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ポスト・オフィスに届く、彼らの冒険記  作者: モキュドレイク
読み聞かせ1 『歴史を求める者』
9/13

1-7 父は密かに

 ハガルは町長の家を通り過ぎ、暗い木々の間を歩いていく。森が開け、星明かりが差し込む場所に、小さな家が建っていた。家の奥には畜小屋が見える。ギーヤの生臭い匂いが香っていた。

  

 ふっと窓ぎわに目をやる。暖炉の火だろうか、影がゆらめいている。ぼうっと眺め、かつて暮らした家を思う。

 声の調子を整えてから戸をノックする。顔を合わせる前に、笑みを作りゆっくりはっきり、「夜に失礼します。私はハガルという者です。私の連れがこちらに向かい、はぐれまして。見ていないでしょうか。」と、要件を伝える。

 少しして、「ムウさんのお知合いですかね。」と言われる。息を整え、ほおをゆるめる。ムウの居場所の手がかり把握。

「そうです。ご存じですか。」

「ええ。少し顔を合わせました。よくしてもらいましたよ。……中へどうぞ。」と、家に招いてくれた。



 イスに座ってハガルは待つ。暖炉の温もりが心地よい。調理場には食後のギーヤ鍋が見えていた。

 持ってきてもらった温かい飲み物をいただく。男性の名がアキといい、例の少女、ハルの父親ということを聞いた。そして、ムウがハルと約束を交わした現状を知る。


「じゃあ、ムウはハルさんを連れて城に……!?」

「ちょうど警鐘が鳴り響いた頃、出発しましたね。」


(何をしているんだムウは!ハルの依頼は、町長の依頼と食い違う目的だ!……いや、ムウはあの場にいなかったけれども!……というか、城に行った!?子どもと一緒に!?)

 ハガルは衝撃の内容を飲み込み切れない。なぜムウは目を離すだけで、こう、悩みごとを増やしてしまうのか。

 

 まずはムウとハルの安否の確認を……そう考えていたハガル。すると、ムウの気配を遠くに感じとれた。無事かは分からないが、どうやら戻ってはこれたようだ。ひとまず胸をなでおろす。

 「ムウが戻ってきたようです。」と伝えると、アキは心配そうな顔をして戸口に向かっていく。ハルと思わしき気配もある。あとは、けがをしていないかどうか。

 戸を開けて外に出ると、汗で髪が乱れたムウと、しっかりと抱きかかえられたハルが戻ってきていた。家の明かりで、はっきり姿が見えたところで2人が無事ということが分かった。


 ハルは危険な場所に行ったことで大いに疲れたようだ。歴史文書が見あたらなかったと落ち込んでいたが、アキと話すうちに眠くなったようだ。そう間もなく、寝床ですうすうと眠りについた。

 ムウは家に着くまで張り詰めた状態を維持していた。疲労はあるが、まだ眠れそうになかった。ハガルはムウの尋常ではない様子から、城での様子を聞き始める。

 城の現在のつくり、サフメカ部隊の見張り場所、歴史文書があると思われた部屋の様変わり、そして玉座の間の男について。


「……いやー、あの男はやばかったねー。ハルがいたし、本気出してもどうなるか分かんなかったし、逃げ一択、だったよねー。ハガルあの人誰か知ってるー?」

「ん、んー、……そうだな。」

 ちらりとアキを見る、一応、町長の依頼を受けている身だ。町長と立場が違うアキにどこまで語ってよいか分からない。

 するとアキは察してくれたのか、「ギーヤ小屋の方にいます。夜の間にしておく仕事が、少し残っていましたから。」と外に出ていった。

 心の中で感謝し、ムウに続きを話し始める。


「おそらく、その男はユウという人物。『守り人』だと言われている。」

「えっ!『守り人』!?……絶対、戦ってたらダメじゃーん。危ないなあ。」

「無事に帰ってきてくれてよかったよ。」

「まあカンだよねー。目が合った瞬間に、やばい!と思ったからねー。襲ってくる感じではなかったけどー。」

「そうだったのか。そりゃあ運がよかったな。」

「うーん。やる気ない感じだったからねー。」

「最近は城から出てこないという情報はあったが、やる気の問題なのか……?」

「分かんない。けど、さ、戦うってなったら勝てないなって、私は思ったよ。」

「……何もしてこなかったんだろう?」

「そうだよー。『宿し』だっけ?守り人の特徴的な力。そういうの見てないんだけど、何て言えばいいかな、あれはやっつけられない、って感じ。」

 

