表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
六の空  作者: 橋尾 京果
3/88

003)第1章3【絶叫3】

体にまとわり付いてくる葉を遥花に見立てて、幹ごとなぎ倒していくのは、少しだけ爽快だった。


それでも少しずつしか進まない。


エジプトが初めてローマの一部となった紀元前一世紀頃、ローマ兵達は、巨大な芦の浮き芝をかき分けて、ナイル河を遡っていったと言う。


今の僕とどちらが大変だろう。

彼らには仲間がいた分、救いがあったと思う。


「一ヶ月ほど前に、この辺りの植物は刈り込んだはずなのに。すごい生命力ね」

遥花の声がさっきより離れた所から届いた。


僕が振り回す手斧に当たらないよう、距離を取っているようだ。

十メートルも進んでない内に、体力が切れかかっている僕とは対照的に、声には余裕が窺える。


「息が荒いわね。大丈夫?」

聞かれても、ゆっくりと振り向くのが精一杯で、僕は声も出せなかった。


情けないとでも言いたげに顎を上げる遥花にムッとしたが、自分でやってみろよという言葉を、ぐっと飲み込んだ。


もし僕が変わってくれと言ったとしても、いいのよ、どうせ私の仕事だからと、遥花は涼しい顔で交代するだろう。

僕より器用に、早く進んで行くのが目に浮かぶ。

そんな光景は、体力が無いのを馬鹿にされるより屈辱的だ。


忌々しい思いで、僕は手斧の刃先を指でこすった。

石でできている刃先は、イライラするほどに切れ味が悪かった。

手斧を扱った経験の無い僕にも、金属刃ならもっと切れ具合が良いというのは想像が付く。


僕の体力を削いでいるのは、刃だけの問題ではなかった。

枝をなぎ払うたびに飛び出してくる、蛙やトカゲのせいでもあった。


いくら都会育ちとは言っても、蛙やトカゲが怖い訳では無い。

恐れているのは蛇やムカデだ。

蛇やムカデが出てきたらと、過敏になっている僕の神経は、何かが飛んで来る度、ただただビックリするのだ。


深い溜息の後、作業を再開しようと一歩踏み出した時だった。

足元の地面は、一瞬のふにゃりとした感触を足裏に残して、僕と共に落ちていった。


落ちていく最中、二十四年に及ぶ僕の人生で、最大となる叫び声を上げた。


最も高いデシベル値を記録した声量だったが、その後すぐ誰かの亡骸に対面した時に、叫び声の振動値は更新されたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