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ポスト・オフィスに届く、彼らの冒険記  作者: モキュドレイク
読み聞かせ1 『歴史を求める者』
13/13

1-11 開演の音に、耳をふさぐことはできない

「シア姉はね、私がもっとちっちゃい時、えーっと、お父、お母とハルが一緒にいた時くらいかなあ?そのぐらいに会って遊ぶようになったの。」

 ハルが語るシア姉とのなりゆきを、ムウはしっかりと聞いていた。



「それでね?お父は町のためにいろいろしてて、その時にお母が倒れて……、それからね、お母の近くにお父はずうっといたの。ハルもいたんだよ!でもね、ハルはね、つらそうなお母と一緒にいるのがつらくなっちゃって……。」



 しょぼくれ始め、少し影さす顔、うるうるとした目になっていくハル。



「……お父もつらいけど、ずっとがんばって診ていてね。お母は笑ってくれてたんだけど……。なんだか、なんかつらくなっちゃたの……。」

「家族がさー、つらいのはさー、……耐えられない人いるからさー。」

「……うん。ハルそうだったんだと思う。」

「きっとそうだと思うよー。ねー。うーん。……そっかー。」

 ムウは自分の過去を思い出しながら、湧いた言葉を口にしてしまう。



「……助けてくれる人、探しちゃうよね。」



 ハルはムウから湧き出た言葉の真意にはたどり着けない。ただ、ハルが別の話へつなげる切り口としては十分だった。



「うん。そうだったんだと思うんだ。探してたんだ。……ムウが来た時みたいにさ。……お母が倒れてた時も、探して、見つけた人がシア姉だったんだ。」

「なんで、シア姉とそんな風になっていったのー?」

「うーん。シア姉とは、あのお城への秘密通路の近くで会ったの。シア姉はお城の方を見ててね?背中がすごいきれいでね?ぼーっと見てたハルに気が付いて振り返ったときに、……お母みたいな、やさしい笑い顔をしてくれたの。」

「へー。いい人そうだねー。」

「うん!シア姉いい人!そっからシア姉が、えーっとねえ、んーとたしかね?『ここは町外れよ。迷ってしまったの?』みたいなこと言ったんだ。」

「あー。あそこは知ってる人か、迷った人しか行けないもんねー。」



 ということは。



 そのシアと呼ばれる女性は、ハルが知っていた城への秘密通路、それを知る人物。で、あるならば、クレーブ城に関わる人物ではないか?

 ……ムウは頭を働かせる。ハルを守る、今は頭の大半がその考えでうまってしまっているムウは、シアという人物とクレーブ城の関わりから、勘を働かせる。

 (なーんか、きっと、うん。これ、『守り人』とかドクターとか、サフメカとすっごく関係ある人なんじゃないのー?)



「……ねえ、ハル。」

「んえ?どしたのムウ?まだとちゅうなんだよ!」

「ごめんねー。でもさ、先に聞くんだけどさー。あの秘密通路の部屋みたいなところあったでしょー?それって、シア姉知っていたりするー?」

「ええ!?ムウ、そんなこと分かるんだ!そうなんだ!あそこはシア姉達の部屋って言ってたよ!結局ハルとシア姉で遊んでいた部屋だったけどね!」

「ムウねー、ハルが思っているよりはお姉さんだから分かるんだよー!」



 大分ハルに下に見られていると気づき、悲しくなるムウ。だが、その悲しみを引きずって聞き逃しはしない。

(シア姉、「達」。そっかー。『ユニット』の仲間、そのパターンかもなあ……。)



 ムウの勘は当たっている。ただし、今、姿が見えない理由までは分からない。ハルがこれから紡ぐ言葉に、その理由がはっきりと語られることはない。



「シア姉はね。本当に優しかったの。ただいてくれて……、なんでかつらい時に気付いて、散歩してくれたり、嬉しいことを言ってくれたり……、どうしてあんなによくしてくれたのかなあ?とってもよかったなあ……。」

