コテンパン。
コテンパンにいなされた後、元婚約者が気になったので、本人の元へ。
『手酷く裏切って彼女の努力を踏み躙った結果、今どんな気持ちですかね?』
《今は、申し訳無かったと、後悔している》
『こんな僻地に飛ばされたからですよね?』
愚かじゃないならココで黙る予定なんだけども。
《いや、悪いとは思って》
『悪いと思いながら婚約者の妹にぶち込んだんですか、すまないとか言いながら射精したんですか?』
《それは、彼女が》
『当たりかよキモい、じゃあ自分の子供が結婚前にヤって男に逃げられても愛が有ったから仕方無いで済ませるんですか?』
《いや》
『自分の子供が頑張って畑を耕してたけど他人に奪われる、でも愛が有れば許せって、黙って奪われろって教えるんですか』
《だから俺はココで》
『忠臣が寝返ったら反逆罪で死刑ですけど、生きてますよね?で、ココで何ですか?慣れない労働程度で苦しい?彼女の苦しみより辛いんですか、成程』
ココで黙るのは馬鹿なんだけども。
馬鹿だなぁ、早く忘れて欲しいな、こんな馬鹿。
「何をしてたか当てますね」
『君には悪いけれど早くあのバカを忘れて欲しい』
「なら抱けば良いんじゃないですかね」
『いや、今日は無理だ、自分で言っておいてキモい事実を知っちゃったし』
話し合ってコテンパンにしていたらしい、とは聞いてはいるんですが。
「教える気は無いんですかね」
『別に良いけど、多分、男がキモく感じると思うよ』
「言いっぱなしで向こうの言い分を聞いて無いので、聞かせて下さい」
復縁を考えているなら再度叩きのめさないと。
『すまないって言いながら射精したって』
「ぅわぁ」
『ほらー、だから言ったのに』
「変態と言うか、最早狂気ですよ?」
『ね、思わずキモいって言っちゃったよ』
「良く引き出せましたね」
『煽りで言ったら否定しなくて引いちゃった』
「あぁ、凄いですね、流石同性」
『私は絶対に無いからね?』
「アレが、絶対に浮気するから婚約しよう、と言ったとでも思いますか?」
『悪いけど、アレはバカだからそんな事も言えないだろうね』
「ありきたりな言葉は一通り聞いて、かつ裏切られてるんです。男性の全てが悪人だとは思いませんが、少なくとも私に好意を寄せる男性は悪人候補なんです。たった1回でも、殺されるのは1回で十分ですから」
愛や恋を告げるのは彼女にとって脅しに近い、彼女に凶器を振り回して見せる様なもの。
情に訴えかけられ、妥協に妥協を重ねたのに、裏切られた。
愛しているなら信じろ、好きだから疑うな、そう言っておいて裏切る男が実際に居た。
彼女にとっては愛の言葉は毒や凶器にしかならない、だから契約結婚をした。
なのに私が再び好きだの何だのと。
結局は同じ事をしている、そうとしか彼女には見えない。
『おはよう』
「おはようございます」
好きと言っても信じて貰えないのは当然、彼女の能力しか必要としない契約結婚に私は同意したんだから。
当然、当たり前の様に好意は信じて貰えない。
最初からこんなに魅力的だと知ってたら、あの契約書を。
『契約書をコレに切り替えて欲しい』
暫く忙しそうにしていると思ったら。
「拝見させて頂きます」
私が渡した契約書を元に作り直した契約結婚の書類、ですが。
『今思うと、ウチは情愛に生きろとの教えだからこそ、男爵位のままでも有ったのだと思う。そもそも血筋的に政略結婚は性に合わない、なのに私は甘く見てた、私の血筋を』
「だとしても、コレ、明らかにソチラに不利ですが」
『長男が家を継いで余ってる次男が勝手に契約結婚をすると息巻いてただけで、家族は理解してたらしい、どうせ一緒に住めば情が移ると。好きな事をさせてくれる好きな女が居るなら甘えなさいと、なので甘えてみました』
「甘えるの概念が少し、違うようですが」