 ムウが語る直感。これまで大きく外したことはない。もしも、「勝てない、やっつけられない」とすればどうすればよいのか。

 

 一旦、話はここまで。ムウと宿に戻らなければいけない。ブレンも入れて、3人で作戦を立てなくては。ムウに「宿へ戻ろう」と伝える。

「ハルのこと見てきていい?」とムウは言った。ハルが心配なのだろう。

 ムウの肩を軽く叩き、「俺があいさつをするまでにしろよ」と伝え、ゆったりとアキのところへ向かう。

「ありがと。」そう言うとムウは寝ているハルの顔を見にいった。


 ギーヤ小屋の中をのぞくと、アキの姿が見あたらなかった。ぱっと外を見まわすと、さらに奥に明かりが見えた。何か風を切る音も聞こえてくる。

 ハガルが向かうと、木剣をふっているアキの姿があった。時折そでで汗をぬぐいながら、縦、横と木剣をふっている。

 兵士見習いがまず基本として習う型の一つだった。足さばきや重心を見ると、一夜では身につかないものだ。相当に練習したことがうかがえる。

 アキはハガルに気付くと、傍の手ぬぐいを持って、汗をふきとる。ふきとって見えた顔はにこやか。だがほおをぽりぽりと書いて話す。

 

「見られましたか。かっこうつかないものでしょう。」ひそめて、探るような声。

「基本が身についた、かっこうついたものですよ。」ひそめて、はっきり評価する言葉。

「そうですか。実戦では使えますかね?」真剣な質問。

「相手によります。ただ、初めての場合なら…」


 ハガルはアキとの間をぐっとつめる。アキは驚き、木剣を受けの型に構える。

 それを見てハガルはふっと笑い、胸の前で手をひらひらさせながら、木剣の届かない位置で止まる。


「…初めての場合なら、斬りかかり、仕留めるのは難しい。だから、守りが大切だと思います。」

 ハガルは、斬りかかりに切り返し、倒してきた者たちのことを思い出しながら語った。

 力を抜いて、両腕と一体化したかと錯覚するように木剣をおろすアキ。

「そうなんですか。素人には構えだけで精一杯ですね。」

「その構えなら、初撃はしのげますよ。」お世辞なくハガルは言う。とっさに守りの型が出るのは大事なのだ。



 近場に腰を下ろしたアキは、ハガルが座るのを待たずにつぶやく。木々の隙間から星を見ながら、自分の耳によく聞こえるように。

「一端の畜家、町の諸派の頭。そんな男の守りたいものは、娘の心身の安全なのです。自分が娘に何かできなくては、悔いが残るのです。」

「……娘との時間を削り、守る力の研鑽にはげむ。おせっかいですが、それでよいのですか。」

「ハガルさん、おせっかいですね。未来まで長く娘といるために、必要なことですよ。」

「語ることも大切です。……私は、父に語ってほしかった。力をもっても、守る守れないもあるのです。」


 ハガルもアキと同じ星を見る。アキは星から目を下げる。

「本当に、ハガルさん、おせっかいですね。」

「……ムウほどじゃないけれど、頼ってくださいね。」今の立場でできる、精一杯の歩み寄り。

「難しい立場に自ら立つことは苦しいですよ。……ありがとうございます、ハガルさん。」


 アキと話しながら、家に戻る。木々が柔らかに2人を包み込んでいた。

 ムウは夜空を見ながら、家の前で座って待っていた。ハガルの姿を見ると、立ち上がる。

 「戻ろー。」とムウが言う。ハガルはアキに会釈をして、宿への道につく。

 アキは和やかに、2人を見送るのであった。



オフィス「父親か……」


ポスト「……私たちにも、いる、いるはずなのよね。」


オフィス「姿も見せない父親に興味はないよ。」


ポスト「珍しいオフィスね。かわいた、かわいた感想なのよ。」


オフィス「ポストと過ごせれば十分さ。」


ポスト「うるお、うるおいに満ちた言葉、言葉なのよ!暑い、暑いのよ!」


オフィス「また、急に風邪ひいたの?」


ポスト「寒くなった、なったのよ!私の体温を弄ばないでほしい、ほしいのよ!」


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