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ポスト・オフィスに届く、彼らの冒険記  作者: モキュドレイク
読み聞かせ1 『歴史を求める者』
3/13

1ー2 クレーブの依頼

 ベルドンクレーブ街道。ベルの町からドンの町に向かう途中でクレーブへの道が見えてくる。森の中を抜け、動物のねぐらが見える場所を通るなど、自然豊かな道だ。そこを抜け、風車小屋が見え始めたら、クレーブの町である。


 作物や動物を育て、その恵みで生きるのどかな町。主な特産品はギーヤからとれるミルクとその加工品だ。最近はドン王国の戦いもあり、足が速く頑丈なホーウスも育てている。ドン王国が近くにあり比較的安全。雰囲気に惹かれるところもあって、アル大陸の名所の1つである。


 石畳が続く町の通り。人とぶつかりはしないが、活気が感じられる数の人たちが暮らしている。そんな様子が伝わってくる表通りに、宿屋は建っていた。


 町に着いたハガル達は、荷を宿屋に預け、まずは情報収集と腹ごしらえをすることにした。


 冒険者の集会場は町の雰囲気に合わないということで、広場に依頼状を出す形式になっている。宿の食事場でウエイターからそんな話を聞いた。


 サービスで食前に提供されたギーヤのミルクは甘く、旅の疲れを癒してくれた。肉は独特の臭みがあったが、食事場の香料をふり、少しのしょっぱさをつけると程よい味。

 ハガル達はおいしいご飯を十分に頂いたのだった。


 幸運にも宿屋の代金と合わせてぎりぎり支払いをすませることができた。ムウが大盛りを頼んだから、のこりの手持ちは7文だ。


 いよいよ、お金をためねばいけな…「値切ってミルク瓶4文で買えたよー!」


 カウンターのお姉さんと何か話していたムウは、「カウンターのミルク、買いませんか?」と、そう持ち掛けられたようだ。得意げなムウとカウンターのお姉さんがこちらを見ていた。


 (……なんでムウに支払いを任せたんだ)

 ブレンの目がハガルにそう伝えていた。


 (3文だとほぼ何もできないぞ……報酬金の前借り交渉が必要か……)

 ハガルは頭を悩ませ、2人をなだめながら広場に向かった。




 広場の連絡版の右上の方に目的の依頼状を見つけた。左から右に、下から上にかけて新しい依頼らしい。

 ハガルは見つけた依頼状の内容を読み始めた。ブレンは周りの町民に何やら話を聞き、ムウは古い依頼をずっと眺めていた。


 依頼状

「依頼人 ジュー・クレーブ 依頼内容『クレーブ城について』

 詳細は町長の家まで 外部の者 素性問わず 口外禁 命望」


 このように書いてあった。


 冒険者が依頼を受ける場合、所属と身分を明かす必要がある。例えば、アル大陸機関登録の冒険者「スミノフ」といった感じである。それを証明するのが冒険書である。


 それらを管理するのは世界機関オメガ。各地の大陸機関に登録所を設けている。


 冒険者たちは個人やチームで登録を行い、審査の後に冒険書が手渡される。一定以上の地位になると名が知れ渡り、個別の依頼も来るシステムだ。


 だから、「どこどこで戦果をあげた武人でー」といったように、情報は載せられるだけ伝えるのが一般的である。


 情報の是非を確かめるために、審査待ちが数日間生じる場合もある。待つことになっても、良い冒険書は依頼を受けやすくなるメリットがある。


 とにかく、冒険者なら必ず持つべき物であり、活用すべきシステムである。


 ハガル一行も冒険書を持っている。ただ、非常に簡素なものである。内容を伝えると、「べー大陸機関登録。ハガル、ムウ、ブレンの3人組です。」である。3人がいるアル大陸の依頼人からすれば、「隣の大陸から来た3人組です。」と読み替えられる。


