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ポスト・オフィスに届く、彼らの冒険記  作者: モキュドレイク
読み聞かせ1 『歴史を求める者』
7/13

1-5 ユニットの三戦力

ハガルとブレンの合わせ技とサフメカ部隊の術がぶつかった後、サフメカはハガルへと向かっていく。部下5人はブレンの方へ。ドクターは遠巻きに様子を観察し始めた。


「ブレン、5人来たぞ。……俺が『竜剣』で倒す。」

「君の腕が使えなくなるよ。間をおかないのはまずい。」

「そう言ってられないだろう。さっきと同じ威力なら平気……」

「使うとしても、サフメカにしなよ。」


 ブレンが腿の短刀を抜き、囲まれないよう、サフメカと距離をとるようにハガルから離れる。素手の部下たちは皆一様に拳に水術を纏わせていた。


 まず1人が体制を整えるために、ブレンに突っ込む。ブレンは短刀を向かってきた1人へ投げた。予想だにしなかった投擲に回避がおくれ、足に切り傷が入る。1人がいったん脱落、残り4人。投げた先で短刀の刃が半分、石畳に刺さる。


 その間にサフメカ部隊2人が左右から挟み込むように攻め込む。足をけがした者へ、一人が応急処置をしにいく。その前にはもう1人が立ち、水術を練り始める。

 ブレンは右の相手に弾丸3発を撃ちこむ。至近距離から胴に向けて放たれた弾丸は水術の拳で防がれた。しかし、勢いはいなしきれず、後ろに吹き飛ぶ。残りは3人。

 その間にブレンの左から詰めた者が殴り掛かる。水術の拳、固めた水。ブレンは銃の持ち手部分に指を入れ込み、そのまま鉄拳をお見舞いする。またも予想外だった銃使いの動きに、なすすべなく殴り飛ばされる。残り2人。


 完成した水術の弾をブレンに放とうとしていた者は、殴りを入れたブレンの逆の腕が何かを引くように動くのを見た。斜め後ろから仲間の「後ろ!」という声に反応し、振り返ると、先ほどの短剣が戻ってきていた。

 そのままわき腹を切りさかれ、痛みを感じながらも、ブレンに向けて水術の弾は放つ。ブレンはなんなく回避。痛みに耐えられず、膝をつく姿を見て、一旦は残り1人。


 細いワイヤーで短刀を手元に戻し、短刀の血を払って納刀。ブレンはジャケットを直して、睨みつけてくるサフメカ部隊にこう告げた。

「接近戦で殴り合う方が好きさ。」

 ブレンはいくつかの武器を組み合わせて自分にとって良い状況をつくり、殴れる銃で一撃を加える。それが基本の戦闘スタイルだった。



 サフメカとハガルはつばぜり合いのような状態になっていた。刀に対し、サフメカは水術の両腕で刀に対抗する。

「あいつら、町のやつらとは遊んで相手するから痛い目見るんだ。いっつも口酸っぱく言ってたんだぜ。なあ。」

「俺に話しかけてんのか?あんた相手して話すのは大変なんだ。」

「つれないねえ。答えられるだけ、まだ余裕あるだろ。」

「あんたはそれ以上に余裕だろうが、サフメカ。話題ふってくるんだから。」

「ああ、俺の名前は知ってたのか。サフメカだ。よろしく……」

 なっ!と声を出し、ハガルを押し返す。そして腕に纏わせた水術を口に含み、ほおを膨らませる。


 まずい。距離が近い。そう判断したハガルは背の後ろに刀を回して振りかぶる。サフメカはハガルの予想通り、含ませた水を一気に放ってきた。

 細く、するどく、一本の水の束がハガルを貫かんと迫っていく。


「竜剣の三、尾墜!」縦の斬撃が、水の束を両断していく。

 直観で嫌な感じがしたサフメカは、すぐさま水を吐き切り、横に跳び避けた。回転し、受け身をとる。その顔に冷や汗がつたう。



(何だってんだあの風の技。ちょっとおかしくねえか?)