『対等に、手間を掛けない様にと思い最初は合意しましたけど、別に金がそこまで欲しいワケじゃないので財産管理はお任せしたいんです。信用を得る為も有りますけど、楽は好きなので』
「どうせ確認しますから別に手間と言う程でも」
『酒は勿論女もそこまで好きでは無いですし、仕事が半ば道楽なのでそう金も要りませんし、見ての通り自堕落なのでそこまで成果を上げようとも思って無い。しかも一途です、初恋は侍女で兄が好きな人でしたけど他に貰われました。そうした部分では確かにムキにはなってると思います』
「あぁ、私を重ねてらっしゃる、と」
『家族に言われて思い出して、そう至ったので自覚は薄いですけど。まぁ、ですね、働き者でしたから』
「それにしても、もし子が出来たら離縁してアナタが実家に戻るのは」
『嫌ですよ、凄く、ですけどアナタが家を守る方法はコレかなと』
「相当、お顔に自信が有るんですね」
『無難なのは勿論、顔で決めたんですよね?』
何でバレてるのかしら。
見とれない様に気を付けてたのに。
「少し考えさせて下さい」
『そうなると口説く条項が問題になるんですけど』
「仕事の邪魔をしなければ。ぁあ、以前に出して頂いた案ですけど、改善点が出たのでご確認下さい」
『どれどれ』
「いや真横は邪魔です」
『顔が見える方が良いですかね?』
「あぁ、そうですね、邪魔ですし離れて下さい」
目が合うと赤くなる様になってくれて、そこでまぁ落ち着くかな、とは自分でも思ったのだけれど。
『ウチの妻は意外にも可愛くて』
《はいはいはい、惚気ですね分かります仕事の邪魔ですからお駄賃をくれないと聞きませんよ》
『そうかぁ、菓子は駄賃じゃないからやれないなぁ、残念だ』
《いえ駄賃に入ります、はい休憩ー!なんですか、またこんな大量の菓子だなんて》
『私が焼きました』
《殺す気ですか?》
『大昔に好きな侍女にくっついて菓子を作ってたんだよ、味は大丈夫、料理人の付き添いで作ったし味見もした』
《へー、ならしょっぱいのも欲しいですけどねぇ》
『そんな事もあろうかと、ほら、コレは買った。妻の好きな店らしい』
《早い、せめて俺が口に入れてから惚気て下さい、てかどんだけ惚気るつもりですか》
『菓子が尽きるまで』
《急いで食ったろ》
『あ、味わってくれよ、私も食べたけど美味いんだから』
《んんーん》
まぁー、本当に菓子が尽きるまで毎回、惚気る。
けどまぁ、徐々に内容が変わるもんだからつい聞いちまう。
『で、次は旅行に行こうと思うんだ』
《あー、やっぱり温泉地ですかねぇ》
『そこより、こう、もう少し手前の案は無いだろうか?』
《何で》
『だってほら、手を出しちゃいそうじゃないか』
《は》
『いや、折角だしね、じんわりとお付き合いして仲をゆっくり深めたいなと。何、そのニヤけ顔は』
《いやー、まだなんすねぇ》
『いや、そこは、内密に頼む』
《そこは追加料金が無いと》
『狡いねぇ君は、何に困ってそんなに金を要求するんだろか?』
《そら結婚する為ですよ、衣装代だって平民にしたらバカにならないんですよ》
『ならウチの、縁起が悪いのなら安く譲るよ、前に仕立ててたのをどうするか悩んでたんだ』
《あー、相当上等じゃないっすか》
『由来が由来だから他に使うにしてもだ、なら貸すか、処分するかで』
《相談してみます》
それこそ由来が由来なんで、どうかなと思ったんですけど。
まあ意外と女は気にしないって言うか、特にウチのが気にしないのか、着るとなって。
ただあんまりにも良い品物なんで、借りるだけに。
『うん、実は他にも有るんだ、貸衣装屋をしなよ?』
《急にアンタの商売に巻き込みますかね?》
『まぁまぁ、取り敢えずはお嫁様に相談してみて』
《はぁ》
アレですね、ウチのと裏で繋がってんのかって思う位に嫁が乗り気で。
とんとん拍子でまぁ、仕事を始める事に。
俺、単なる農家だったんだけどなぁ。