 これだけである。べー大陸の登録受付では困惑の表情を向けられた。


 3人は名を広げられたくないため、「ゴウコク」の名を使わずに登録した。


 依頼人に断られることも多い。実力が読めないからである。一方で、素性がよく分からないから、依頼を受けられることもあった。



 依頼状の通り、町長の家へ向かうために、3人は歩みを進めていた。


「この依頼の出し方なら、受けられそうだな。」

「大丈夫なのか?僕は妙な感じがぬぐえないぞ。」

 ハガルの言葉に、ブレンが切りかえした。

「別にいーじゃん。大事なのは歴史者のことなんでしょー。」

 ムウが口をはさむ。今は旅の主目的に考えがむいているようだ。

 ただ、ムウがそれとは別のことを考えていると、つきあいの長いハガルは感じ取っていた。


 ブレンはそんなムウの思いには気付かず、懸念していることを伝える。

「まず、町長の家に『素性の知らない外部の者を直接』というのが気になる。それなりの町なんだ、まず素性を確認するだろう。」

「誰でもいーんじゃないのー。というか、町長が出てくるとも限んないんでしょー。」

「そこで、頭回せるなら、いつも、そうしてくれると、僕らは助かるんだ。」

「はっきり言えばいいのにー。」

「何だとお!」


 (またか。)とハガルは思う。ブレンはカッとなりやすいし、ムウは大雑把な部分が言動に出てしまう。そこでかみ合わないんだよなこの2人。


「話が進まない。ブレン、続けてくれ。」

「……ふー。町民に見られても平気な内容なんだろう。広場に貼ってあったから。」

「そーだねー。町の人もいっぱい見てたもんねー。」

「だけど、口外禁。依頼内容を言うなだ」

「町長が、何か知られたくないんでしょー?私はそう思うけどなー。」

「ムウ。だったら冒険者にこっそり声かけりゃいいんだ。町人に見られる場所には貼らないよ。」

「あー。あー?…うん。そうかもー。絶対そうとも限んないけどー。」

「依頼前にはいろいろと考えるべきさ。町の人は知っているが、それ以外の……クレーブをよく利用するやつには知られたくないとかな。」

「んー。んーーーー。あっ!城に住んでる人とか?」


(クレーブの町は元々城下町なんだ。今は使われていない城に住み着いた者から町を守ってほしいという依頼だ。)


 ハガルはクレーブを目指す理由を話した時のことを思い出していた。


「そうだ。」とブレンが続ける。

「本題は城に住むやつらを倒すだと思う。城に住むやつらには知られたくない。新しい依頼状だったのも、毎度貼り替えているからと確認もとれているしな。」


「ああ、右上にあったのはそういうことなのか。」とハガルが言う。

「考えすぎかもしれないが、一応な。城のやつら、昼間は広場にこないらしいから。」とブレンが言い、続ける。


「町人もそれは分かっている。多分そんな依頼だろうと。ただ……」

「ただ、何だ?」

「町民の町長への反応が、『それとおそらく…』みたいに言葉をにごすんだ。それで気になってな。」

「城のやつら、ではなく町民に言えないことか?」

「クレーブの町には何かある。そう感じ取れてしまうところがあるんだ。」



 途中でついてこれなくなったのか、黙っていたムウがようやく口を開き、

「まあー、町長さんのお家で話を聞けばいいでしょー。何とかなるってー。」とふんわりまとめた。

「僕は、君たちのことを考えてだな!!なんでそう雑にまとめる!」

 またいつものやりとりに戻った頃、町長の家が見えてきた。


 ハガルもブレンが言うように思うところはあった。しかし一番は依頼を達成して、歴史者について調べる許可をもらうこと。

 そう考えて、ハガルは町長の家への歩を少し早めた。



 町長の家は石造りの二階建て。広い庭をもち、裏手にはホーウスの育成場が見えた。


 鉄門の近くにいた守衛に声をかけ、依頼状を見せると、少し待つように伝えられた。

 依頼状の詳細については、町長が直接話をつけるらしい。ブレンはそれを聞き、眉をひそめていた。

 とにかく、言われたように3人は門の前で待っていた。


 

 その時、少女がこちらをじっとにらみつけていることに気付いた。


 顔のくしゃくしゃ感からも、中々のいらつき目線だ。よそ者に目を向ける町民かと思っていると、一転して、駆け寄ってきた。戸惑う間もなく、少女は近くに来ると質問をしてきた。


