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ポスト・オフィスに届く、彼らの冒険記  作者: モキュドレイク
読み聞かせ1 『歴史を求める者』
8/13

1-6 商人コーカ

 クレーブの町は、ユニット幹部が退いていったことへの喜びにつつまれていた。

 少なくない被害が町には出ていたが、明け方から修理を行えば間に合う程度で済んだ。しかもドクターとサフメカの2人がそろって来た状況。それでも、ハガルとブレンの戦いにより、町への侵入は許さなかった。2人の冒険者に町の者は口々に感謝を述べ、食事を共にしていた。

 


 ハガルとブレンは「よくやってくれた。」、「噂通り、本当に強いんだねえ!」、「建物のことは気にするなよ!」だの言われる。だんだんとその声掛けも少なくなっていき、町人は嬉しい夜を共に過ごすことへ熱中していく。ハガルとブレンはその波の移りを感じながら、今後のことを話していた。



「サフメカを止めることはできそうだね。暫定的に、止めるなら君かムウが妥当だね。」

「ああ、ブレンじゃちょっと厳しいな。」

「力押しは苦手だよ。ドクターとか取り巻きを僕が相手取ってる間に、って感じだろうね。」

「サフメカは俺が戦うよ。ムウの単純な怪力とサフメカの力は互角だろう。それなら、術で差をつけられる俺が受けて立った方がいい。」

「つまり、君が無茶をするってことさ。また!……ムウの方がすっきりと力比べになるだろうに。」

「ムウでも俺でも、サフメカは無茶な相手さ。」

「だったらムウと相談しなよ。今すぐ君が戦うと決めなくてもいいさ。」

「……さっきの俺でこうだったんだぞ。」と、ハガルは動くようになってきた腕をブレンに見せる。

「ムウがどこまで力を出してしまうか予想できない。……あいつに、そんなことは、させられない。」

「……案を出したのは僕だけどさ、サフメカと戦うのは、やっぱり僕じゃだめかな。」

「現状だと、ブレンに任せるのは危険すぎる。君の命の問題だ。」

「…………」

「……アル大陸で見ることがまずない魔術。それを脅威となるまでサフメカは仕上げている。」

「だから、魔術をぶつけて対抗する方がまだ安全。……武器のみで戦う僕は厳しい。……理解はしているよ。」

「……もう少し作戦を考えよう。ムウも交えて。さっき町長も言っていたが、町の協力はさらに得られる。」



 戦いの後、宿屋の食事場で食事会となった。ほどなくして町長がやってきて、2人へ感謝を述べた。

「あなたたちに依頼をして、正解だったようです。過去の冒険者にはなかった成果なんですよ!」

 町長は少し興奮気味に話していた。

「そもそも、あの2人がそろって来たのは今回が初めて。最大規模の被害を覚悟しました。しかし!被害を少なく済ませた!すばらしい!」

 にやりと笑い、町長は2人へ握手した。この場の食事代をもつことを全員に伝え、最後にハガル達だけにささやいた。

(城の件もお任せできそうな強さです。遠慮はいりませんので、思い切りよくお願いします。クレーブの兵も、どんどんと活用してください。)



 そう伝えると、町長は去っていった。町長のおごりということもあって、食事場はどんどん活気づいていく。最初はいなかった人もどんどんと増え、じゃんじゃん注文が入っている。



「この食事場の代金、すごい額になってないかい?」

「ああ、絶対に払えないな。今の俺たちだったら。」

「……根本的な問題は解決できてませんけどね。うかれすぎているよ、まったく。」

「喜ばしい夜なんだよ。俺たちの頑張りで喜ぶ人がいるのはいいことじゃないか。」

 そう言ってハガルは立ち上がり、出入り口へ向かう。

「どこへ行くんだい?」

「ムウのところ。迎えに行かないとな。」

「具合は?」

「ムウを連れてこれるぐらいには元気。」

「わかった。この様子じゃあろくな情報がないかもしれないけど、僕はもう少しここにいるよ。何か少しでも現状を変える情報がほしいから。」

「遅くなるかもしれない。先に休んでいても、かまわないからな。」

「了解。」



 ハガルは食事場から出て、宿から出た。ひときわ明るい町長の家を目印に歩いていく。

(これで、ユウというユニットのリーダーが本当に守り人だったら……)