「んー?でも、ムウさー、シア姉とは一回も会ってないよー?どこいっちゃたのー?」



 踏み込んで質問するムウ。当時、ハルの心の支えとなっていた人物。今は姿が見当たらないということは、何かが起きたのだろう。そこをハルに語らせるのだ。

 本当に心から、ハルに対して、悪いことしていると気づいている。だが、聞いておかなければいけないと、ムウは思っていた。



 ムウの言葉に対して、ハルの話のリズムが崩れた。まずかったなと、ムウが思う間もなく、ハルの表情が変わっていく。また、しょぼくれたハルの顔を、見ることになってしまう。ムウはそう思い込んでいて、聞いたことを、とても後悔し始めていた。


 




 変だ。ハルは、見たことがない表情をし始めた。その表情の変化に気付いたムウは、違和感を感じる。ハルの、……ハルの表情ではない。誰だ。そして、なぜ。なぜ、心が揺れる感覚が、襲ってきているのか。ぬぐいきれない、その自分に向かってくる違和感を強く感じる。



 ハルの表情はこわばらず、しょぼくれず、ましてや悲しみや諦めをみせたわけでも、あざけりや怒りをのせたわけでも、意外に嬉しさや喜ばしさを見せるわけでも、そのどれでもない。ムウが話の流れから予想できる、そんな表情じゃない。




 何かがハルの表情をつくっていた。今だけ、ハルは昔話をする少女ではなく、物語を語る女性の顔を見せていた。あどけなさやかわいさが残る、背の低い少女の顔に、不釣り合いな大人の表情がのせられている。そう見える。おぞましくも、ひきこまれる様相。




 彼女は、一つ、語り始めた。



「……望まなかった、そう、望まない力。だから、私は不幸を感じた。不幸を断ち切るには、この力を何とかするしかなかった。だから私は、私を演じることにした。悲劇を私がつくることにした。時が経てば、私と力はいなくなる。そうすれば、傷が残ろうとも、不幸は消え、未来に幸せがのこる。どうか、ただ目覚めさせないでほしい。ただの目覚めはいらない。目覚めるならば、ただ、劇的な目覚めを。それが、不幸を感じ、不幸を広げた、私の、一縷の望み。」






「ハル!!」

 ムウはとっさに、ハルの右肩を強く掴んだ。何かがハルの顔から、表情としてのっていた、何かが、消えさっていくようだった。



 ぼーっとしているハル。ムウが注意深く見つめていると、不意にハルが、いったい!と右肩をおさえ、子どものように、のたうちまわった。ハルに痛みを与えてしまた謝罪の気持ちよりも、ハルが子どもに戻ったと思える安堵の気持ちが、強く、強く、ムウの胸におりてきていた。



「わあああ!いったいよ!なんで急に痛くなったの!?ムウ何かした!?というか何かあった!?」

「……覚えてない?」

「覚えて……?何?あっ、ズキズキがじんじんになってきた、ふうーー。落ち着いてきたー。」


 ハルは仕切りなおして言う。

「何か急にぼーっとなっちゃて。……覚えていないよ。んー?何だろうなー?昨日の疲れかなあ?」

「……そう、かもねー。」



 何だったのか、ムウ自身、答えを得られていない。『宿し』ではない。かといって、『力』でもない。それらはムウにとって分かってしまうこと。違う。


(シア姉がいなくなった理由を、語る時にそうなるように……『仕込み』?いや、それよりも強かったよ。心にまで訴えかけてきたのは、……それは『仕込み』じゃ、絶対にできない。)



 得体の知れない『力』と呼ぶしかない。そこは無理やり結論付けたムウは、ハルの様子を観察する。体への異常がないかも、しっかりと見ていた。


 ハルは、うーん、と小首を傾げて考え、「まあ、いっかな。いててて……」と、まあ、いっかで鼻息をふんとだして結論付ける。その鼻息を出す動作が右肩に響いたのか、おおげさな表情を見せながら、肩をおさえていた。



 元のハルだ。何も変な所はない。ひとまずは、それで、よしと、しよう。……しかし。


(シア姉。事によっては、ハルをどうにかしてるな。注意しないと……。)

 一層、ハルから目を離せない。そしてここで、ムウは一つ決めた。



(ハガルとブレンに、ハルのことを頼もう。お願いして、……ごめんもして、協力してもらわないと、これ、ムウだけじゃダメだ。)