「お前ら、町長の依頼、受けんのか。」

 唐突な質問だが、ブレンが答える。

「ああ、そのつもりで来たんだよ。僕らが気になるよね。」と優しく答える。


 その返答は勢いのよい蹴り上げだった。


「やっぱりかあ!!」

「あぶな!」とブレンは軽く避ける。


 その勢いで少女は飛び上がり着地。着地で膝が曲がった勢いを生かし、ムウに突っ込むつもりのようだ。

 ムウは避けようとして、後ろに鉄門があることに気付き、向かってくる少女をなんなく受け止めた。


 受け止められた少女は「お前らふざけんな、ふざけんな!」とムウをぽかぽかと叩き、もごもごと叫んでいた。


 ハガルとブレンはどうしたものかと顔を見合わせ、ムウはなぜか考える顔になっていた。

 

 守衛が戻り、少女に気付くと「ハル!何してるんだ!」と声をあげた。その声をきいた少女ハルはムウから離れ、町とは反対、はずれの方へと走っていった。その様子を見ていた3人に「すいません。町の問題児でして…」と、守衛は伝えてくる。


「町長が会って話をしたいとおっしゃっています。武器だけ守衛所に置いてもらいますが、よろしいですか?」

「構いません。」とハガルが答え、ブレンは町長の家に進み、ムウは少女の走った方へ向かっていた。


 何で!?とブレンの声が聞こえたが、ハガルも同じ思いであった。すでに走り出したムウに向けて、「おい!どうしたんだ!」と声をかけると、「私、こっち行くか…らー…」と、どんどんと離れていく返事が聞こえた。


 ハガルとブレンと守衛の3人。

 守衛が沈黙を破り、「後にしますかね?」と聞いてきた。


「……いえ、僕たちで話を聞かせてください。」とブレンは諦めたようだ。

 こうして町長の家の応接室に2人は通された。



 2人とは別の入り口から町長と護衛4人が入ってきた。「どうぞおかけください。」と町長が言う。


 動植物を育てているためか、少しガタイのいい人物だ。2人が座ると町長も向かいに座った。それを見て、町長は語りだした。


「はじめまして、私はジュー・クレーブ。クレーブ町長を務めています。…話を伺うのは3人とお聞きしていましたが?」

「申し訳ない。えーと、…飛び出してしまいまして。依頼状に口外禁とありましたから、出直した方がよろしいでしょうか。」

 ハガルが町長の様子をうかがいながらたずねる。

「……まとめてご依頼を受けるのであれば問題ありません。形式がありますから、素性をお教えください。」

「私はハガル。隣はブレン。飛び出したのがムウと言います。冒険書はこちらです。」


 護衛が冒険書をハガルから預かり、町長に渡す。町長は「ほう、べー大陸の…」とつぶやく。笑みが見える。都合がよかったらしい。


「ありがとうございます。依頼人として、依頼を伝えられると判断しました。…依頼内容の途中から口外禁となります。その話の前にお引き受けできるかを伺います。」

 町長の話に「分かりました。」と答えると、一息おいて、町長は話を続けた。



「クレーブの町。ここは城下町だったということをご存じですか?」

「ええ、存じております。そして、今がどうなっているかも。」

 ハガルの答えに話が早いといった表情を見せる町長。

「そう。その城は今やある組織に奪われました。その組織は『ユニット』と名乗っています。」

 聞いたことがない組織だ。単なる撃退依頼、そう2人は判断し始めた。


 しかし、次に町長が告げた言葉は2人にとって無視できず、この依頼を引き受けるための強い覚悟を決めさせた。


「『ユニット』のリーダーは『ユウ』と言います。…城主となった彼は、…『守り人』です。」


 2人は思いがけない言葉に目を見開く。

 歴史者に連なる者。歴史者を守る者。それが「守り人」だった。


 町長は2人の様子をじっくりと観察しながらこう告げる。

 「命望。命を懸けさせるという意味がお分かりになったと思います。」

 ハガルは眉をひそめ、ブレンは真剣な表情になる。


 町長は座り直し、2人に語りかける。

 「それでも、どうか依頼を引き受けてほしい。このクレーブの町を守るために。」





 その話がされたころ、ムウは少女ハルを追いかけていた。彼女に聞きたいことがあったからだ。



 ハルは泣いていた。大人はだれも分かってくれない。お父だって、今はもう……

 やりきれない思いで走るハルは、後ろから威圧感を感じ、泣き顔で振り返った。

 