 サフメカの経験上、自分の技に対抗できる者はそれなりにいたが、どうも異質に感じた。

(さっきの合わせ技の方が威力はあった。ありゃ相性もあるが防げたぜ。……けどよ、今のはくらったらだめなやつだったな。)

 威力は低いが、切れ跡をみると、その場のものが消えていったように思える。



 サフメカは興味をもって聞いてきた。

「おい、今の何だ。そんな技使うやつ見たことねえ。どこで覚えた。」

「……あんたは覚えられない。俺のは借り物の力さ。」

(借り物?それでこれかよ。いいね。)

 サフメカの継戦意欲がどんどん高まる。その一方で、ハガルは焦りを感じていた。

(右腕の感覚が薄い。握る力も弱まってきた。くそ、もう少し後で放つつもりだったんだが。)

 ハガルの刀の白竜の紋様が光る。紋様は、刀の持ち手からハガルの右腕を食らったかのようにじわじわと伸びていた。


 ブレンの方は収まったようだが、まだサフメカ部隊全員やる気あり。そして忘れてはならないのが、サフメカと同じ幹部、ドクターがいる。ムウもいないこの状況、厳しいか。



 その時だった。ドン王国の正規部隊が応援に駆けつけてきた。吹き飛ばされた兵たちが、最寄りの部隊を呼んでくれたらしい。サフメカがそれを見て、残念そうな顔をする。


「あー。めんどうだ。ドクターもいるし全く問題ねえんだが、あいつらのこともあるし、城に戻るか。」

 サフメカはそう言うと部下の方へ水術で加速をつけ向かっていく。ブレンはそれを見てハガルの方へ向かい、サフメカ達とハガルの間に立ちふさがる。


「また戦おうぜ。俺は本気の獲物持ってきてねえし、今度は、全開でな。」

 その言葉にブレンは驚く。十分に強さは伝わってきた。部下は何とかなる。だが全開のサフメカと、さらに人数のいる部隊には、てこずるというレベルで済むだろうか。

 ましてやドクターは全く底を見せなかった。ブレンが目をやると、もうあきたのか、すでに城へ向けて歩き出している。サフメカ達もそれに続いていく。

 

 城へ戻る前、サフメカがふりむいて、気さくに話してくる。

「おう。名前。聞けてなかった。」

「……ブレンだ。」

「ハガル。」


 その名に、記憶を思いおこすサフメカ。

(あー、もしかしてベー大陸のあいつらか?おもしれえ。)

 そう考え、2人にむけてにっと笑う。

「よし。覚えたぜ。本当、また戦おうぜ。……あーその腕、治しとけよー。」

 ハガルの腕のことも気づかれていた。それ以上は何も言わず、ユニットの一団は戻っていった。


 周辺にはかなりの被害が残った。ハガルには力を放った代償がきていた。ブレンは心配そうにハガルの右腕を見つめ、解呪薬を腕にかける。

「……別にかけなくてもいい。俺の腕は時間が経ったら治っていくんだから。」

「ほんの少しでも効果はあるさ。……前よりも、ずっと、浸食が早くなったね。」

「俺がこれってことは、ムウはもっとってことさ。……悪いな。」

「何とか、どうにかして、ユニット撃退しなくちゃな……。早く手がかりを探さないと……。」


 ユニットの想定以上の強さ。それに焦り苦しい表情を見せるブレン。解呪薬をかけてもらい、少しずつ右腕の感覚が戻っていくハガル。薬が身に沁みつつ、ハガルはどうユニットと戦えばいいかと、悩むのであった。









 そのころ、ムウは水のしたたる暗い道をハルと共に進んでいた。

 ハルの教えてくれた抜け道とは、湖の中にあった。ハルの家から森をぬけ、湖をはさんで、少し小高い丘の上にクレーブ城が見えた。

 森と湖のはざまに枝分かれがやけに多い木が生えており、その木の洞から土の下にもぐる道が続いていた。滑り降りた先には誰がつくったのか、3人程度がすごせる空間があった。松明が備え付けてあり、隠れ家のような雰囲気だった。