 きな臭さを感じているムウにとって、これから、ハガルとブレンと合流し動こうとしているムウにとって、ハルからずっと目を離さないのは、正直厳しい。

 彼らへの負担となるのは分かる。それでも、何とか頼み込まなくてはいけない。ムウはそう考えをまとめた。

 ハガルとブレンと話す時間が欲しい。今見たことも、きっと大事なことなのだ。ああ、急がなくてはいけない。



 ムウはそんなことを考え、クレーブの町の中心となる部分を振り返って見ていた。




 すると、警鐘に1人の人が登り、鐘を鳴らしに向かっているのが見えた。昼の時間だというのに、『ユニット』が、来てしまったのだ。



「まずいなー。ハル、ちょっとムウと急ぐよー。ムウ、宿の方にも急がないといけないから。」

「えー!?ハルの家、まだついてないよー?」

「そうなんだよねー。ギーヤの鍋食べたいんだけどねー。ちょっとよくなさそうなんだよねー。あの鐘のところに人が来ててねー。」

「……えっ!?城のやつら来たの!?まだ、まだ昼なんだよ!!変だよ、こんなこと一回もなかったよ!」

「そうだねー。だから、安全のためにも、いろいろと急がないとねー。……鐘が鳴らされるねー。ハル、また抱きかかえて移動するよー。」

「ねえー!また子ども扱いだよー!ムウー!!」

「ははは、我慢してよー。よいしょっと。」

「周り見えづらいんだよー!ムウのお胸のとこ!マントもつけてるしさー!」

「いやー、ねー。我慢してよー。さーってとー。」





また鐘の方を見る。






「……えっ。」

 ムウは小さく、驚きの声をもらした。



「どうした……の……?……ムウ?見せてよー。」

「うん。見せるとしても後でね。でも、聞こえちゃうね。」

「えっ?何?」






見せない。後でも見せたくない。でも、聞こえてはしまう。ああっ、くそう。


せめてハルの耳をふさいであげよう。そして、ここからは、何もかも、全速力だ。








 クレーブの警鐘にたどり着いた1人は、必死の、恐怖の形相で、自分にできうる限りの最速、そして限りなく力を入れて、警鐘を叩くつもりだった。回数や音の大きさのきまりなど、どうでもいい。とにかく、非常を、異常を、狂いを、みんなに伝えなくてはいけない。その使命感と焦燥感だけが、その1人を突き動かしていた。



だが、その1人は、鐘を叩けなかった。



しかし、鐘はこれまでにないほど、大きく、それはそれは大きく、誰も聞いたことのない、こわれた音を、轟かせた。



重なる音は、水がはじける爆発音。







警鐘に、強力な水魔術の大玉が直撃し、はじけた。


その1人は血しぶきをまき散らしながら、はるか遠くへ吹き飛ばされた。


鐘は、壊れた。でも、大きな大きな異音を、ただ一度だけ、鳴らした。


爆発音が響く。


鐘がズンと町に落ちる音を立てて、沈黙した。




町は、異音と血、飛び散る水によって、恐怖に包まれた。


鐘が重く落ちる音がきっかけとなった。




悲鳴という、人の奏でる音が、響き渡る。





クレーブの悲劇が、開演の音を奏でた。


















「もう、引き返せないさあなあ。」

男は、史劇の始まりの音を、静かに、確かに、聞きいっていた。







ポスト「…………」


オフィス「何だい?急に、不機嫌ポストだね。」


ポスト「ふざけないでほしい、ほしいのよ。」


オフィス「おっと、怒らないで。」


ポスト「歴史者が、あなたが、語らせるのは、違う。」


オフィス「そうだね。」


ポスト「……いったん寝る、寝るのよ。」


オフィス「興がそがれたのかい?」


ポスト「そう、そうなのよ。」


オフィス「分かったよ。続きは、また今度。」


ポスト「???お昼寝するだけだから、別にすぐ読んでほしい、ほしいのよ。」


オフィス「ああ、そうなのかい?どれぐらい?」


ポスト「4秒なの、なのよ。」


オフィス「昼寝とは?」



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