。お時間よろしいでしょうか」
教授はトリイを研究室に招き入れるると自ら鍵を閉めた。
「教授先日は話の途中で帰ってしまいすみませんでした。これ教授がお好きだと思って、コーヒー持ってきました」
「ありがとう。それじゃコーヒーでも飲みながら話しをしようじゃないか」
教授はトリイとは別のコーヒーをトリイと教授の2人分を入れトリイに手渡した。
「せっかくだけどいただいたコーヒーは、今のがなくなってからいただくよ」
トリイは笑みを浮かべながらコーヒーに口をつけた。
「ミコト教授先日お聞きした話の研究って進んでますか」
「ああ」
教授はわざと、感受のない返事をした。
「ところでトリイ君、先日の地盤沈下対策協議会ご苦労様!それと残念な結果になってしまったね」
「そうなんですよ。一体何がどうなってこのような事態が続いているのか協議会の皆様もお手上げなんです。ただお一人考古学の大国さんが大昔の伝説の話をされたんですけど、大臣も他の皆さんも聞く耳を全く持たずに会は閉会したんですよ」
「伝説とは」
「国王ガニメデ時代の地盤沈下現象についてでしたけど。大昔の逸話をこの現代に、しかも対策協議会の会議中に」
「トリイ君その考古学の大国さんは今何処に?」
ミコト教授は目つき鋭くトリイに言い寄った。
「あ。えーっと多分」
「トリイ君悪いが今すぐに大国さんのところに私を連れて行ったくれ」
「え、今からですかぁ」
「トリイ君急いでくれ!」
トリイにコーヒーを飲み干すよう促すと、すぐに通勤に使う自動車にトリイを乗せ大国のところへと急いだ。
「いったいミコト教授どうしたって言うんですか?そんなに急いで、それも大国さんのところだなんて!」
教授何も答えずナビセットした道を急いだ。
「ごめんください。大国さんいらっしゃいますか」
玄関の扉が開き突然の訪問者に少し驚いた様子で対応した。
「はい大国ですが。何か!どちら様で・・・あ、トリイさん?」
「はい先日はどうも」
「こちらは宇宙生物学のミコト教授です」
「ミコトです。あの突然伺って申し訳ないのですが、先日の地盤沈下対策協議会での大国さんの話をこのトリイ君から伺いまして、居ても立っても居られず来てしまいました。早速ですみませんがその話を詳しくお聞かせねがいませんか!」
ミコトの鬼気迫る迫力に大国もだがトリイも驚いていた。
「かっ構いませんよ、奥にどうぞ」
「早速ですが、その前にこれ私が世界を駆け回って探し出したコーヒーなんです良かったら一緒に飲みながらお聞かせ願いませんか」
これもまた2人を驚かせた。特にトリイは先程研究室で教授に渡したコーヒーのことがあったからだ。
「ありがとう、では早速コーヒー淹れさせてもらいますよ」
大国の話はミコトにとって大変有意義なものとなった。ただしトリイは全く興味が無いようで電話をかけるフリをして時たま部屋を出て行った。
「大国さん是非私の研究室へ来てください。その大国さんの考古学の知識が今必要なんです」
「わかりましたそう言う事でしたら是非に」
ミコトと大国は硬く握手をして別れた。