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EX.あたしの彼氏は文学青年5

 高校を卒業して大学のオリエンテーションの日。

 あたしは今までユートに進学先を内緒にしていたので、大学でユートに後ろから声をかけたときにユートがとても驚いたのを覚えている。


「びっくりしたぁ。佐藤さんも同じ大学だったんだね」


 驚いた後に優しくそう言うユート。「離れ離れになると思ってたから嬉しい」なんて言われたもんだから、あたしは周りに人がいることなんか忘れてふにゃふにゃに顔を崩してしまった。


 あたしは受験の頃から新しい彼氏を作らなくなっていた。何か明確な気持ちの変化があったとかじゃないけど、単純に受験勉強が忙しくてそれ以外に何かしてる暇がなかったっていうのもあるし、ユートとの時間を減らしたくないっていうのもあって、告白されても断るようになって。


 あたしが告白を断るようになってくると、自然と告白をしてくる人も減っていった。自分で言うのもなんだけど、あたしは彼氏と別れたらどこからかそのことを知った男子によく告白されてたから、始めはなんで減ってきたんだろうなんて思ったりもして。

 ちょっと考えればわかることだったんだけど、あたしの噂ってヤリマンビッチって感じだったから、たぶん告白すれば誰でも付き合えるし、そうじゃなくてもワンチャンあるって思われてただけで、あたしが告白を断るようになってそうじゃないよねってことがわかったから男子が寄ってこなくなっただけなんだって。


 結局、今まで罵声を浴びせてきた元カレも、告白してきた男子も、本当のあたしなんて誰も見てなくて、でもそれはあたしもそうだったから、似た者同士でつるんでただけだったんだなって思うとちょっと悲しくなったりして。


 そんなこんなであたしは受験から大学に入っても、彼氏を新しく作ることはなかった。


 でも、それまでの生き方が急に変えられるわけでもなくて、あたしは大学になっても交友関係は高校の時と同じようなメンツになっていた。

 梓も近くの専門学校に進学してたけど、あたしとは同じ学校じゃなかったからちょっと離れてしまって、高校からの知り合いなんてユートくらいしかいなかったけど、そのユートとも大学でまた違う立ち位置に立ってしまった。


 でも高校の時と違って人間関係が一からリセットされた状態だったから、初日のオリエンテーションからユートと親しくしてたおかげで、大学内でユートとおしゃべりしてても誰も何も言ってこなかったのはホントに嬉しかった。


 サラさんにこっそり教えてもらった情報をもとにユートの家の近くのアパートを借りてたから、大学になってもユートの部屋に週一で通ったりして。

 高校三年生でクラスが離れてしまっていた分を取り戻すように、あたしはユートと過ごす時間を加速度的に増やしていった。


 この頃になってくると、あたしの中に「ユートのことを好きにならないようにしなきゃ」なんて考えはもうほとんどなくなってた。

 いや、なくなってたっていうか、それ以上に降り積もった大きすぎる「好き」の気持ちで、小さく小さく踏みつぶされて感じ取れなくなってたっていうのが正解かな。


 そんな状態だったからユートのこともっと好きになってく気持ちも早くなってて、この時のあたしの頭の中身はだいぶお花畑みたいになってたと思う。


 受験の重圧から解放されて、新しく始まった好きな人とのキャンパスライフ。

 いつでも家にお邪魔できる立場で、同じ教育学部だからとってる科目も共通してるものが多くて、学校でもおしゃべりできて。

 あたしに告白してくる人もいないし、罵声を浴びせられることもない。

 サークルにだって入っちゃったりなんかして、あたしは大学生活をめちゃくちゃ楽しんでいた。


 そんなあたしを尻目に、ユートは高校の時と変わらずに、穏やかに、のんびりとした日々を送っていた。

 「家でゆっくりしたいから」って言ってサークルにも入らなかったし、大学でも休憩時間には本を読んでいる。


 切れ長の瞳で、真剣な眼差しで本を読んでいるけど、話しかけたら穏やかに笑ってくれる。知的な文学青年って感じで、教育学部に通ってるような人なんかは見た目がちゃらちゃらしてたりしても根が真面目な人が多いから、穏やかで優し気なユートは学内で結構人気があった。