 かなりの無茶を強いられる。ブレンとムウ、そして自分をそれぞれに1人ずつ当てなくてはならない。本音を言えば、サフメカには2人がかりで相手取りたい。



(ドクターは魔術を感知できなかった。ということは、なにかしらの武器を使っているということだろうか。)

 サフメカは装置をつけ、なにやらドクターに文句を言っていた。素直に考えて、ああいった装置でドクターは自身を強化しているのだろう。

(そう結論づけても……サフメカ部隊を止めるために人手がほしい。)

 あの戦いの場が収まったのも、ドン王国の応援部隊が駆け付けたことと、サフメカの気分がそがれたことが大きい。

 城で暴れるという条件を達成するにしても、加勢があるだけで状況は大きく変わる。



(ドン王国には、頼めない。管理する城を壊すし、何よりあてがない。)

 クレーブの町の兵は、正直力不足だ。町長の申し出もあったが、あれでは町の防衛を任せても、サフメカ部隊による被害は防げない。部隊の頭を倒そうと動いているのだ。報復で町が狙われたら意味がない。

 困ったものだ。現状では無茶をするという選択肢のみ。頭を悩ませながら、まずはムウを迎えに行く。





 ブレンはハガルを見送った後、町人と話していた。しかし、戦いに関して得られた情報は、町の地理的な情報や城の内部の様子のみ。現状を打破するまではいかない情報。やはり町人からの情報は限界がある。


(このままじゃあ、彼らはもたない。)

 ブレンは焦っていた。無茶をさせるほど、2人の命は壊れていく。それがブレンにとって一番望まないことであった。

(……依頼を破棄するか、いや、さすがに守り人という細い糸がつながる依頼だ。でも、このままじゃあ……)

「はーい!ブレンさん!ご機嫌よくして、さあ!」

 突然肩を組んで酒を押し付けてくる人物。ブレンは驚いてその人物を見た。



 ブレンよりちょっと背の低い女性だ。商人がよく着ている服装をしており、ドン王国特有の編み込みが髪に見られた。何なら、ドン王国の国旗の色と同じ、オレンジと水色と白の三つ編みだ。

後ろにはその女性の付き添いだろうか、慌てて止めに入ろうとしている男がいた。



「君のうわさは聞いていたよ。そう言う私が着いたのはさっきなんだがね。まあ痛快な様子が伝わってきたからさあ。……ん、なんだバルチ。力を入れて私を引っ張って。」

「あなたが突然肩を組み始めるからです。距離のつめ方を考えてください。」

「だからって結構な力入れて引きはがそうとしないでほしいのだがね。まったく。」

「離れてください。」

「あー!分かった、はいはい!」



 問答無用で引きはがされた女性はブレンに向きなおり名乗る。

「私はコーカ。見ての通り、商人をやってるもんさ!そして、こっちのおせっかいやろうがバルチ。」

 背中越しに親指で指さされたバルチは、冒険者の剣士といった風貌。コーカの指を向ける行為にやれやれといった様子だったが、ブレンの方を向いて言う。

「バルチです。コーカ様の護衛を務めております。よろしくお願いいたします。」

「様、いらない。呼び捨てろ。いつも言っているだろう。」

「主従の関係です。できません。」

「商人と護衛だぞ?別にいいだろ。」

「できません。」

「かったいなあ!もう少しくだけて、そこにいればいいんだって!」

「できません。」

「あのなあ!主従の主が言ってんだから、問題ないだろう!」

「で、き、ま、せ、ん。」

 このやろう!と怒り出すコーカ。つんっと答えないバルチ。



(なんなんだこいつら。)

 からまれたブレンは心からそう思う。疲れもあるし、もうこの場を離れたい。



 そう思ったブレンは、こちらに構わなくなったコーカとバルチの前から去ろうと立ち上がる。その姿を見て、コーカはブレンの両肩に飛びつき、体重をかけて、ブレンをごとんと座らせる。