 すさまじい勢いで駆けてくる大柄の女性がそこにいた。



 「うわああああああああああ!!!!!!!」と泣き顔に、目玉が飛び出るほどの驚きが加わり、ぐちゃぐちゃの顔を前に向け、死に物狂いでハルは走る。

 ムウは「待ってー!!!」と叫びながら距離を詰めていく。

 



 追いかけっこは、町はずれの小さな家の前ですぐに終わった。

 (煙突からいいにおいがするなあ。これはギーヤのミルク料理だなあ)と、ムウが考える腕の中で、ハルは必死にもがいていた。


「離せ!何すんだよ!ぶっ飛ばすぞ!」

「いやー、聞きたいことあって……いてて、あっ。」

 ムウはパっとハルを手放した。ハルはムウと距離をとり、涙目でにらみつける。

「何だよ!聞きたいことって!私がどんだけ問題児かってことか!!」

 ハルは少しずつ感情を昂らせながらムウに言葉をぶつける。

 

 (なんだかー、知っている感覚だなあー。)と、ムウはハルを見ながら思う。

 幼く、どうしようもなく。だから今は感情をぶつけるしかできない少女。


 最初からそのつもりだった。でもムウは心に決めた。ハルのことを必死に生きる1人として接した。


「あなたの依頼について聞きたかったの。」

 ムウの言葉にハルは虚をつかれた。唖然とした顔に変わっていく。その顔が歪み、下を向く。


 表情豊かな子だな。面白いな。と、ムウは思うが、大切な話の途中だ。

 ゆるんだ気持ちを引き締めなおす。ハルに本心を偽りなく語る。

「もう古くなった依頼。左下の隅っこに寄せられた依頼。誰も見ない依頼。」

「……そうだよ。誰も見なかった。見て見ぬふりをした!それが何だよ!!」

「でも私は見つけたよ。そして、依頼人に話を聞きに来た。」

「…どうせ自分に都合よくいくところが、あったからだろ!」

「そうだよ。私が心惹かれた一文があった。そして、あなたの叫びが書いていた。」

 本心だった。ハガルとブレンの依頼探しも大事だったが、ムウはあの瞬間、心をつかまれていた。


 ハルはムウの言葉を聞く。顔をふせているが、その場からは去らない。

 涙がこぼれている。

「…も、もう遅いんだよ。町長の、依頼、受け、ちまうんだから。」

 泣き声でうまく言葉が続いていない。ムウは答える。

「そうかもね。でも、それでも、私は聞きたい。」



 ハルは顔をあげる。迷いと、不信。

 でもムウは彼女の眼の奥にすがるものを見つけていた。



 ハルは聞いた。ムウを試した。望む答えが聞きたかった。

 「ハルの話を信じてくれるの?」


 ムウは答えた。ハルに伝えた。本心が、望む答えを告げた。

 「ムウは信じる。あなたは心のままに伝えてくれるから。」


 ハルは感情の抑えが外れ、泣き崩れた。

 少女のほしかった。言葉。


 ムウが近寄り、抱きしめる。

 ムウはハルの依頼状を思い出し、優しく、力強くハルを抱きしめた。

 





 依頼状

「依頼人 ハル・シキ 依頼内容『歴史文書を一緒に取りに行こう』

 歴史文書がないと、クレーブの町がクレーブの町じゃなくなっちゃう。

 お願い。一緒に行こう。怖いけど。勇気を出そうよ。

 私は好きなんだよこの町が。だからお願い。依頼を受けて。



 このクレーブの町を守るために。」

 

ポスト「……何か聞きたいことない?ないの?オフィス?」


オフィス「いいところなんだけど…」


ポスト「オフィス???」


オフィス「…『守り人』ってナンダロナー」


ポスト「!!!!!ポストにとっての!!!!!オフィスのこと!!!!!!!」


オフィス「ソウナンダースゴイネーポストー」


ポスト「うん!!!!!オフィスはすごいの!!!!!!!!」


オフィス「あっ、そっち?」


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