 あたしと一緒に遊んでるような派手な見た目の女の子も、やっぱり根は真面目だったりして「鈴木君っていいよねー。美咲仲いいんでしょ? うらやましー!」なんて言ってきたりして。


 そんなことを言われると、どうしてもあたしはあたしの心の中に芽生える嫉妬心がどうにもできなくて、そんな日は連絡もなしにユートの家に行ったりしてた。

 ユートは大学の時間以外は大体家にいるから、行ったらいつものように受け入れてくれて。あたしはユートのそばで時間を過ごして、あたしの中の気持ちを静めていた。






「今日はみんな来てくれてありがとー! いっぱい飲んで楽しもう!」


 大学に入って二ヵ月くらいたった頃、入っていたサークルで飲み会があった。

 あたしは最初は行くつもりなんてなかったんだけど、先輩数人がどうしてもっていうから仕方なく参加したのだ。


「美咲ちゃん飲んでるー?」


 なんて言ってくる男の先輩。

 全然名前なんて覚えてないけどやけに馴れ馴れしくて、あたしの体が目当てなのはバレバレだった。


 別にヤリサーってわけじゃないけど、大学のサークルでいろんな人が所属してれば、一人や二人こんな人がいたっておかしくはない。おかしくはないんだけど、それを不愉快に思う気持ちを持つのだっておかしくないのだから、あたしはこの馴れ馴れしい先輩のことが好きじゃなかった。


 ユートと出会う前のあたしだったら、未成年だったとしてもたぶんノリノリでお酒飲んで、この先輩とよろしくやってたかもしれない。

 でも、今のあたしはお酒も飲もうなんて思わないし、よく知らない人に馴れ馴れしくされても嫌な気持ちになるだけだった。


 半年以上彼氏がいない生活が続いてて、その間に触れたことがある男子なんてユートだけで、そのことがホントに幸せに感じてて、今の生活がすごくしっくり来てて、ユート以外の人に触られるなんてこと全く想像できなくなってて。

 だから、どうしてもって言ってきた先輩には悪いけど途中で抜けてさっさと帰ろうって思って、その前にってトイレに行ったのだ。


「気分悪いんで早めに帰ります」


 って先輩に告げたら「グラスだけ空けて帰ってね~」なんてほろ酔いの状態で言われたから、まぁそれくらいならと自分の席に戻ってグラスの中身を一気に飲んで。


 あたしはそれまでお酒なんて飲んだことなかったら、自分がどれだけお酒に強いのかなんて全く知らなかった。

 だから、グラスの中身がお酒に入れ替わってるなんてことに気づかずに一気に飲み干して、あたしはすぐに酔っぱらってしまった。


「あれ~? なんかふらふらする~?」


 帰ろうと立ち上がろうとして、酔いが回ってフラッと姿勢を崩す。

 それでまた酔いが回って視界が揺れて「ちょっと立ち上がれないかも」なんて思ってたあたしのところに、あの馴れ馴れしい男の先輩が来て。


「美咲ちゃん辛そうじゃん。ちょっと肩貸してあげようか?」


 今から思えばこいつがあたしのグラスの中身入れ替えたんだろうなって思うんだけど、その時の酔いの回ったあたしの頭ではそんなこと全然考えつかなくて、素直に手を借りて立ち上がろうと先輩の手に触れた時に。


 全身に何か虫が這いずり回るようなぞわぞわとした不快感が巡って、それまでの酔いとか比較にならないくらいめちゃくちゃ気持ち悪くなって、男の人に触れてるって事実が自分でも信じられないくらい嫌悪感がやばくて、こみ上げる吐き気を少しだって我慢できなくて。


 ――あたしは男の先輩に触った瞬間に、吐しゃ物を撒き散らしていた。

※未成年飲酒はやめましょう。自分がするのもさせるのもダメです。飲まされそうになってもきっぱりと断る心の強さを持ちましょう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 精神的に異常な状態だったから、高校時代みたいな生活送れたわけで。 心身共にまともになると、全身でそれを拒絶するようになってしまったんですね。 心に後遺症が残ってしまうのも仕方ないですが……
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