「痛あ!」「コーカ様!何をなさっているんですか!」

 ブレンのお尻が強打で痛み、コーカはまたもバルチに引きはがされる。後ろから羽交い絞め状態のコーカは、バルチを叩きつつ話す。

「離せ!取り引き相手に逃げられたら困るだろうが!」

「……取り引き?」

「ああ、そうだ!……話が、しにくい!」

 バルチの腹に肘が入った。膝から崩れうめくバルチ。すっきりした表情のコーカ。



「ふーーー!……ブレン!君たちは2人のチームか!?」

「…………いいや、3人だ。」

「そうかい!それなら私からの提案に支障はないな!はっきり言おう!協力者がほしくはないか!?」

「あんたら2人が協力してくれるってことか?」

 そうだとしても、現状を大きく変えることにはならない。バルチはともかく、コーカはどう見ても戦闘員ではない。クレーブ町長が食事代をもってくれるぐらいだから、お金もなんとかなっている。



「そうだが、少し違うな!ドン王国軍の協力がいらないか!?ということさ!」

「あんたらドン王国の関係者か?」

 コーカは片眉をひょいっと上げて、ブレンを見る。肝の据わった目をしていた。

「まあ、ドン王国はお得意様。そういったところかな!大事なのは、町を防衛するだけの一大戦力を私は動かせるってことさ!」

「一商人にそこまでできるとは思えない。ドン王国は国防があるんだ。クレーブにあの組織の襲撃をしのぎ切るだけの部隊はよこせない。」

「その通り!でも私ならば今夜以上の部隊は呼べるのさ!分断と時間稼ぎには大いに役立つと思うがね!」



 本当ならばありがたい申し出だ。人数差という埋めがたい部分を解決できるのは、確かに大きい。しかし、

「そっちのメリットは何だ?それが分からない。」

「ああ、町長の依頼を知りたいのさ。それが大事なことかなー。」



 その言葉にブレンはいじわるく笑う。

「あいにくだが、口外禁を言いわたされている。それは無理だ。」

「だよねえ!だから、君たちの行動で推測したいのさ!その幅を広げるために、提案しているってわけさ!」

「こちらもはっきり言わせてもらうが、ドン王国の軍隊が来たとして、クレーブの防衛に配備することが主になる。ドン王国軍を通じて、僕らの行動はそこまで伝わってこないぞ。」

「はっはあ!織り込み済みさ!君たちのジャマにはならないようにする!それだけで、なーーんと!こっちとしては、どうにでもなっちゃうんだよねえ!!」



(なんだこいつ。)

 またもそう思う。信用していいのか。



「……少し悩むだろう。話してから決めてくれて構わない。私たちは同じ宿にいる!明日までなら、取り引きに応じよう!その後はちょーっと難しい?だろうね!」



 そういうと、コーカはすたすたと食事場を後にする。バルチは思ったよりも深く肘が入ってしまったようだ。まだ痛みは引いていないようだが、ブレンに会釈しコーカの後を追いかける。



「明日までか……」

 現状の幅を広げる提案だった。だが、ドン王国へのリスクつきの取り引き。

(受ければ、ハガルとムウへの負担は大きく減る。)

 クレーブの町の兵よりはよっぽど手練れの兵だ。それならば、万が一にも備えがきく。だが、ドン王国への……、だが、ハガルとムウを……


 

 疲れてきた。考える頭がにぶく痛みだしていた。結論は出さなければいけない。だが、まだ、猶予はある。

 帰ってこないハガルとムウを気にしつつ、ブレンは寝るために、部屋へと戻っていくのだった。





オフィス「ポスト、真剣に質問するよ。」


ポスト「な、なに?どう、どうしたの?」


オフィス「いや、武器を使う者、例えば銃や槍使いは、魔術使いにはかなわないものなのかい?」


ポスト「……そうではない、ないのよ。魔術と戦うすべはたっくさんある、あるのよ。」


オフィス「へー。そうなんだね。」


ポスト「ただ、魔術を武器で触れたりすると危ないことが多い、多いのよ。火を槍で受け止めるのは危ない、危ないのよ。……それ以上か互角の力で振り払えるなら平気、平気なのよ。」


オフィス「ふーん。相性とかもありそうか。」


ポスト「……オフィスはそういうことは知ってると思ってた、思っていたのよ。」


オフィス「ああ、そこは気にするところではないからさ。」


ポスト「……テキトー、テキトーな質問をした、したのよ!」


オフィス「えっ、ちが、誤解だよ、ポスト!」


ポスト「オフィスうううううううううう!!!!!!!!!」


オフィス「急に怒らないでええええええええ!!!!!!!」



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