「この松明使っていいよ。」とハルが言うので、ムウが明かりをつけ、空間の奥にある城へと続く道に入った。湖の下にできた、水がしたたり落ちる道だった。



「城に着いたらね。大きな部屋と通路につながる隠し道みたいなとこに出るんだよね。通路の方に出て左に向かえば、突き当りに資料室あるよ。」

「そーなんだねー。ありがと、ハル。」

「うん!」


 いよいよ目的の歴史文書を手にできる。そう思ってハルはわくわくしていた。一方でムウは楽しいハルの気持ちを受けつつ、いかにハルを守るかを考えていた。

 見張りは、強い敵は、そもそも歴史文書がすぐ見つかる場所にあるのか。

 不安要素は多い。出たとこ勝負は得意だが、ハルの言葉を聞いての突入は安易だったかもしれない。


(でも、ハルのあの気持ちには答えてあげたいと、気持ちが燃えちゃったから。)

 もうなるようにしかならない。城に近づき人の気配が感じ取れるようになる。しばらくして、土の道から石造りの壁と道に合流した。クレーブ城に潜入成功。



 城の石造りが見えるようになってきて、ムウはハルに注意点を話す。

「ハルはムウのマントに隠れる位置にいてね。ムウが抱きかかえて移動する。」

「そんな子どもみたいに……」

「安全のためー。私の方がずっと速いし、慣れてるから。……ムウになんか伝えたかったら体叩いてね。」

「……でも!」

「いうこと聞かない子は、今抱えて、戻っちゃうぞー。」

「うう、分かったよ。」

「よーし、よし。」



 マントの内へ隠すようにハルを抱きかかえる。ハルには見えないところで、冒険者ムウの顔つきが変わる。

(さてと、通路に出て左……何だけど、匂い的に見回りいるねー。どんな人かな?)


 そっと気付かれぬようにムウは通路を見る。斜め右は明かりのついた部屋、談話室だろうか、扉の奥から話し声が聞こえる。右奥は突き当りに上への階段と、奥まった部屋への通路。談話室の手前に、城の正式な入口が見えた。見張りが4人いる。外にもいるようだ。

 左の突き当りはハルが言ったように扉が見える。ただ、木の扉と聞いたが、鉄製の物々しい扉だ。その途中に2つほど部屋の入口がある。ムウ達に近い方が大きな入口だった。


(ハル、こっから目向けて、出すぎないように。……左奥の扉と、手前の大きな入口何かわかる?)

(あの奥が歴史文書ある部屋だと思うけど……あんな扉じゃなかったよ。手前は王様の部屋だったはずだよ。玉座がある広間みたいなとこ。)

(オッケー、オッケー。まあ、行けそうかな。)

 見回りの人をこっそり気絶させるくらいならできる。無理をしない短時間での探索予定だ。これなら何とかなる。


 そうムウが思っていたところ、玉座の間の奥の扉から、料理を持った人物が出てきて、談話室の方へ向かっていく。

「おーい、飯にしようぜ。」

「クウ。今夜のは何だ。」

「悪いな、昨日と同じだ。今日ボウト達が食料とってくるからよ。」

「うえー、昨日の飯、俺苦手なんだ。」

「あんたたち、しゃべってないでさっさと部屋入んな。」

「バクノ、見張りいいのかよ。」

「大丈夫よ。みんなでさっさと食べましょ。」

「そうすっか。」



「チャーンス。」

 ムウは部屋に入っていく見張りを見届け、気配を探る。今のところ気配なし。目につく範囲の人たちは全員お食事中だ。


「一気に行くよ。」

 左奥の部屋の入口まで音もなく駆けていく。鉄扉の前について、鍵の有無を確認。なし。扉を開ける音が気がかりだったが、なんとか気付かれずに部屋へ入ることができた。


 入ってからムウとハルは目を丸くする。そこは確かに歴史の資料室だが、何かしらの器具が立ち並ぶ部屋だった。ぱっと見たところ、歴史文書と思わしき物は見当たらない。


 2人は知らなかったが、資料をそのまま読めるということで、現在はドクターの部屋となっていた。そしてドクターが勝手に資料を並べ替えてしまっていた。


 探してみるも、歴史文書は見つからない。時間が経ちすぎれば、見張りがまた部屋から出てくる。そうなれば突き当りのこの部屋から脱出することが難しくなる。ハルもそれが分かっていて焦るが、探せども歴史文書は見つからない。