『うん、スッキリしたねぇ』
「幾ら前の男の手垢が付いてるだろうからって、ココまでしますか」
妹の服は勿論、私が贈られた服まで貸衣装屋へ。
困る、そう数が無いのに。
『清貧も結構だけど、時代は平民でも金持ちになれる時代、金持ちこそ少しは目立つべきじゃない?』
「共有財産は考えものですね」
『なら良い具合の割合を考えましょうね』
こうやって、どうしてか、私が駒として動かし易い様な譲歩案を引き出そうとする。
手の上で転がして下さい、と、どんなに弾いても手の中に舞い戻ろうとする。
あぁ、愛玩動物ってこう言う可愛さが有るんですかね、成程。
「良く懐く、馬」
『馬かぁ、なら遠出をしましょう。服を揃えて、遠出、なら新しく買う理由にもなるでしょう?』
「はぁ、まだ貸衣装屋の資金回収までには時間が」
『ケチ臭いと誰も金持ちになりたがりませんよ?』
「でも、程々に」
『なら街を回りに行きましょう、1軒だけで仕立てるんじゃなくて、庶民の服も見て回って仕立てる。そこで良い服を仕立てるなら良いでしょう、旅行用の服なんですから』
「その手練手管を仕事に活かしてくれない?」
『してますよ、コレはその余りです』
まだ、仕事馬鹿の方が良かったのかも。
けどそれで衝突したり揉めたりが面倒だと思ってたのだけれど、はぁ、何か思ってたのと違うわ。
「着やすい、家で着るのに良いわね」
『殆どお屋敷なのは安心ですけど、少しは見せびらかしたいなぁ』
「大変ね男って」
妹君の分かり易い可愛らしさは確かに無いけれど、可愛い。
可愛らしい色柄が好きな所が可愛い。
『はいはい、じゃあ生地はコッチね』
「それはちょっと、似合わないから」
『そう気を遣わなくて良いんですよ、私か使用人しか見ないんだし、好きなモノを着るのが1番ですよ。ねぇ?』
《そうですよ、そう遠慮したって誰も褒めてくれないんですから、好きなもんを好きに着たら宜しいんです》
『よし、じゃあ2枚仕立てましょう』
《ありがとうございます》
普段着や社交場用、そして旅行用を仕立てて。
『はい、じゃあ次ですね』
「ココ、下着屋よ?」
『夫婦ですよ?忙しくて仕立てて無かったのと、私の好みを把握してから仕立てるつもりだったんですよね?』
「ぁあ、そう、ね」
目が怖かったわ。
凄いわね、性欲が絡むと男性って怖いわ。
『じゃあ、全種類で』
「は?」
『可愛らしいのと色気が有るのと、そう一通りお願いしますね』
《畏まりました》
「あ、いや」
『近くの喫茶で待ってるから、じゃあね』
何故あんなにも鬼気迫る感じで。
《ふふふ、愛されてらっしゃいますね》
「ぁあ、はぁ」
《はい、では寸法をしっかり測りましょうね》
折角、良い気分だったのが。
《お兄様》
ぁあ、妹君。
アレかな、私達がウロウロしてるのがもう耳に届いたのか、偶々か。
『君の兄では無いけど、どうかしましたか』
《どうして迎えに来て下さらないんですか?》
何で誰かが迎えに来ると思ったんだろうか。
『何の事か、意味が全く分からないんだけど』
《姉に何か弱味を握られて、何を脅されてるんですか?》
『いや何も脅されて無いけど?』
《大丈夫です、お祖父様に言って何とかして貰いますから。お嫁さんなら私の方が良いですよ、姉は薄情で、捨てられたのに泣きもしないんです。きっとアナタの事も何とも思って無い筈、だから私と結婚し直しましょう?》
凄い、つい聞いちゃった。
人は辛いと夢物語に逃げるとは聞いてたけど、ココまで逃げれるって、ちゃんと仕事は。
あぁ、私が率先して報告を引き受けるべきだったんだろうか、コレは相当なのだし。
『まぁ、落ち着いて、席へどうぞ、お茶にしましょう』
《ありがとう》
凄い、多分、今ので恋人に昇格してそうだ。
『ちょっと待ってて下さいね、今から特別な注文をしてきますから』
《はい》