 その時だった。階段を下りる足音がムウの耳に聞こえた。そのままこちらの部屋へと近づいてくる。

 ムウはハルを抱き寄せ、扉が開いたときにすりぬけられる位置へ潜む。小さなハルから大きな鼓動が伝わってくる。

 神経を研ぎ澄ませるムウ。足音は玉座の間に入っていった。


(ごめんねハル。また来るから。時間切れみたい。)

 ハルはムウの体を優しく、リズム悪く叩く。分かったという合図と判断し、ムウは脱出について考える。

(さっきの足音は一人分。まだ、さっきの見張りをしていた人たちは部屋の中……)

 玉座の間の扉は開きっぱなしだった。広間があり、その奥に玉座がある吹き抜けた部屋。入り口側を先ほどの足音の人物が見ていたら、隠れるすべがない。

 姿を見られてでも、何とか隠れ道に入り込むしかない。最悪、ハルをそこに入れ込めば、自分が暴れておとりになることができる。


 ムウは覚悟を決め、左腕のみでハルを抱きかかえなおす。部屋に近い右腕は自由に、ハルを守るために。ハルはマントの中で強くしがみついてきた。

 勝負は一瞬。駆ける音は静かに、できうる限りの最速で。ムウは部屋から出る。玉座の間を通る。様子を見るため、少しだけ顔を右に向け部屋の中を見る。



 玉座に男が1人座っていた。うなだれ、両膝それぞれに腕がかかり、手を組んで、顔はうつむいていた。男はムウの気配に気づき、少しだけ顔を上げる。

 ムウは男と目が合った。黒いガラス玉のような目。先ほどの見張りとは違い、完全に人の匂い。ハガルより少し高いであろう背丈。服装はいかにも冒険者と言った風貌。


 目が合った瞬間、背筋に悪寒が走る。

 男に攻撃の意思はない。ただムウを見ていた。


 それでも、ムウは更なる全力で駆けた。

 もしも襲ってきたら、ハルを抱えたこの状況で戦っては絶対にいけない。1人では絶対に無理だ。ハルが傷つくかもしれない、そんな甘い考えだけでは絶対に済まない。


 隠れ道に入るまでに少し力を入れて踏み込んだので、城の通路で砕けた音が響いた。ムウは迅速に、しかし確実に隠れ道に戻り、なりふり構わずに湖下の暗い道を走っていった。



 踏み込んだ足音を聞いて、談話室からサフメカ部隊の面々が飛び出てくる。幸運にも全力だったことで隠れ道の存在に気付かれず、姿も見られずにムウ達は逃げることができた。

 壊れた跡を見て、誰かがいたことを話そうとしたとき、玉座の間の男が通路に出てきた。サフメカ部隊は驚き、言葉につまる。

 勇気をもって、バクノが代表して男に質問する。

「……侵入者のようです。手がかりをご存じないですか。」

「…………分からない。…………だが、いい。」

「そ、そうですか。」


 短い会話の後、持ち場に戻れ!痕跡を探せ!と散っていくサフメカ部隊。男はそれには目もくれず踏み跡を見ていた。大きくため息をつき、灰色の石天井を見つめる。



 数分そうした後、壊れた通路にふれる。通路が何事もなかったように、元の状態へと直っていく。

 そうして男は玉座の間へと戻っていく。

 ユニットリーダーのユウにとっては、ムウの侵入など、心底興味をもてないことであった。









ポスト「私もお城に住んでみたい、みたいのよ。」


オフィス「そしたら、この思い出の家ともさようならだねー。引っ越しの準備しよっか。」


ポスト「……いじわる、いじわるなのよ。あなたとの思い出の、思い出いっぱいの……」


オフィス「ポストごめん!泣かないで!すーごい大粒の涙こぼれてる!ごめん!!……本当に、ごめんなさい!!!!」

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